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ストーリー4 「道中」

 私は王室の壁を破壊し、王宮から抜け出した。


 王室を抜けた直後に、背後から複数の銃声が響いていたのが聞こえた。恐らくは気絶していた警備の人間が立ち直って追いかけてきたのか、カインが体の痺れを解いて追いかけてきたのくか、またはそのどちらかが他の警備の人間に通報したのだろう。


 流石に何百メートルも離れた距離から機関銃を当てることは不可能だ。そもそもに弾丸が届かないだろうし、スナイパーライフルがあったとしても遠く離れた動く的を当てるのは容易ではない。私やあの男くらいではないと弾丸を当てることは不可能だ。


 しかし、これでウェストバーグ全体で騒ぎになり、それが世界中のニュースで放送されるだろう。そうすれば全国民の注目を再び浴びることになってしまう。


 それならば、出会った警備の人間やカインを始末すればよかったのに、と言われると「そうだな」とは答えられない。


 私はこれから私を攻撃してくる人間を殺してはならないのだ。いくら相手が武装してきても、どれだけの人数で襲ってきても、殺してしまえばそれはただの殺人鬼だ。魔物ならまだしも、人間は絶対に殺してはいけない。正当防衛ですら今は私を敵として見なしてしまう。


「全く、理不尽な話だ・・・」


 思わずそう呟くと、クレアがこちらを心配そうに眺めてきた。こんな些細なセリフでもクレアは私の精神状態を感知したようだ。全く賢い相棒だ。心配をかけたなと私は頭を軽く撫でてやった。


 私は王室から抜け出した後、そのままクレアに乗り、四つ離れた街、「ライブリィ」に向かっていた。 クレアとは銀色の毛並みが美しい銀狼(シルバーウルフ)の事だ。


 鋭い牙や爪は言わずもがな、強靭な肉体に持久力とパワーを兼ね備えて戦場を駆け巡ることが出来る。それに知能が高く人間の命令などを容易に理解することが出来る。


 それ故に昔からの相棒であり、ピンチの時も移動の時もクレアに何度も助けられてきた。今回もクレアの力が必要だと思い王宮から連れてきたのだ。


 しかし、エアバイクやエアカーにも劣らない速さで走れるとは一体どんな脚力をしているのだと私は感心した。乗り物にも匹敵する時速で何時間も走っていられるのだ。


 だから王宮でじっとさせられていて、さぞ運動不足であっただろう。今までよく我慢していたと思った。だがそのブランクも無くいつも通りに走っているのを見て私は驚いていた。


 それにどこか嬉しそうな顔をして走っている。時々こちらの顔を見ながら走っているため、頭をなでてやるがその度に後ろの尻尾を見ると大きく振っているのだ。久しぶりに私を乗せて喜んでいるのだろう、と勝手に思った。


 ウェストバーグからライブリィまで半分ほど到達した頃、私はしばらく何も食べていないことに気が付く。胃の中が何も入ってなく空っぽのようで、腹から抗議の音が鳴りかけていた。それもそうだろう。昨日の夜から何も食べていないのだから。


 さて、そろそろ食事にしようか。最近では追われることが多くなり街の中で食事を取る回数が減っていった。だから、野生の野兎などを狩って食していることも少なくない。ましてやクレアが居る状態では店には入ることすらできない。


 流石に王宮にずっと待たせたクレアを置いて、一人だけ店で食事という事は出来ないし、そんな事はしたくは無い。私はクレアに止まるように言った。


「クレア、ここら辺で食事にしよう」


 そう言うとクレアは一回だけ吠えてスピードを緩めて止まった。今いる場所は、今回の目的地であるライブリィの半分は来ているところにある草原だ。ここの場所には凶暴だが栄養価が高く、高級食材に分類されるオレインバッファローと呼ばれる魔物が居るのでそいつを狩るとしよう。


 そんな事をクレアに言ったわけでもないのにクレアはどこかへ消えて行った。ったくコイツは本当に利口な奴だ。昔訪れたこの場所を覚えていて、私がその時食べはしなかったのだが、オレインバッファローについて説明したのを覚えていたのか。


 凶暴で目に付くもの全てに攻撃する魔物で、オレインと言う名前の由来は、オレイン酸から来ている。 牛肉の風味に最も影響を与えるとされる物質で、一般には、コレステロール値を下げる働きがあるとされるなど、健康につながる成分として知られているとクレアに説明した。


 まあ、狼であるクレアに成分の説明する必要は無かったと今では思うのだが・・・。


 オレイン酸を豊富に含み、味の良い肉の高級食材として扱われている。昔こそ店で食べられていたし、魔物を倒して食べるなどという考えは無かったのだが今は違う。安心して眠る場所も少なくなった今、店に寄るなどという贅沢は言っていられなくなった。


 そんな事を思っているとオレインバッファローを咥えてクレアが戻ってきた。自分と同じ位の大きさの魔物を咥えるとは大した顎の力だ。それにあんな短時間で仕留めるとは、心配していたがどうやら狩りの腕は鈍っていないようだ。


 クレアは私の前にオレインバッファローを置いてきた。恐らくは私にあげると言っているのだろう。


「クレア、ありがとう。でもこれはお前の分だ。私は自分で狩ってくるから待っててくれ」


 クレアの捉えた魔物が食べられないと言っているわけではない。クレアに依存しないためだ。クレアに頼りきった生活をしていればいつかきっとボロが出る。そんな油断が背後から撃たれたり、不意打ちをされるといった事に繋がる。


 クレアは利口だ。きっと私が言おうとしていることを理解してくれるだろう。そう思って私は草原の奥へと向かって行った。クレアは私の目をじっと見た後に座り、待機していた。


・・・

・・・・





 草原を道なりに進んでいると案外早くオレインバッファローと遭遇できた。運が良い。(オレインバッファロー)は私を目視した時にはすでに鼻息が荒く、私を近辺を荒らすものだと勘違いしているようだった。


 まったく、本当に気性の荒い奴だ。それに奴の角、クレアが咥えたものより大きなもので立派なそれは、刺されば内臓を貫いて死に繋がることを意味している。


 私はクロムレアを取出し、展開させた。納刀時よりも倍の大きさになり威厳を増す。体を半身にして、右腕を前に出した事によって、両者とも戦闘態勢は整った。


 先に向かってきたのは言わずもがな、魔物であるオレインバッファローであった。後ろ足で地面を数回蹴った後、一直線に猛突進してきた。辺りの草原を散らしながら興奮状態で鼻息を荒げながら向かってくる。


「フン、中々のスピードだな」


 一般人ならば反応できずに角に突き刺さり即死するだろう。それ故にこの魔物は捉えるのが難しく、市場に出回ることが滅多にないという。


 だが相手が悪い。私は力を抜いて、オレインバッファローの突進を躱す。直線的な攻撃など躱すのは容易い。躱した後に私は一旦距離を取る。すると、また何回か地面を蹴った後にこちらに向かってきた。先程の攻撃が当たらなくて機嫌が悪いのか、先程よりスピードが増していた。


 今度は反撃に移らせてもらう。


 私は角がぶつかる瞬間、オレインバッファローの頭を土台に前転して背後へ回り込んだ。まるでこの魔物と打ち合わせをしていたかのような出来具合だ。こんな危ない芸当、タイミングが少しでもズレていたら、角が突き刺さって死んでいただろう。


 目標を失い、急ブレーキをかけたのが仇となったオレインバッファロー。クロムレアを横に振り、そのまま後ろ足を斬った。腱を断ち切った感触が確かにして苦しみの声が聞こえてきた。こうなれば満足には動けないので、突進を武器とするコイツにとって致命傷だ。


 あまり苦しみを与えて殺すのは酷なので次は首を狙う。動きの鈍った魔物は避けることも、抵抗することも無く首を斬られて地面に崩れ落ちた。


「悪いな・・・」


・・・

・・・・





 クロムレアで血抜きをしていると、クレアがこちらに自分の分のオレインバッファローを咥えて連れて来た。そこまで気を遣わなくても私が自分の分を運んだのに。


 近くの木を焚火の代わりにする。火は私の雷属性の魔法で起こす。簡単に火が付き、オレインバッファローをゆっくりと炙っていく。クレアはそのまま食べていた。まあ、鮮度はあるし、元々狼は生食だから問題は無いだろう。


 程なくして肉は焼きあがる。それを四分の一ほど食べ、残りはクレアにやる。自分で殺しておきながら、全て食べないのはどうかと思ったが、流石に牛ほどの大きさを一人で食べるのは無理だ。


 クレアは満足そうに平らげていた。久しぶりに満腹になったのだろう。恐らくは王宮での扱いはあまり良くなかったと思われる。私が不甲斐ないために申し訳ないと思った。


 空を見上げるといつの間にか日が暮れていた。通信機の時間も夕方を指していて、思えばウェストバーグを訪れてから今まで半日は経っていた。


 間もなく夜になるだろう。このまま夜道を移動するのにはリスクがいくつかある。一つは魔物が凶暴になる事。大抵の魔物は夜になると行動が活発的になり凶暴性が増す。それだけならまだ良い。クレアの嗅覚と私の実力からして余程の事が無い限り、最悪の事態には陥らないからだ。


 問題は人間だ。現在、私を追跡している人間が目的地で待ち伏せしている可能性がある。エアカーやエアバイクに乗るとすぐに移動できるため、先回りされてトラップを仕掛けられたり、集団で待ち伏せされると流石にマズい。銃弾などどこかに当たりでもすれば、動きが鈍りハチの巣にされてあの世だろう。


 それらの可能性を踏まえて今日は野宿だ。満天の星空の下で夜を過ごすのも悪くは無い。幸いこの近くには綺麗な川が流れているため、体の汚れの心配はいらない。


「クレア、今日は野宿にする」


 満腹になり満足そうに前足を舐めていたクレアが私の方を向いて吠えた。この小さく頷くように吠えたときは、私の言っていることを理解して従うという意味だ。


「川に一緒に入ろう」


 そう言うとクレアは嬉しそうに吠え、私を背中に乗せた。川の位置を覚えていて私をそこまで運ぶつもりなのだ。本当に普通の人間よりも空気が読めて賢いだろうな、と思った。


 程なくして川に到着した。川は透き通っており、汚れとは全く無縁の川で、流れる音はどこか心地よい。不満があるとすれば川の水温だが、周りの気温もそれ程まで低くはないので耐えられない程では無い。それに今この状況で贅沢は言えまい。


 近くにある木に服を引っかけてポーチを地面に置いてから川に向かう。一応、クロムレアだけは川の付近に置いておく。魔物が現れる可能性がある以上、丸腰ではいる訳にはいかない。戦闘の際全裸になるのだが、仕方がない。


 水の冷たさなど入っていれば慣れると思い、さっさと川に浸かっていった。私が入ったのを見てクレアも後に続く。


 すでに太陽は沈んでいて、綺麗な星がいくつか覗くようになっていた。この水が温かったらゆっくり浸かって星を眺めるのも悪くは無い。その時だけは今の状況を忘れられるだろうと思った。


 隣を見るとクレアが気持ちよさそうに浸かっていた。私は素手でクレアの毛を洗ってやった。すると気持ちよさそうに動かなくなりじっとしていた。クレアを洗うもの久しぶりだ。フワフワとした柔らかい毛が何とも心地よい感触だ。


 一通り洗い終えると、今度はクレアが私の背中を舐めてきた。お返しをしようと舌で洗ってくれているのだ。


「ありがとうクレア」


 体を洗ってもらい、髪の毛を洗い終えた頃に体が冷えてきた。流石に川の水に数十分浸かっていると冷えるのも無理はない。そろそろ上がる事にしようか。


 体の水分手で拭いてを飛ばしてから服を着る。クレアは少し離れたところで体を大きくふるっていた。水分が大量に飛び散り、わずかだが私の方へ飛んでくる。ある程度水分を飛ばした後、クレアは自分の体を丁寧に舐めていた。


 さて、これで特にすることが無くなった。本来ならばまだ寝る時間では全然ないのだが、これ以上起きていても仕方がないので寝ることにした。


 明日はアレックスに会わないといけない・・・。もしかしたら戦闘になるかもしれないのでゆっくり休まないとな。


 体の乾いたクレアが草原の木にもたれかかりながら横になり、その毛に包まれるように私は寝た。柔らかい毛の感触は天然の毛布みたいで洗いたてのタオルのような香りがする。


 先ほどまで睡魔など全く無かったのに、ゆっくりと意識が遠くなっていった。


(おやすみ、クレア・・・)











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