俺の物語は終わらない!
感想、評価お待ちしております。
ゆっくりと目を開けると、そこにはいかにもなファンタジー世界が広がっていた。
人間以外の姿かたちを持つ人がいて、出店があり、騎士格好の人達が闊歩している。
そんな中、勇者としてこの世界を魔王の手から救う役目を授かった俺の服装はと言うと、「何処の小僧だよ」と突っ込みを入れたくなるような恰好で、腰に差しているのは大量発注で決して質が良くない剣。ポケットには一拍の宿代も怪しい金額と、2・3枚の軽い傷しか治せない薬草のみ。
こんな格好で世界を救いに行くとか笑いがこみあげてくるが、実際には笑うことはせず、さっさとこの街を出てモンスターフィールドへと足を進める。
誰にも話しかけなくていいのか、と思うが、その辺は何とかなるだろう。
街の付近地点だからか、モンスターは弱いのしか出てこなくて、こんな鈍剣でも数回で倒すことが出来た。
それに調子をよくし、一直線に次の街へと繋がる洞窟を目指して進み、中に入る。
中では何やら訳ありそうな男子にあったが、さほど気にせずに先に進む。
流石にここらへんになると、何回か攻撃を受けることも多くなり、その結果、数少ない薬草を使ってしまった。
しかし、それでもなんとか最奥まで辿り着くことに成功した。
あと一歩、という所で今までの敵とは明らかに雰囲気が違う奴が現れた。
そんな敵にも恐れずに剣を奮うが、こっちの攻撃は僅かしか奴の体にダメージを与えない上に、手持ちの薬草も切れ、今までの戦闘の疲れも祟り満身創痍だ。
そんな俺の体は、遂にモンスターの攻撃を避けきれずに、深刻なダメージを受けてしまった。
そこで、意識が途切れた。
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「やっぱり、一回街に戻って薬草とか買った方がよさそうだな」
「ご飯出来たわよー」
「はーい。今いく」
そう言って、ゲーム機を床に置いて部屋を出た。画面は電源を消さなかったためぼんやりと明るく光っている。
*****
さて、一回街に戻り、戦って得たお金で多少ましな装備に変え、余った金で薬草を買った。
一回あったためか、死んだからと言って先ほど現れた何やら訳ありそうな男子は出てこなかった。
それ以外は特に文句もなく、むしろ先程よりも武器が良くなったためか、楽に敵を倒し、先ほど意識が途切れた場所まで行けた。
そしてそこにはさっき俺を殺した奴がふんぞり返っていた。
先ほどの失敗を生かし、慎重に戦いを進めると、意外と楽に倒すことが出来、洞窟を抜けることに成功した。
すると、訳ありそうな男子がまた現れ、仲間になった。近接戦闘が得意らしい。
本当は回復持ちの魔法使いが欲しかったが、仲間が増えたことは素直にうれしい。これで、俺が死ぬ回数も抑えられることだろう。
仲間が増えたところで新しくついた街に入ると、最初にいた街よりも大きいためか、色んなものがあり俺はあっちこっちと目移りしてしまう。
そうして男二人で歩いていると、突然前から人がぶつかってきた。
その子は「ごめんなさい」とだけ謝ると、直ぐに駈け出してしまう。
そして、それに呆然としていると直ぐ後に悪そうな人相の奴らが来て、さっき人影が逃げた方向に走って行った。
すると、仲間になった男子が「ちょっとあとを追いかけよう」と提案してきて、めんどくさかったが、しょうがないので乗ることにする。
そして後を追っていくと、ぶつかってきたのは女の子で、何やら色々あって悪い人たちが追いかけていたらしい。
俺はそんな彼女を助けなきゃ、と思い、彼女を助ける為に男どもと戦い、無事に勝利できた。やはり、もう一人攻撃できる人がいると言うのは頼りになる。
助けた後、彼女の複雑な事情を解決するためにも、一緒に旅をすることになった。
彼女は可愛らしく、俺の好みであったためパーティーに入ってくれて実にうれしい。
その後テンションの上がった俺は、二人を引き連れるように次の場所に進もうとするが、そのためには何やら行かなければならないところがあるらしく、そこへと向かって行った。
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「うーん、結構進んだな。今日はこのぐらいにするか」
「もういい加減にして、寝なさいよ」
「分かってるよ。おやすみ」
そう言って、ゲーム機を床に置いた。電源も消したので、画面は真っ黒になっている。
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新しく加わった彼女が魔法使いという事もあり、敵との戦闘で傷を負っても回復してくれるのでかなり楽に進むことが出来た。
それでも、やはり最後に現れる敵は手ごわく、善戦はしたものの、俺の体に敵の攻撃がヒットし、俺の体はあっさりと斬り裂かれた。
その後、もう一度挑んだときは、彼女が回復しようとしたところにモンスターが攻撃を仕掛け、彼女はあっけなく倒されてしまい、俺もそれの後を追うように意識を失った。
それでも、三回目には敵を倒すことが出来た。
そうして、何とか次の場所へとすすめた。
次の場所へと移動する馬車の中で俺は思う。
彼女の死に顔なんてもう見たくない、と。
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「そろそろ、学校に遅れちゃうな」
「学校大丈夫なの」
「もう行くよ。いってきまーす」
そう言って、ゲーム機を床に置いて部屋を出る。画面は真っ暗だ。
*****
その後、俺達の旅は順調に進み、仲間も増えてきた。
彼女が死者を蘇らせる魔法を覚えた時から、率先して彼女を生かすように動くようになった。
一番このパーティーで火力が高いため生き残らせがちだが、彼女の死に顔から送られる眼差しは、俺の体よりも精神に傷を増やしていく。
だから、俺はモンスターに体を吹き飛ばされ様が、斬られようが、焼かれ様が、彼女の死に顔を見ずに済み始めたことに、内心ほっとした。
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「さてと、今日出された宿題でもしますか」
「ゲームもいいけど、勉強ちゃんとしなさいよ」
「分かってるよー。うるさいな」
そう言って、ゲーム機を床に置いて、勉強机に座る。電源を消していないので画面はぼんやりと光っている。
画面の中の勇者がチラリと振り返った、気がした。
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敵が強くなってきた。
毎日がしんどい。
彼女、エミも他の仲間も疲労困憊と言った様子だ。
それでも、頑張らなければならない。俺は、魔王を、倒さなければならないんだから。
*****
「ご飯よー」
「うん、今いく」
そう言ってゲーム機を床に置いて部屋を出る。待機状態のため、画面は真っ暗だ。
*****
最近思う事がある。
なんで俺は戦っているのか、と。
なんで俺は勇者なんだ、と。
俺は一介のどこにでもいる少年だったんじゃないのか、と。
俺達は敵を倒し、歩みを進め、魔王が住む魔王城へと向かう。
最初に仲間になった男子は、親が有名な傭兵集団のトップだったのだが、魔王との戦いに敗れて死んでしまった。そのかたき討ちを取るために旅に同行してきたらしい。
エミはある大貴族の娘だったが、その類稀なる美貌を有力な魔族に見初められ、魔族の巨大な力で望んでいない結婚を強要されていた。だから逃げていたらしい。
その他の仲間もそれぞれ異なる理由ではあるが、平々凡々な人生を歩んできている者はいなかった。
では俺は?
俺の親はなんでもない一介の街人だし、顔だって特筆するべき要素はない。過去に暗い過去も無ければ、腕っぷしが強いだけのただの小僧だ。
俺は、戦いなんてしたくない。
仲間の死ぬ姿なんて、見たくない。
*****
「そろそろこのゲームも終わりかな。今日はもう寝ようかな」
「おやすみなさい」
「おやすみー」
そう言って、ゲーム機を床に置く。画面は真っ暗だ。
*****
魔王の住む城に挑む前日、俺は思い切ってエミに告白した。
すると、嬉しい事に彼女も俺の事が好きだったらしい。
目の前が一気に明るくなった気がした。普段上げない様な声も上げた。
魔王なんて怖くない、そう思えた。
俺は天にも昇る気持ちで、彼女の手を取る。
そして、言っ___。
*****
「やばいやばい、遅刻する」
「早くしなさい。もう時間よ」
「行ってきまーす」
ゲーム機を床に放りだし、部屋を出る。
画面は消し忘れたためか、止まったまま。
画面の中の勇者が酷く悲しげにこちらを見た、気がした。
*****
最後、俺の一太刀が魔王の体を斬り裂いた。
世界中に漂っていた嫌な感じがする物が、崩れ落ちる魔王の体に流れ込み、そして、消えた。
俺達の長い旅は、今ここに、終止符を打たれたのだ。
俺達は魔王を倒したことを喜び、世界に平和が訪れたことを喜んだ。
そして、俺達は最初の街にて盛大なパレードで迎えられた。
俺は両想いとなったエミと二人で笑いあい、将来を誓い合う。
胸には達成感や幸福感が一斉に押し寄せ、感無量と言った心地がした。
そこで、意識が途切れた。
*****
「ゲームクリアしちゃうと、やりきった感はあるけど、飽きちゃうよね。二週目するのもめんどいし」
「ご飯出来たよー」
「はーい」
そう言って、ゲーム機を床に置く。
画面には幸せそうな勇者とヒロインを背景にスタッフロールと曲が流れていた。
*****
目が覚めると、俺の目の前には魔王城があった。
俺は不思議に思い周りに疑問をぶつけてみる。しかし、皆揃って首を傾げるのみ。
そして、俺の記憶通りのやり取りを行うと魔王へと挑むのだ。
なんで?と思考が鈍る。しかし、俺の体はまるで俺の意思とは無関係のように、軽快に魔王に攻撃を加える。
そして、俺が魔王を倒し、世界に平和が訪れ、パレードをやる。
そして、エミが俺に笑いかけてくる。
俺は、そんなエミに上手く笑い返すことが出来なかった。
*****
「うわー、このゲーム裏ステージとかないのか。まぁ、暇つぶしにお小遣いが溜まるまではやろうかな」
「ご飯よー」
「はーい」
そう言って、ゲーム機を床に置く。
画面には幸せそうなヒロインと当惑する勇者を背景にスタッフロールと曲が流れていた。
*****
俺は何度魔王を倒しただろう。
俺は何度世界に平和をもたらしただろう。
俺は何度エミと将来を誓い合っただろう。
何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何何度何度何度何度度何度何度何度何何度何度何度……。
俺の精神は繰り返される世界平和に摩耗し、もう何も考えられない。
それでも体は動くし、時は進む。
抗おうにも抗う術も方法も分からない。
そんな中、俺の一太刀が魔王の体を斬り裂いたとき、俺は気付いた。
魔王が、俺と同じ摩耗した目をしていることに。
*****
「よーし、新しいゲームを買うぞ」
「気を付けて行ってくるのよ」
「うん、行ってきまーす」
そう言って、ゲーム機を置いて外にでる。
電源は切られ、ソフトも抜かれ、画面は真っ暗だ。
*****
俺は暗闇の中で悟った。
俺の世界は、世界の形をしたただの牢獄なんだと。
俺は剣を奮う。
足を踏み出す。
そして、俺を理解できる、唯一の存在を葬り去る。
世界は平和になり、好きな女の子と将来を誓い合う。
そんな幸せな場面にも拘らず、俺の目からは、透明な雫が零れ落ちる。
そして、
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
世界は暗闇に飲み込まれる。
まずは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
ここから先は、この作品の解説、というか説明みたいな蛇足部分です。
そう言うのを読むのが嫌だという方は、ご注意ください。
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この作品は、ゲームの中のAIが発達したらどういう風にゲーム世界を感じるんだろうと思い書いたものです。
最近はMMOをテーマとする作品が多いですが、MMOは終わりが無いと言っても日々新しい何かがある為、そこまで繰り返し要素は強くないと思うんですね。でも、普通のRPGゲームって違うじゃないですか。コンプリートなんてした暁には、何年待とうとそのゲームに何か新しい物を見つける事って出来ないわけで。でも、そう言うゲームの需要もあるわけで。
もし、ゲームの中のAIが発達したら、そんな繰り返しの世界をどう思うのか。それを自分なりに書いたつもりです。
勿論、人それぞれの考えがあると思うので、一概に「こうだ!」と言えるものではないと思うんですけどね。
結局何が言いたかったかというと、物は大切にしよう、昔やったゲームをやってみると案外ハマるということを言いたかったわけで、あれ? なんか違う気が……。まぁ、いいか。
それでは、こんな駄文に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
もしよろしければ、ご意見ご感想をお願いします。
また、連載中の作品も気が向いたら足を運んでみてください。この作品のような暗い終わり方はしておりませんので安心できるかと。
それでは、またどこかで会いましょう。
楔名護でした。