01:前世
私の名前はアリエ=ユリスラ、16歳。
実家は富豪の一人娘、国一番とうたわれる母親譲りの美貌に天性の才覚を持ち合わせた、八面玲瓏、才色兼備のお嬢様だ。
なぜここまで臆面もなく自賛できるのかというと、このスペックは私自身のものではないからだ。
前世の私の名前は、常澄明と言った。
一般家庭に生まれ育ち、中肉中背の十人並みの顔。趣味といえば乙女ゲームくらいの、どこにでもいるようなオタクだった。
最後はよく覚えてないけど、たしか車に轢かれただかなんだったか。まあとにかく、お約束にも私は、前世にやっていたゲームの世界に転生したのだ。
しかしひとつだけ違うのは、私がこの世界をあまり好きではないこと。
常澄明は生前様々なゲームをやって、レビューサイトまで作っていた。サイト名は、『孤高の喪女』。そこそこ人気があって、波長の合う人ともたくさん交流ができた。
そして、200を超えるゲームの中で、唯一常澄明が酷評したのがこのゲーム、『Eternity of false』だ。タイトルから察するとおり、ヤンデレ色あふれるゲームである。
立ち絵や声優陣に力をかなり入れていて、広告も派手でそこそこ話題になった作品だが、設定かシナリオ、または両方悪いのか転売者が続出した。
私も売りはしなかったが、全キャラ攻略して即効友人に譲った。長いこと持っていたら、呪われそうだったからである。
私の好きなヤンデレは、主人公を思うあまり、次第にどんどん壊れていくタイプだ。しかし、『Eternity of false』に出てくるヤンデレは、最初っからフルスロットルで病んでいる。初期と末期のギャップに萌える私にとって、あまり相性はよくなかった。
ところで、『Eternity of false』の世界では、誰でも魔法が使える。異世界からの来訪者も度々現れてはここの珍しさに目を輝かせ、慣れたころに帰ってゆく。彼らは"キャスト"(この世界での客人の意)と呼ばれ、最初のうちは国の中央、貴族の子息達が集まるロネ宮殿で保護されるのが慣わしだ。
この世界にヒロインがキャストとして現れるのは、アリエがロネ宮殿に移った6日後。つまり、明日だ。
この5日間のうちに宮殿中のあらゆる抜け道、脱出口を調べぬき、メイドや門番にもある程度融通が聞くように根回ししておいた。こういうときほど家の権力と外見に感謝することはない。
ゲーム中ではまだ来て日が浅いアリエと、この世界に来たばかりのヒロインが出会い孤独を分かち合い、さらにキャスト付きのメイドのネイが加わって3人グループができる。
ここから先はルート分岐で、ヒロインの行動によってアリエや新たなキャラがライバルとして登場したりする。アリエの立場も、時にライバル時に親友ところころ変わるため、ほかの感想サイトでの印象はばらばらだった。
ライバル状態は最悪だけど、友人としてこれ以上心強い存在はいない。そんな意見が最も多かった。メイドのネイも根強い人気があり、逆に主人公がこき下ろされていた。
見ていてキツイ、言動が謎過ぎる、共感できない、いろいろ痛い…等々。アンチスレが乱立するほどの嫌われっぷりはすさまじく、また、そんなヒロインになんでときめくのか、と攻略対象までたたかれた。
それもあってか、私は攻略対象にもヒロインにも何の感慨も抱かない。壊れたいならどうぞご自由に、といった感じだ。
ネイはゲームと若干違うがとてもいい子だし、周囲の人もヤンデレ意外はみんなまともで優しい。ヤンデレ共の壊れっぷりに比べたら、醜い腹算段もかわいいものである。
ネイと周囲の人たちにこっそり守護魔法をかけ、私は明日に望んだ。