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久々にやって来たここは、学園の敷地内では外れに当たり、生徒はおろか、通りで働く人達ですら来ない所だ。それでも此処から眺める景色が好きで、一人になりたい時には来るのだが、今日は珍しく先客が居たようだ。
「これがこうなって …… あれが、こうだから …… えーと、こんな感じかな」
「ここで何をしている?」
「え?きゃっ!!」
突然、声を掛けたのが不味かったのか、声を掛けられた相手は、驚いて座っていたベンチから転がり落ちる所だった。咄嗟に手を差し伸べたから、どうにかなったものの、次からは気を付けねばと思った。
「え? あ、有難うございます。急に声を掛けられて、びっくりしちゃってスミマセン」
「いや、急に声を掛けたこっちが悪い」
初めて相手の顔を見たのだが、この顔 ……何処かで見た様な。それに ……その制服は、この学園の生徒か。真新しい感じもするから一年生って所だな。
「あ、あの ……私に、何か用でしょうか?」
「いや、特に用は無い。ここに人が来ている事が珍しくて声を掛けたまでた」
「そうでしたか。私は何度も此処へ来ていますが、確かに誰かが来た事は、有りませんでした」
「一人でここに来てる?」
「はい。私は元々引きこもりしていたせいで、人との付き合いが時々息苦しく感じる時があり、そう言う時には此処へ来てます」
「俺も似た様な感じだ」
「そう言えば、自己紹介がまだでした。私は、この春から白薔薇学園に通い始めた、一年生の雪村 葵と言います」
「俺は、3年の皇 新」
「皇 ……先輩ですか」
「俺の事は、新と呼んでくれて構わない」
「それでは、新先輩と呼ばせて貰いますね」
「ああ」
「それでは新先輩。これからも宜しくお願いします。あまり長居してしまうと、先輩達に怒られてしまうので、先に失礼します」
「日も落ちてきたし、気を付けて帰れよ」
「有難うございます」
彼女は持っていた書類を片付けると、学園の方へと歩いて行った。それにしても彼女 ……何処かで見た様な。名前にも覚えがある。何処だったかな……
「皇先輩、ナンパですか?」
「颯斗か。見ていたのか?」
「途中からですがね。先輩が部屋に戻らず此方に向かっていたので、後を付けてました」
「質が悪いな。ナンパでは無いが、こんな人気も殆ど無い所で、女の子が一人で居るから声を掛けたまでだ」
「それをナンパと言うのですよ」
「それよりお前、こんな所に居ても良いのか?」
「東條先輩からは呼び出し有りませんよ。先輩は、デートに出掛けられましたから」
「どっちが女誑しなんだか。それより、颯斗は彼女作らないのか?」
「そんな暇有りませんよ。それに、好みの子が居ませんから」
「ああ、東條家に仕える身だからか?」
「それも有ります」
「翔相手じゃ、疲れるだろう?」
「それは言えません」
「成程。さて、俺達も帰るか。こんな所に、男二人だけというのは、つまらんからな」
「そうですね」




