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高校生活の始まり


それから数日後。

4月を迎えたエイプリルフール。

今日が平日では無い、もしくは始業式でもないという嘘を誰もつかない。

かと言って堅苦しい訳でもなく、校内に向かう生徒は普通の高校生そのもの。

ただ一点だけ異様と言うならば、男女ともに「刀らしき物」を携帯している事。

それが当たり前なのか不自由もなさそうで、形状は皆同じ。

刀に見えるが……どこか違う。色々と器具が取り付けられ複雑に構成されている。


後は学生のカバン、この学校の制服。見た目は違えど共通して別に何かそれ以外の異常さは見受けられない。

交わす言葉も短い休暇を満喫できたかどうかの評論ばかり。

そう視線を流す中で、数人はどこかぎこちない生徒の姿も見える。

刀らしき物を所持してない、カバンと学生服。ただそれだけ。ぎこちないの対照的に堂々とした学生もいる。

恐らく慣れている方は在校生で、今年から入学するのが後者なのだろう。


その中の一人が不敵に笑みながら自分とは対照的な学生を鼻で笑った。


「見ろよ朝露あさつゆ。抜刀隊に入隊するのをビビってるぜ」

「やめろよ仁和にわ。そんな学生もいるよ……あれが普通」


入学生にしては背が高い、体格のいい金色に染めた短髪の生徒は来栖仁和くるすにわ

その隣に居るのがすらっとして仁和とは見た目のギャップがある白い長髪のそこそこの美形。奈節朝露なせつあさつゆ

動揺している学生とは違って、刀も所持していないのに堂々としている。

まず二人が口にした「抜刀隊ばっとうたい」それに理解を示しているという事は、この学校がその部隊直属の学校であり入学するという事がイコール抜刀隊に入隊する。

そして普通の学生より肝が据わっているのか、入学する事をどちらかと言えば仁和の方が楽しんでいて、朝露に関しては怯える学生に対して同情している。


「何が普通だ。普通じゃない方が生き延びられるってのに。それに抜刀隊に入隊できれば……」

「そこそこの待遇が認定される、か。好き放題やっていいとはまた違うよ」

「うるせーよ。水を差すな。今か今かとわくわくしてるっつーのに」

「それ、他の学生に言わない方が良いよ」


抜刀隊がどんな役目を背負ってるか分かる。

かと言って在校生も同じ抜刀隊。なのに全ての学生が絶望感漂う訳ではない。

着任する事が死に繋がるとも限らないのか、それとも仁和が言うように待遇の方を重視しているのか。

どちらにしても普通に生きるよりかは、幾らかの保証が付いている。と仁和の言葉から憶測できる。


そんな二人の前に、少しひょろっとしたごく普通の青年が校門の前に居た。

一向に中に入ろうとしない彼を二人は見て、仁和が一歩先に彼の背中を強引に押した。


「ひゃっ!?」

「よーお!俺と同じ新人か?びびってんじゃねーぞ!ハハハ!」

「だ、誰……」

「誰って同じ新入生に決まってんじゃねーか。刀持ってないし」


思いっきり叩かれたと言って良いのか、少し咳き込みながら二人を見た青年。

まだ警戒してはいるものの、あの一撃がとりあえず踏ん切りをつけたようだった。


「俺は来栖仁和、こっちが奈節朝露」

「ぼ、僕は可楽陽人からくようとです」

「すみませんこの筋肉脳みそが失礼を」

「アアッ!?誰が筋肉脳みそだ!」


仁和と朝露のやり取りに少し苦笑した、陽人。

決して二人共悪い人間でもない様で、もしかしたら抜刀隊に入隊するほとんどが彼らのような覚悟を決めた人とまだ脅えている人。の二極化になるのかもしれない。

少しそばかすの残る黒髪の、取り柄があるかどうかも微妙な陽人も二人と握手した。


「ちょっと心細くて……学校に入れなかったんだ」

「知人は?失礼、深入りして」

「いえ、良いんです。地元では僕一人が選ばれたみたいなんです」

「選ばれたって事に誇りをちったぁ持てよ。親御さん、喜んでたろ」


無粋な仁和の言葉に朝露が脇腹をこつく。

それでも安心したのか笑みを浮かべた陽人はコクリと頷いた。


「はい。抜刀隊で貢献したら外地に住もう!と両親は……」

「それが普通でしょうね。子の気持ちも知らないで」

「殉職しても何らかの利益は得られるからなー」


要は抜刀隊に入隊したら、例え最後まで生き延びなくともその家族に該当する人達には報酬が発生する。

損をするのは抜刀隊だけ。だが人間など自分の利益の事しか考えてない。

特に東京都に生きる人間は、我が身の環境にどんな犠牲を払ってでも無事に生きたいと望むのが本音。


―子供を犠牲にしてでも、同じ。


「良いんです……妹も居るし。両親の気持ちも分かるから」

「あんま善意の塊でいない方が良いぜ。馬鹿を見るような感じになる」

「仁和の言う通りですよ。自分の利益を最重要にした方が楽です」


そう言うと朝露は陽人を促し、校内に入って行った。

残った仁和は数回頭をかき、ため息をつく。

彼もまた両親に期待ばかりかけられうんざりしていたクチなのだ。


と、言っても。貢献するのは本人であって―彼がもし仕事をやり終えた場合何を望むかは本人の決定に委ねられる。

外地に住もうが、内地で楽しもうが。

仁和は恐らくとっくに心に決めていた。


「親の為に……ねぇ。うっぜ」


そう言って彼も校内に入って行った。

もうすぐ始業式が始まる。

そこでどのクラスに入るのかはまだ未定。ただ仁和は自分がやりたい様に生きる事だけを望んでいる。

それだけだった。


―もうすぐ、始業式―


「……特待生、か」


学校の前に立つ、黒髪の学生。

御崎歩生もまた、その一人―



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