はじめまして!
―
白学ランの青年……まだあどけなさが残る学生は、名指しされた事をさほど気にしてない様でにっこりとほほ笑んだ。
あれ?怒ってないのかな?と恐る恐る話しかける。
明らかに隣の背の高い学生は怒っているだろうなーという表情。和生があんな偏見じみた事を言うから……
と言っても外地の人間が内地の人間にずーっと前は偏見を持っていたのは事実。
隔離される前はこの東京も潤っていて、揃わないものは何もない。そして外地からの徴収で生活が成り立っていたとか。
だからある出来事があってから、外地の人間は一括して東京都を責めた。そして隔離した。当然の報いとかそんな感じだ。
でも和生の言い方もどうかなーと思うよな……お高いって。
でも白の学ランって俺、漫画でしか見た事ない。
あ、でもそろそろ自己紹介とかしないと。
「穴生祐介です。えっと……お出迎えの方でしょうか」
「そうだよ。始業式すっぽかして来ちゃった。どんな子か見たくてさ」
「ずいぶんと偉そうだなアアン?山田和生だ。俺の存在がイレギュラーって事は知ってるな?」
「黙れ小僧。この方に口のきき方を改善しないと痛い目見る」
視線も痛い。
まあ偉い人ってのが嫌いな性分だから、和生もそう言う口調になるんだけどな。
そう言えばこの白い人(略)天然パーマかなー。綿菓子みたいな髪型……いや俺も失礼な事を考えた。
とにかくふんわりとした感じの人だ。
それにしても始業式って……俺達出なくても良かったんだろうか。でもこの日に来て下さいと紙に書いてたしな。
「あの……お名前は?」
「桐生蛍。桐生で分かったらありがたいな」
「え?じゃあ……この「桐生討伐併合高校」の関係者?」
「その学校の理事長のご子息であらせられます」
なるほどーだから白ランなのか。
いや、多分違う。でも一際違う異彩を放つ意味では真っ白な学ランもアリなのだろう。
一方学校の理事長の息子だと分かってばつの悪い表情をしているのが和生。
そりゃそうだ。だってこれから通う学校の理事長の息子さん。いきなり立場が悪くなった―と言っても立場の悪さで引っ込むほど神経細くない。
じゃあ理事長の息子なら、俺が外地から呼ばれた理由もわかるんじゃないか?
そう思って聞こうとしたら、相手も察していたのか首を横に振る。
あちゃーなんか複雑な事情なのか。他言も出来ない複雑な……俺、勇者とかそんなんじゃないよな。
確かに勇者と言えば最初の設定が孤児だったりするけどさーそう言うのはゲームの世界の話だし。
「ごめんね。ボクは知らないんだ。理事長は元々隠し事が多くてね」
「国家機密レベルですから、不用意な発言は出来ないのです」
「俺……ごく普通の人間ですけど」
「そうだね。でも全く知らないんだ。君が外地から呼ばれたイレギュラーとしかね」
そう桐生は言って、隣の和生を見た。
勿論彼もイレギュラーの一人。だって来る必要のない人間まで着いてきたんだから。
その行為は、来なくても良いと言うならありがたいと思うレベル。
友人だからこそ着いてきた。そんな簡単な理由で内地に来たんだ。
「……ンだよ」
「君が来る事は想定内である。とだけは言われたかな?」
「は?俺が来るって最初から知ってたのか?」
「その理由までは秘密にされてるけどね。全く、家族なのに意思疎通が出来ないのも不便だね」
ため息をついた桐生は隣の青年に目くばせをして、自己紹介をした。
「僕の付き人で、神楽坂信人。ツンツンしてるけど気にしないで」
「桐生様はもう少し品格に沿う様な対応をして下さい」
「ね?固い……そうだ、ちょっとテストして良いかな?」
テスト?ここで筆記試験?
東京都はなにもかもやる事が先進的。
でも筆記用具……バックの中のどこかなーと思って他所を向いた瞬間、バシイィン!と音がして体勢を崩しそうになった。
「う、うわっ!?」
「チィッ!」
何が起こったのか、衝撃のあった方向を見るとバッグで神楽坂さんの蹴りを防いでいる和生の姿があった。
え?いきなり蹴られそうになったの?てかテストってそれ!?
もしかしてこれから行く高校は暴力が許される危ない学校……ヒィッ!オレハキホンテキニボウリョクハンタイデス。
「……何しやがんだ」
「桐生様」
「そうだね……これでますます分からなくなった」
「ンだと?蹴りかますのが挨拶なのかよ!」
神楽坂は体勢を整え、再び桐生の傍に戻った。
和生は元々いじめられっ子だった俺の事ずっと守ってくれたから、喧嘩には強い。
そう、特別成績も良い訳じゃないし強い訳でもない。そんな俺が呼ばれる位なら、和生が……
でも和生が呼ばれたんなら、俺も何とかして着いて行こうと思うはず。
「ご、ごめん……和生」
「あ?別に良いって。それよりこいつらどういうつもりだ?」
俺にもどういうつもりかは分からない。
ただ桐生は小声で「分からなくなった」と言った。
本当に俺が外地から招集された事について分からないんだ。
「失礼をした。いや……これから君達が通う学校は身体能力などが問われる所でね」
「それでさっきの蹴りかよ。やだねー物騒で」
「我々が知っているのは穴生祐介が呼ばれた事。それなのにあの程度の攻撃が回避出来ないのが不可解でな」
「まーた何を……高校で戦うとかある訳じゃ……」
その瞬間、和生を含め三人全員が俺を見た。
あれ?何か場違いな事言った?
高校はヤンキーさんが沢山いる所?え、マジで?知らないの俺だけ?
「お前……知らずに抵抗もしなかったのかよ」
「な、何が……」
「桐生討伐併合高校って言ったら、抜刀隊の直属―戦闘系の学校だぜ?」
―
ん?
そうなの?
討伐ってそう言う意味?
東京都はそんな学校が必要なの?
疑問符を浮かべた俺に苦笑いをした桐生は、簡単な説明をしてくれた。
「これから君達が通う学校は、彼の言う通り抜刀隊直属の高校だ。普通の授業もあるけど市民の安全を守る為に戦う生徒が通う学校かな」
「た、戦う!?何で!?何と戦うの!?政府!?」
「それで身体能力が極めて高いから外地から特別招集されたのかと思って……でも適性があるのは和生君のほうみたいだね」
と言われても……知らずについてきた。
かと言って帰りたいとは言えない。
俺が不適合だと判断されてももう、こっちに来る分しか切符は用意されてなかった。
困惑して、現状に狼狽えて―それからそれから、何とか帰ろうともと来た道を戻ろうとしたが、神楽坂に止められた。
「貴方に適性が無いのは理解出来るが、かと言って何かの理由があって招かれた」
「そう言われても!」
「私達は無事にお二人を高校にお連れするだけ。来る事に抵抗しても我々は恐らく連行したと思う」
れ、連行って……ほぼ暴力じゃないか!
そんなの、知らなかったじゃ済まされない。
「お、俺達……戦うんですか?」
「どうだろう?今の動き見てると別の働きがあるのかもしれない」
「同感です。特に重要視されている穴生という生徒に抜刀隊が担えるとは思いません」
それでももう高校に向かうしか選択肢がないのか、特に俺の方が混乱したまま和生に心配されつつ……車で高校に向かう事になった。
―