王子が不幸になる婚約破棄~このイケメンは、どこのだれ? 編~
『王子が不幸になる婚約破棄~ ○×編~』と似たようなタイトルがありますが、それぞれが別の話になっています。
続きはありません。
ある日の午後、休憩時間を学園内の庭園で昼食を取っている時でした。
いつの間にか、複数の男と一人の少女が私たちを取り囲んでいるつもりで逃がす気のない様子に感じました。
その中の代表格のイケメンが、意味不明なことを言った。
「ミシェル・アールグレイ、貴様との婚約を破棄する!」
お姉様が、横暴で自意識過剰なイケメンからそう言われました。
ところで、この男...だれ?
私がお姉様の方を見ると、お姉様もそのイケメンを知らないという表情をしました。
どうしましょう?
これは、私専用の辞書で調べた方が早いかもしれませんね。
実は私とお姉様は、興味のない人を全く覚えることができません。
覚える気がないのではなく、出来ないのです。
そのため、私専用で『日常生活で覚えてないといけない人物事典』をつくりました。
これは、私の『魔力』を使用して作ります。
国内屈指の魔力と魔力操作ができる私なら、難なく作れるのです。
もし、私以外が『日常生活で覚えてないといけない人物事典』が作れば、国が厳重な管理下に置き、厳しい監視をするでしょう。
では、なぜ私だと国の管理下に置かれないのか?
これは『私の性格』が原因なのと、学園在学中にもかかわらず宮廷魔術師になっているからです。
それに、私とお姉様は一定以上の能力者でないと覚えれないのです。
無能者は覚える必要がないと私自身が認識してしまっているから。
身内に対しても、同様です。
我ながら酷いなと思うのですが、変えることができません。
普段、読書にこの辞典を読むかといえば全く読むことはありません。
だって、興味のない人物のことを知るなんて時間の無駄ですから。
そんなことをする時間があるくらいなら、高度な魔術書を読んでいた方が有意義な時間を過ごせます。
「それで、ローラ。このクソ生意気な男だれですの?」
お姉様がそう言うと、周りの空気が凍りつきました。
「イヤですね、お姉様。私は、こんな礼儀知らずで無能な知り合いはいません」
なぜか、周りの空気がさらに凍りつきました。
「それもそうね」
お姉様があっさり切り捨てたことに顔色を悪くする周りの人たち。
さすがに、空気をあえて読む気がないと定評のある私でも、周りのこの反応が気になりました。
これは、『日常生活で覚えてないといけない人物事典』を使う時!
最近は、めったに使わないのでこの辞典の存在を忘れそうになっていました。
危ない、危ない。
さて、どうやって調べましょう?
うん、そうです。
お姉様の項目で調べてみましょう。
......、ありました。
でも、なんでこの程度の男がお姉様の婚約者になれたのでしょう?
謎だ。
いくら、王族といっても私たちが名前を覚える価値がないと自信を持って言える男だ。
「お姉様。その方は、エスト・セイロン第一王子様です。お姉様の婚約者です」
「この男が、ですの?」
「大変遺憾で、大変残念ながら、そのようです」
「私は、全く覚えのないことですわ」
「よくある政略婚約ですね」
「なんで、名前も顔も覚えれない男と婚約していることになっているのよ」
「上流階級の貴族とはそういうものです」
「妹が冷たい」
私とお姉様の心温まる交流を邪魔する空気の読めない男が邪魔をしました。
「オイ!聞いてるのか!お前は、ライラ・ニルギリ男爵令嬢に身分を使って、悪意のある嫌がらせをたくさんした。よって、お前との婚約を破棄するって言ってるんだ!ちゃんと、聞けよ!」
「ローラ、そこの五月蠅い男がなにやら喚いているけど、人間語に訳してくれないかしら?」
相変わらず、便利な耳をしていますね。お姉様。
覚える価値のない男の言葉は全く聞こえないと。
これは、聞く必要がないと解釈すべきでしょうね。
「その男が、何を喚きたてているのか見当もつきませんが、校内では『ピンクビッチが、イケメン男たちを複数侍らせ堕落させてる』と面白おかしいことを聞きました。それが、お姉様を取り囲んで威圧しているつもりな馬鹿なイケメンたちがしている今の状態です」
「なるほど。だから、さっきから有象無象の気配があるのね」
「そうです。ちなみに、ギャラリーもいるのでその方たちは気にしなくてもよいかと」
「そうね」
「で、そこのイケメンは王命でなされた婚約を自分の都合で破棄したいとおっしゃってるわけです」
「なら、大丈夫ね。『婚約破棄』、了承するわ」
「待てよ!なら、自分の罪を認めろよ!」
「ローラ、私の罪ってなんですの?美しすぎること?」
「そうですね。美しすぎることと優秀すぎることでしょうか」
「馬鹿ね、当り前じゃない。日々の努力がそうさせているのよ。貴族令嬢たるもの、その程度、当然だわ」
「現在の状況は、それが分からない馬鹿なイケメンがお姉様にケンカを売っている状態です」
「そう。つまり、現在の私はつまらない男に絡まれていて、無駄な時間を過ごしているということね」
なんか、イケメンたちが騒ぎだした。
「ちゃんと、ライラに謝罪しろよ!」
「そうだ、そうだ」
「心優しいライラに謝罪できないなんて、とことん精根が腐っていますね」
「先生は、そんな風になるように指導したわけじゃないぞ!」
「ライラちゃん、あの悪女がら僕が守ってあげるから安心して!」
「フンッ」
とても恥ずかしいことに、してもいない罪状でお姉様を辱める行為に学園の先生も交じっているようです。
まったくもって、見覚えがありませんが。
あっ、たった今、通りかかった学園の校長が顔面蒼白にして倒れました。
最近、胃薬を愛用している教頭が救護班を呼びに走りだしました。
理事長は、口から泡を吹き出して意識を飛ばしました。
そこに、学園を視察していた国王様登場。
なぜ、国王様自ら学園を視察するのか?
学園内なら、安全を確保されている環境なのでその必要はないと通常なら思われます。
そう、『通常』なら。
ウワサによると、ピンクビッチの取巻きにエスト・セイロン第一王子がなり果てて学園の風紀を著しく汚しているらしいです。
次期国王が、こんな状態ではこの国の未来が心配ですね。
「父上、ちょうどよいところに!私は、ミシェル・アールグレイとの婚約を正式に破棄したい。お許し頂けるでしょうか?」
「エスト、それは本気で言っているのか?彼女は、公爵令嬢だぞ。その意味しているところを分かっているのか」
「なんですって!?この性悪女が、公爵令嬢だと!?」
「当り前だ。王子の婚約者が、身分の低い令嬢がなれるわけないだろ」
呆れたように、国王様が言いました。
「もういい。お前には失望した。お前の希望通り、ミシェル・アールグレイ公爵令嬢との婚約を破棄しよう。すまないな、ミシェル嬢。あなたの大事な十数年間を奪ってしまって」
「お気になさらないで下さい、国王様。私たち公爵家は、国の命令に従う義務がございます」
「本当にすまない。愚息は、それさえ理解出来やしなかった。ミシェル・アールグレイ公爵令嬢を無実の罪で陥れる、その他の罪状でエスト・セイロン、ダージリン公爵子息、ウバ公爵子息、キームン伯爵子息、ディンブラ子爵子息、フレーバーティー教員、そして何より元凶であるライラ・ニルギリ男爵令嬢、全員、現在の身分を剥奪し国外追放とする!これは、決定だ!」
顔色を悪くし、膝をつくピンクビッチとその取り巻き。
そこで私は、
「国王様、それではこの者たちは納得いかないと思います。そこで、私が改良した記憶装置で部下が撮影し編集した彼らの罪の軌跡を見せて差し上げたいのですが」
「それはよいな。自分が犯した罪を意識させるためか。自分の姉を不必要に貶めた奴らに対して優しいな」
「自分が何をしたのか分かってないと、馬鹿でもかわいそうじゃないですか」
「それもそうだな」
そして始まる、ピンクビッチのイケメンたちを攻略する意気込みを大声で語る独り言と自作自演。
ピンクビッチとその取り巻きたちが、一般市民に対する横暴な振る舞いと迷惑を掛けまくる様子。
すごいですよ、この中に学校の先生を混じってるんですよ!
生徒を指導する立場の人がそんなことをしているなんて笑えますね。
もはや彼らは、周りの生徒たちの冷たい視線に耐えられず、肩身の狭い思いをしているようです。
ウソでしょ!
今までしたことよりも、今この場で周りの生徒たちや先生方に冷たい目で見られることの方が恥ずかしいなんて。
この後、第一王子は城に戻ることを許されず、その他の人たちは家の敷居を跨ぐことを許されず、即刻国外追放をさせられました。
・フレーバーティー教員は、主人公のいるクラスの担任です。
・この世界のお貴族様は、主人公とその姉に名前を覚えてもらうことが一種のステータスとなっています。
・学園の校長はフレーバーティー教員の父で、理事長はフレーバーティー教員の叔父です。
・ピンクビッチとその取り巻きが問題を起こす事に、国と取巻きの家と学園が迷惑をかけた側に慰謝料を支払っています。
・主人公の姉は、国王様がピンクビッチとその取り巻きを断罪する頃には、再び婚約者がいたことをきれいサッパリ忘れています。
・ピンクビッチの取り巻きを息子に持つそれぞれの家は、主人公とその姉に息子の名前を覚えられていないので、廃嫡を画策していました。
読んでくださり、ありがとうございました。