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任命された特待生


東京都。

二ホンの中心都市と言われていた時代。は終わっていた。

何もかもが揃う、仕事もある、恵まれている、見れないテレビは無い。

そんな不自由の無い都心は、今「内地」と呼ばれていた。

そして東京都以外は全て「外地」と呼ばれていた。


都名だけが存在し、後は全て外地だけが合併し孤立した内地。

そう、東京都は外地の判断で今や「隔離された地域」

東京都に住む者は、外地に出てはならない。たった一日の日帰りでも許されない。

そこで生まれた子供も一生東京都から出られない。


なぜそこまでして外地は東京都を隔離するのか。

それは今まで外地を肥やしにしてきた、裕福さゆえの罰と―


「東京都だけに起こるある事件」の拡散を防ぐ為の国家機密が原因だった。


そして今に至る訳だが、外地はここぞとばかりに内地への差別を口にし、世間を謳歌した国の中枢は笑われ者。

だが国が定めた法令に従う他にはなく、脱走を試みようとしても東京都に登録された人口チップがそれを阻止する。

未だかつて東京都の人間が外に出られた事はない。

しかし例外もある。それはあるごく一部の人間に限られているのだが、功績を遺した者のみ外地への移住を許可される事もある。

とは言ってもごく一部の人間。普通の一般人には到底不可能な事。


そう簡単になれるものでも無いのだが。

理由は簡単だ。都民がその存在を知らないからだ。

知った時はその家族に対して一人でも「抜刀隊」に選ばれてから知る事が出来る。

つまりその「抜刀隊」という組織で功績を残せば初めて安全な外地への移住を許される事が出来るのだ。

選ばれるまでは抜刀隊の存在は極秘に扱われ、強いて言うならば抜刀隊もその事を公に公表する事も許されない。

普通なら外に出てはならない存在。それが東京都民の宿命なのだ。


かと言って抜刀隊に選ばれる事も、そう幸福とは言えないのだが。

それだけの仕事が課せられるのだから。


―しかし、例外もある。

極めて稀で、何年に一回という生半可なスパンでもない。

内地から功績を称えられ、外地に移住する事例はあるが、外地から内地へと移住する者はほぼ居ない。

隔離された地域にあえて踏む込まざるをえない状況。それは特例中の特例だった。


―さて、先ほどの女子高生はどうなったのか―



「……」

『ご苦労だった。御崎みさき君』


無線で、一人の青年の功績を労う声。

青年の手には鋭利な刀。に、付着した血糊。

すぐ傍には異形と化した何かが血まみれになって横たわっている。

確認できる範囲で言えば、下半身は人間の女性だが、上半身がその形を成していない。

周囲には誰も居ない。この状況下において幸運なのかどうなのか。


「自分の仕事を遂行したまでです」


恐らく、その異形を刀で切ったのだろう。

だが不思議な事に全く青年には血飛沫も付いていない。

始末を終えた青年は刀に付いた血糊をふき取り、鞘へと仕舞った。

それまでの間に数刻経過したのか、黒服の作業着を着た男達が数人死骸へと集まっていた。


「宜しくお願いいたします」

「了解しました」


青年は彼らにそう託すと、死骸は待機していた車に持ち運ばれた。

そして周囲を消毒し、去っていく。

また何も無かったかのような今度は青年ただ一人の孤独。

しかし死骸と化した女子高生とは違い、青年は―そう、抜刀隊の一人。


御崎歩生みさきあゆむ……君の功績を知っている。もう外地への移住も許可される立場にある』

「知っています」

『それでも此処に留まるかい?何時死ぬかもしれない宿命を背負って』


どうやら彼は外地へ移住出来る位の働きをもう既に達成しているのだろう。

普通ならばそう認められるのであれば彼含め家族がもし居れば―外地へと移住出来る。

そうしないのも彼の自由。留まる事を選ぶのは強制ではない。


「どうせ……こんな形でしか生きる意味が見いだせませんから」

『……』

「家族も居ませんし、元々孤児。それを拾って下さったご恩に報いる為ずっと抜刀隊であり続けます」


ふてくされている訳でもない。感情を押し殺している様でもない。

ただ素直に自分の思っている事を言ったまで。

元々の孤独を苦笑し、歩生もまたその場を去ろうとする。


『ああ、そうだ。御崎君』

「なんでしょう?」

『今年度の抜刀隊一年生、あるクラスの特待生となる事が決まった』

「……僕が、ですか?」


特待生と言われてもピンと来ない歩生。

今までそう言う事が無かったからだ。

かと言って誇らしげに、または自画自賛もしない。

無線越しに聞こえるその命令に異論も無かった。


だが、今年度の一年生。とあるクラスに限った歩生の役目。

不思議だとは思ったに違いない。


『理由はおいおい話す。まずはまた任務に就いてくれ』

「了解しました。『理事長』」


―ブツン。


無線が切れた。

歩生は、必要以上に勘ぐる事もしなかった。

理事長と呼ばれた相手に対し、絶対の忠誠を誓う。

いずれ話すと言うのならそれを待つ余裕もある。


どの道、歩生は今年の春。高校一年生になる。

その指定されたクラスで自分が特待生として何をすべきなのかは、まだ考えない事にした。



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