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集い  作者: かつおのたたき
集い
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第一章

※この物語は全てフィクションです。R-15Gのミステリー小説です。現在進行形で考えながら進めてるので、更新は不定期になると思います。今のところ、ピカレスクを目指してはいますが、どうなることやら…。文才はありませんが、雰囲気だけでもストーリーを分かってもらえれば幸いです。

 母を殺した。父も殺した。だけど、僕は絶対に捕まらない。


 だってそうでしょう?


「――僕は、子供なんだから」


 手には片方の刃がかけたハサミ。それには、黒く変色した血がべったりとついていた。彼の足元には、無残にも皮膚を切り裂かれた両親の遺体。切り裂かれたというよりも、皮膚を削ぎ取られたと言った方が、正しいかもしれない。骨が剥き出しになり、その部分だけ表面が乾いているのが分かる。床の畳みの痛み具合から、大量の血液が染み込んでいったのが分かる。その様子をぼーっと虚ろな表情で眺めていた少年は、そのまま表情をピクリとも変えず、ゆらゆらと肩を揺らしながら赤黒い肉塊となった両親の肩らしき部分を掴み、引き摺りながらそれらを目の前の押入れの中へと押し込んだ。そして、ズボンのポケットからビー玉を取り出すと、それも一緒に転がして押入れの襖を閉めたのだ。


 「実話か、それ」


オシャレなバーカウンターを挟んで、伯父は言う。シャカシャカと小気味良い音を立てているのは、彼が振っているカクテルシェーカーだ。


「多分、フィクション…?」

「なんだ、多分って」


煮え切らない返事に少し不満げな顔をすると、伯父は、俺の目の前にグラスを置いた。俺専用の空色のグラスだ。中身は、カクテルではなく、メロンソーダだが。


「酒じゃねえの」

「未成年に飲ませる酒は置いてねえかんな」


ムッと頬を膨らませる俺を横目に、彼は話の続きを促した。この事件の内容は、随分昔に話題になった本に書かれていたものだ。週刊誌などにも取り上げられ、本の内容があまりにもリアルに表現されていた為に、これはフィクションなのか、ノンフィクションなのかと世間を騒がせたという。ただ、その本の作者が既に亡くなっており、前者か、後者かという確認は、結局、取れなかったらしい。その後、幾つか複製本が出版されてはいるが、全ての内容が混濁しており、はっきりと正しい内容が書かれた原本のことについては、いつしか世間から葬り去られてしまったとのこと。


「どっかで保管とかしてねえのかな」

「見たいのか。知らない方が良いこともあるって言うだろ。世間様から忘れられたってことは、そういうことなんじゃねえのか。それに――、」

「なんだよ」


全てを飲み干したグラスに、伯父はまた、ジュースを注ぐ。辺りを見ると、閉店間近ということもあってか、客はぽつぽつと席を立ち始めた。そして、誰も居なくなったところで、彼は再び口を開いた。


「……わざと揉み消されたってことも、考えうるだろうよ」

「……、おっそろしい話だな。世の中はこれだから」

「ははっ、ガキが何を言う」


軽く笑い飛ばしてくる伯父を睨みつけながら、俺はなんだか悔しくて。小さな反抗としてカウンターに突っ伏して、腕に顔を埋めた。彼は一度店の外へ向かうと、ドアの前にかかっているopenと書かれた看板を裏返し、また店の中へと戻ってくる。週に二、三回は見ている光景だ。


 俺には両親が居ない。居ないと言っても、先程の物語のように殺されたとかでは無く、母は病で倒れて、今は大学病院で静養中。父は、単身赴任で遠い遠い北国へ。母の入院費は、なんとか俺のバイト代で負担している。とはいっても、大方、伯父に助けてもらってはいるが……。


「そういえば、そんな化けモンの話、聞いたことがあるな…」

「えっ、やっぱノンフィクションっ!?」


そう言って、俺が期待に満ちた顔を上げると、まあ待てと、呆れた顔で宥められた。俺はこの手の話が昔から大好きで。かといって、活字は苦手なので、新聞や推理小説を愛読する訳でもなく、ほとんどは伯父の語る話を興味津津に聞きながら頷いているだけなのだが。


「また別の話だ。たまに、そういう化けモン染みた子供が居るって話だ。自分が人を殺したにも関わらず、罪悪感すら持たず、更にはそのことを周りに誇らしげに触れ回り…。あいつらは、生まれた時から化けモンなんだ」

「そういうのってさ、やっぱり、親の影響とかあったりすんのかな」

「それもあるだろうな」

「へえ…」


カラン、と、グラスの中の氷が鳴る。そろそろ夜が明ける。時計を見ると、午前四時を回っていた。次のバイトまでまだ時間がある。


「次は、来週かな。また遊びにくんね」

「おう」


優しく笑いかけてくれる伯父の快い返事を背に、片手を上げて店を出ると、手に持っていた厚手のコートを羽織り、次の目的地へと足を向けた。


 母が入院している病院は、以前、俺も足の骨を折った時に入院したことがあった。俺の知り合いがそこで働いていることもあって、そこが一番、頼りにしやすいのだ。真っ白な廊下の上を、幾つかの病室が並ぶ壁の表札を見ながら、母の名前を探して歩く。母は一人部屋に居る。何度か二、三人専用の部屋に移されたこともあったが、結局は、一人部屋に戻されてしまう。


「母さん、カウンセリングは終わったの?」


 笠原静子かさはらしずこと書かれた表札のある部屋の扉をノックする。いつもの明るい返事が聞こえ、安心して中に入ると、母は元気そうな笑顔をこちらに向けた。そして、俺はいつものように、彼女に触れられないぐらいの位置で、椅子に腰を掛けた。この距離を保っておかないと、彼女が暴走した時に困るからだ。母は少し、ヒステリーなところがある。もう一度、同じ質問を繰り返すと、彼女はゆっくりと首を横に振る。また断ったのだそうだ。


「そう。焦らなくても、ゆっくり治していけば良いからね」

「有難う、あおちゃん。そういえば、受験は終わったんだったかしら」

「終わったよ。安心して、無事、中学は卒業出来たんだ」

「そう…」


ほっとしたように、胸を撫で下ろす彼女。この遣り取りをしたのがもう何度か、俺は覚えていない。



 「ホントですかっ!?」


俺は電話越しの人が言った言葉に、喜びを隠せなかった。どうやら、以前、伯父に話したあの有名だった本の話を知ってる人が居たらしい。あの正しい結末がどうしても知りたくて。伯父がバーの客にそれとなく話を聞いてみてくれていたそうだ。というか、恐らく、彼も続きの内容が知りたかったに違いない。今、電話をしている相手というのは、伯父の知り合いの高松誠二たかまつせいじさん。彼は、一度、あの本の原作を読んだことがあるらしく、後日直接会って、内容を語ってくれるという。そして、次の週。


「バイトは終わったんだね。健吾(伯父)さんが、藍はバイトを掛け持ちしてるんだって言ってたけど、高校は大丈夫なのかい? 勉強も大変だろうに」

「ああ、はい。まあ、なんとか」


高松さんの家に上げてもらった。お座敷まで案内され、お茶と茶菓子まで出してもらい、人が良さそうなオジさんだなあと思っていた矢先に、早速、痛いところを突かれ、俺は苦笑いを浮かべた。そしてその様子に、俺の心中を察したのか、彼は陽だまりのような柔らかい笑みを浮かべると、その種の話を切り上げ、本題に入った。前半は、俺が知っている内容と全く同じだった。


「ドイツ製のビー玉…、ですか」

「そう。ドイツ製の、ビー玉を使った遊び道具があるらしい。そのビー玉らしいんだ。現場で見つかったのは」


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