「499」
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桐生討伐併合高校。
聞く限りでは物騒な名前だが、その名の通りある存在の討伐を鍛錬する高校である。
在校生は全員、抜刀隊としての役目を背負い、その職務に準ずる。
高校を管轄しているのは桐生グループ。殆どが桐生の息のかかった人間で、抜刀隊として任命される事もある。
そう、先ほどの桐生蛍の様に。
だが彼が真っ先に死ぬという事はない。それだけ桐生グループの人間は権力が強い。
東京都の中でも、守られる立場にある政府よりも位が上。だが政府はそれを認めず同等の立場を誇示している。
とりあえず、東京都で発生している事案について対処するのが抜刀隊で、それをまとめるのが桐生グループ。
どの道守られる以上桐生グループに頭が上がらない政府の苛立ちも実際ある。
また更に気に入らないのは桐生グループがそれを鼻にかけない事。影ではすました野郎共と悪口も絶えない。
だがそれを全く気にも留めず、今まで抜刀隊を統括してきた。
その現、理事長が桐生蛍の父親だと言う。
そこまではとりあえず蛍が祐介と和生に説明した。
「む、難しい……」
「どうして俺達が抜刀隊なんかに……」
始業式が終わり、大体全員が新しいクラスに向かっている頃。
ようやく蛍率いる四人が到着した。
数人残っていた学生は蛍の姿を見て、小声で何かを言っている。
陰口なのか、噂話なのか……その光景を見た信人は舌打ちした。
「嫌われてんのか?」
「勝手に嫌ってるだけだ。桐生様には関係ない」
「わー見て信人。僕達のクラス人数が少ない!」
「聞いてました?人の話」
それだけ呑気なら、多少の遠巻きも気にならないだろう。
とりあえず祐介と和生にとってはこの学校も新鮮。初めての場所。蛍と信人に着いて行くしかなかった。
荷物は一旦寮に預けておくと言われたので、手ぶらの状態。
あんな荷物姿を見られたら、逆に注目されると蛍に言われていたからだ。
「さあ、行こうか。1-Aらしいよ」
「桐生様……あの名前」
「ああ、気にしない気にしない」
蛍も信人も一人の名前に気づいたらしいが、別に蛍にとっては関心もなく教室へと向かった。
―
その頃―
「……」
モニターがいくつも並んでいる室内で、一人の男性が祐介と和生の姿を捉えていた。
黙ったまま何も喋らない。その背後には教師だろうか―名簿を持ったもう一人の男性が居た。
「来ましたね」
「……」
「僕のやり方はきついですよ?良いんですか?」
「構わん。それで狼狽える様なら使い物にはならない」
教師らしき人物はため息をついて、一礼し。その場を去った。
一方、辛辣な言葉で締めくくった男性はモニターを見ながら、一言呟いた。
―「ようこそ、499。そして…」―
―
『500』
―自然と、祐介と彼は視線が合った気がする。
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