05:青空の挨拶
「やあアリエ様、もうここには慣れましたか?」
「おかげさまで。キーラ様は、いかがです?」
キャストが来て10日目の朝、散歩をしていると中庭に面した廊下でキーラと出会い、表面上はにこやかに挨拶をする。
今日の空は青く澄み渡り、最高の一日になりそうだったのに。くそー、朝っぱらからヤンデレの顔なんて見たくないわボケー。
「私は最高ですよ。楽しいことができましてね」
「あら、いい女性でも出来ましたの? 祝儀はどれくらいかしら」
「ははは、からかわないで下さいよ。まあ最も、近いうちにわかります」
怖いよー、ヤンデレ怖いよー。まったく目が笑ってないし、早くもヒロイン囲うこと決定済みだようわーん。
どうせあれだろ、楽しいことってヒロインいじっていい気になってほくそ笑んでんだろちくしょー。お前のルート、一番下ネタ系選択肢が多いんじゃアホー。
心の中で舌を出しても、顔には微笑を絶やさない。それが私のポリシー。
ゲーム知識を思い出して早10年、いまやしっかり身についたポーカーフェイスはちょっとやそっとじゃ崩れない。最近崩れかけたって? こまけえこたぁいいんだよ!
「あら、焼けること。キーラ様が既に婚約済みだなんて知れたら、宮殿中の女性が悲しみますわ」
「そんなことありませんよ。……ところで最近、随分とキャストと親しいようですが、いつもどのようなことを?」
強引な話題転換、キター。もうこれ完全攻略終わってるなおい。ヒロインも、こんな早いうちにキーラの高感度上げちゃって、大丈夫か?
2日目のお茶会以降、ヒロインはほぼ毎日私の部屋を訪れては、お茶を飲みつつとりとめのない話をして帰っていく。本当にわけわからん。
確かに、ライバルになったら通い続けて高感度を上げないといけないが、ライバル宣言をした覚えはないし、するつもりもない。もしかして、照れ隠しととられたか? やばい、それは困る。
「別に、普通ですわ。お茶を飲んだり、庭に出てお花を見たり……。あ、昨日は新作のドレスを試着しましたわ」
「そうですか……。いえ、別に深い意味はないんですがね。じゃあ、私はこれで」
「ごきげんよう」
言い終わるが早いか、もうお前に興味はないといわんばかりにさっさと去ってゆくキーラ。自分の話が出てないことにむかついたのか、ざまぁ(笑)。
まあ、度々お前らの話も出てはいるけど、私そこまで親切じゃないし。聞きたいことがあるなら、直接本人に聞いていただきたい。
キーラの背を見送り、私も部屋に戻ろうと踵を返した瞬間、物陰から勢いよく飛び出してきた人影に驚き、バランスを崩してしまう。
「キャッ!」
「あ、ごめんなさい! 大丈夫……ってあれ、アリエ様じゃん! よかったー、探してたんだよ!」
「……? っげ、」
エスラ=クローバー、てめえの仕業か! 突き放したくもさり気なく腰を支えられ、大人しくするしかない。
礼を言って開放されるとすかさず手を掴まれ、逃げ道を立たれてしまう。……最近、同じようなことを誰かにした思い出が。
「ねえねえアリエ様、最近エナと仲良いよね! いつも何話してんの?」
「……エスラ様、落ち着いてくださいませ。まずはお手を離していただけますか?」
作中一のポジティブである彼には、オブラートというものがまったく通用しない。失礼にならない程度で簡潔に言うと、やんわりと手を引き剥がす。げ、痣になってる。
「特に珍しいこともないですわ。お茶を飲んで味を楽しんだり、ドレスの話をしたりと、殿方が聞かれても面白くはないと思いますが」
「ふーん……、俺の話はしてないんだ……。わかった、ありがとうアリエ様! じゃーねー!」
え、ちょっと今一瞬目がやばかった。おいヒロイン、まさかエスラにもモーションかけてるの? 最後の表情といまだに残る手首の感触に、背筋が薄ら寒くなる。
エスラが走り去るのを見て、再び部屋に戻ろうとしたとき。向こう側からクーリが現れ、話しかけられる。またか!
「アリエ様、ご機嫌麗しく。おや、その手首はどうされたのですか?」
「ちょっと、転んでしまって。お心遣い、ありがとうございます」
一見私を気遣っている風に見えるが、何かを急ぐようにそわそわした態度からはいやな予感しかしない。
まさか、また同じこと聞かれるなんてないよね。そんなベタなこと、神様だってやんないさ、
「……ところでアリエ様、最近エナ様と随分仲がよろしいようですが。いつも、どのようなことをされているのでしょうか?」
神は死んだ。
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