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第二話「沈黙の会話」

 さっきと同じ順番で隣同士、ちょうど二人分空いたスペースに腰掛けて、二人とも別々の方向を向く。二人はいつも、この時会話をしない。どちらかが言い出したわけでも二人で決めたわけでもないけれど、光はほぼ毎日訪れるこの沈黙が愛おしいのだ。二人きりでもないのに二人きりになっているように感じられて、油断するとにやけ顔を晒してしまう。

 深雪はだらっと手を下げて、無防備に口を開けている。思わずその口に、自分の口で蓋をしてしまいたくなる衝動にかられる。それでもやっぱりこわくて、そんなことはいつもできずにいた。深雪の無防備な口に蓋をする代わりに、キスしたいという衝動に蓋をして少しだけ俯く。

 光たちの真正面に座っている幼い二人が手をつないでいるのを見て、微笑ましい中、光は少しだけ羨ましい気持ちがあった。幼い時には手をつないで歩いたり「将来結婚しようね」なんてことも言えた。

 会話のない幸せな時間はあと一駅分で終わる。光が惜しむように隣を見ると深雪もこちらを向いて、目があう。二秒くらい見つめ合って、二人で同時に笑った。

 笑い終わると駅に着いて、光は深雪に続いて立つ。ドアが開くと二人はほぼ同時に足を踏み出してホームに降りた。駅からは逆方向だから、駅に着いたら二人とも違う改札に向かって歩き出す。いつも通りに手を振って、スカートを揺らして改札を抜ける。

 改札を抜けて乾いたタイルを踏むと、さりさりと軽い砂の音がする。聞き慣れた光の好きな音。音から目を上げると歩行者用の信号が点滅していたので光は小走りに横断歩道を渡る。

 口の中はまだ冷たくて、まるで夏に反抗しているみたいだ。甘すぎる赤いシロップとガリガリと荒い氷の粒の感覚が、また蘇る。じわじわと暑い空気を吸って、口の中の冷気を少し逃してやると、暖かさが心地よかった。少し上り坂になったアスファルトを真夏の太陽は真っ直ぐに焼き付けて、高い温度を与える。閉店した小さな薬局、古くからある駄菓子屋、光はいつも通りの景色に埋もれてしまうくらいにこの街に居続けている。

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