初めてのTOKYO
―
「……」
「……」
両手に土産。が沢山入った紙袋
背負っているのはある程度の衣類。
ショルダーポーチには貴重品が入っている。
ただ、共通してその同じ格好の二人に言える事は―具合が悪そうだ。
「うえっぷ……」
「なげーよ……ここまで来るのに」
初めての長距離移動だったらしく、エコノミー症候群にならなかっただけでもマシ。
ただ片方の茶髪は既に顔色が青白い。
周囲の人々はこの東京駅に彼らが居る事を不思議に思っている。明らかに東京の人間ではないと察しているからだ。
だからこそわざわざ内地に来た理由が分からない。とは言ってもここに来た二人もあまり分かっていない。
しかしあの時茶髪の学生、穴生祐介は内地に来いと命令された文章に従わざるを得なかった。
勿論山田和生―彼も止めようとした。
しかしそれを手渡した存在と、自分達には守ってくれる「両親」が居ない、という事。
そう、二人は孤児院暮らし。だから中学校を卒業したらすぐに就職しようと思っていた。
孤児院の婦長も心配はした。二人を育ててきた代理の母。しかしたった一個人の反論も「孤児院」と言う立場の弱さで一蹴された。
だが、来るべきは穴生祐介。ただ一人だけで良かった。
何も和生まで来る必要が無かった。
しかし二人の間にある友情―多分一方的な和生の過保護かもしれないが、この手紙を渡した担任に直談判して自分も同行すると押しかけたのだ。
当然そこに利益はないと担任は思っている。内地にわざわざ呼ばれても居ないのに祐介の為だけに行くという事を。
最初は止めはした。しかし止めただけで彼らの境遇―孤児と言う立場から「どうぞご勝手に」と言われて幕を閉じた。
一応、ここまで来てまだ祐介もばつが悪い表情をしている。
「ごめん……和生。なんか……」
「え?吐きそう?」
「じゃなくて、一緒に来てくれた……グホオオッ!?」
ゲシッ!!
弱々しい声でまだ言うかとばかりに限界寸前の祐介の臀部を蹴る和生。
長旅の末お尻が弱っていた。そこへ強烈な一撃。
まるで生まれたての子羊の様に、プルプルしながら立つのが精いっぱいだった。
「まだ言ってんのかよ!うっせぇな!くどい!」
「だ、だって……」
「だってもなにもない!お前一人で何が出来る!」
言っている方が酷い。
過保護も行き過ぎると傷つくような言葉になるのか。
だが、本当に和生は祐介が一人で東京でやっていけると言う安心感は一切なかった。
ただでさえ中学生―いや、孤児院で過ごしてきた時から彼の面倒を見ていたのは和生だった。
兄弟に近い、兄の様に……それだけ親しいからこその同伴を希望した。
内地へ行く祐介の身を案じ、自分もとことん付き合ってやる。そう思えば多少の過保護も美化されて見える。
「ったく……何回聞かされたか」
「……ごめん」
「それもうナシ!俺は俺の意志で着いてきたの!」
パンパンと両手を叩き、話にけじめをつけた和生。
そして招集書の内容を改めて確認するようにけしかけた。
その表情と言ったら……もともと三白眼なだけに地方の不良みたいで怖い。
―
「えっと……この新幹線で来たら確か迎えと直接会えるらしいんだけど」
「駅が広すぎてわかんねーな。どこで待ち合わせだ?」
「えっと……」
「何だよ?ズバッと言えズバッと」
暫しの沈黙。
言った後の和生の反応が祐介には分かっているようで、躊躇した。
しかしまたケツを蹴られては中身が出かねない。身の安全を優先し、内容を告げた。
「……どうせ迷子になるから、改札を出たら待ってて下さいだってさ」
「……」
「せ、正論だと思うけどな……」
―プチン
何かが切れる音がした。
祐介もマズイと思ったに違いない。
その瞬間首根っこを掴まれた祐介は、間近に迫ったドスの利いた和生の表情にビビっていた。
「ひいいいいいいっ!?」
「外地の人間を馬鹿にしてんのか!迷子って何だアアン!?」
「た、多分これは親切で……」
「ご招待の言い分も程がある!東京の人間はお高いのか!?悪意を感じるぜ例えばさっきから見えるあの白学ランのガキンチョ、金にモノを言わせそうだ!」
―?
「白学ラン?」
「あれ、違うのかな?」
和生が指さした方向には普通の紺色のブレザー姿にシャツ。黒のズボン姿の長身の青年。
隣には背が小さい眼鏡をかけた白学ランの青年が立っていた。
長身の方は冷ややかな視線を二人に向けたまま微動だにしない。怒っているのか、多分怒っているのか。怒っているんだろう。
とりあえずお出迎えと会う事が出来た。ただのっけから和生の口の悪さに別の危機が迫っている様な気を祐介は悟っていた。
―
―よく来たね、ありがとう。『499』……―
「あ、あの……」
「……」
―