表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

ストーリー2 「中心都市」


 リオンが現在訪れている場所はウェストバーグであった。


 この世界の中心都市であり、王宮も或るいわゆる世界の中枢部分の街。世界の人口の約二割が住むという超巨大都市であり、超巨大都市というよりは、国そのものと言ったほうがふさわしいような場所である。車やバイクは空を飛び、ビルや建物は何十階、何百階なんてものはザラである。


 人々が住む住宅も一つ一つが豪華であり無駄のない設計で造られているものが多い。この都市に来た者は文化の発展をしみじみと感じることが出来るであろう。


 その都市の外れに一人の女性は居た。ブロンズの鋭い瞳に左右非対称の髪が特徴的であるリオンであった。辺りを何度も見渡し、人が居ないことを確認してから準備に取り掛かる。


「さてと・・・」


 一人そう呟くと戦闘服の上に着ていた黒服のフードを外し、腰に掛けてあるポーチから通信機を取り出した。現代の人間ほぼ全てが所持しており、様々な役割を果たす無くてはならない存在である。指でスライドしてウェストバーグの地図を確認する。


 地図を確認するまでもなく、完全に人目につかないように王宮に行く方法は不可能であった。空を飛ぶことのできるエアカーやエアバイクは空中警備に引っかかるためもってのほか、普通に徒歩でも警備に引っかってしまう。それが今回は不都合であり、目的の妨げになってしまう。


 ウェストバーグは世界の中心都市だけあって広い。それ故にこの都市ではエリアと呼ばれる区域に分けられており、各エリアに住む人や目的が違う。


 エリアレベル1と呼ばれるウェストバーグに入って手前から三分の一の区域には、一般人が住むところが多い。住宅や生活用品店などが山のようにあり、お金さえあれば利便性で困ることは無いと言える場所でウェストバーグで最も人口が集中するところだ。


 エリアレベル2と呼ばれるのがウェストバーグの中心の区域で主にビジネス関係の建物が多い。エリアレベル1から出勤して仕事をする一般人も多く、世界の技術などを発展させている。別名ビジネスワールドと呼ばれていて、様々な会社の本社が集まっている。


 そしてエリアレベル3がウェストバーグの奥にある区域である。この区域は世界的に有名人や偉業を成し遂げた人が住む場所で一般人は入ることすらままならない。それにこの区域には王宮が存在している。


 さらに、それぞれのレベルの区域に入るためには警備を潜り抜ける必要があり、レベル2までなら一般人でも通ることができるのだが、普通の人間はレベル3の警備に引っかかり王宮や偉人に会うことすらままならない。それこそ世界を動かすレベルの人間かそれの護衛を務める人間くらいしか警備を潜り抜けることはできないのだ。


「さて、行くか・・・」


 だから、人目のつかないレベル1区域の住宅街の奥に一人だけいるのには訳があった。背中からクロムレアを取出して展開する。二倍ほどの大きさになった後、剣の状態を確認する。


 この間のハンティングウルフの血は綺麗にふき取ってあり、銃創の弾丸は装填されている。現時点で弾丸を確認する必要は無いのだが、癖によって行われたことに笑った。


 そしてクロムレアをそのまま地面に向かって何回か斬りつける。固い感触があったがその中でもしっかりと手応えは感じられた。


 するとどうだろう、地面にマンホールのような丸い穴が姿を現したではないか。それは人間が意図的に形作らなければ決してできない穴であった。


「まさかこんな形で役に立つとはな・・・」


 それだけ言うとリオンはクロムレアをさっさと折り畳んで腰にしまい、出来た穴の下に飛び降りていった。下は真っ暗だが何の躊躇も無く数メートルを下り、カツンと甲高い音を立てて着地した。両足がわずかに痺れたのだが、気にするようなレベルではない。


 地下に降りると温度差をすぐに感じられた。地上とは違い肌寒く、薄暗くてやや視界が悪い。明かりは壁に取り付けられたロウソクしかなく、それが規則性に従って並んでいるだけである。


 そして目先には一本道が続いていた。人一人しか通れないわけではなく十分な通路があり、狭苦しいといったことにはならないが、空気や明るさ、温度が感覚を不快なものに変えていく。


 それでもリオンは顔色一つ変えずに道を進んで行った。カツンカツンと自分の足音だけが地下に響き渡っていると感じながら通信機を取り出す。


 通信機は反応している。こんな地下でもきちんと電波を拾っている高性能な通信機である。今はレベル1区域の半分を過ぎたところだ。やはり歩きだけではこの街を回るのに相当時間がかかるな、と思っているときだった。


 通路の奥から蛙のような鳴き声が複数聞こえてきて、地面を跳躍してペタペタといった音が聞こえてくる。不規則な音からして複数体いることが(うかが)える。この先に魔物が生息しているのだろう。


「いつの間にか魔物の住処(すみか)になったのか?」


 いつもと変わらない口調で何の緊張感もなくそう言い、腰からクロムレアを取出し展開した。折りたたんでいるときの二倍の大きさになったが、振り回しても何の支障もないくらい広い一本道だ。


 そのまま進んで行くと、やがてその姿を確認できた。中型犬くらいの大きさである両生類の魔物、ブラッドフロッグが跳躍していた。


 湿度の高い場所を好み、ウェストバーグの外のため池や水場にもよく集団で生息している魔物で、単体であれば大人でも容易に追い払うことができる雑魚魔物である。それに食用にもなるため、意図的に狩られることもあるそうだ。


「1、2、3、・・・5体か・・・」


 落ち着いた様子で頭数を確認すると、クロムレアを軽く握りしめ戦闘態勢に入った。体を斜めに向けて利き手と反対の右腕を前に向ける。体を斜めに向けるのは重心のバランスを取るためと攻撃の際、勢いをつけるためであり右腕を前に構えているのは相手との距離感を正確に測るためであった。


 そして脚に力を入れ地面を蹴り一気に斬りかかる。ブラッドフロッグの群れはリオンに気が付いていない。クロムレアを強く握り腕の力と手首のスナップを利かせて跳躍していたマヌケなブラッドフロッグの背中を断ち切る。


 本来急所を的確に捉えるリオンだが、それをするまでもないと判断して背中を斬りつけた。縦に斬った勢いに任せ、次は横に薙ぎ払う。これが一体の喉元を捉え絶命させる。


 どこに当てても倒せると思って適当に横に斬りつけたつもりが、気が付けば首の当たりを薙いでいたことに笑った。こんな相手でも無意識に手が抜けないように攻撃していたらしい。それはそれで悪い事ではないのだが。


 残り三体も難なく斬り捨てて片付ける。別に恨みはないのだが、進んでいる途中妨害された挙句に鳴き声などによって、まだ一本道の奥にいるかもしれない仲間を呼びつけられては困る。


 ピンチになる訳ではないのだが面倒になる可能性は出来るだけ取り払っておきたかった。だからこそ出来るだけ楽に片づけてやろうと、急所を次々と切り裂いていく。


「悪いな・・・」


 それだけ言ってクロムレアの血を払い腰にしまった。そして何事もなかったかのように足を進めて行った。


・・・

・・・・







 凛とした姿で淡々と進んでいく中、ポーチに手を入れ通信機を確認する。地図上ではレベル3区域に到着したのが分かった。すでに何時間も時間が経過しているらしく、いい加減この道も飽きてきた頃だったので丁度良かった。


「そろそろか・・・」


 やがて薄暗い道は行き止まりになり、一本道は終わる。ブラッドフロッグにはあれから4体だけ出くわしただけで他には何もいなかった。先程の奴らと同じように片付けた。


 梯子がある以上出口があることは明確であり、天井にはかすかに丸い跡が見える。フタは見つかっても壊れてもいないようだ。


 梯子を伝い天井の壁を上に向けて力一杯押すと、きちんと天井が持ち上がった。もしかしたら古くなって開かないかと思ったが、心配無用だったようだ。


 マンホールのフタのように天井が開き、まぶしい光が差し込み温かみを感じられる。その光に目を細くし、頭だけ出して辺りを見渡してから身を乗り出した。


 持ち上がったフタをもう一度静かに閉じておいてから、顔を建物に向けるとそれは確かに王宮だった。 レベル3区域の王が属していた場所。流石に警備も固いだろうが、こんな裏道の誰も知らない地下通路から人が通るとは思わないだろう。


 と思っていたのが隙を生んだ。


「動くな・・・」


 声の主は男性で、低く威厳をもった声だった。


 その声を確認した時にはもうすでに遅かった。反応が遅れて背中に剣を突きつけられているのが分かる。私にしては警戒を怠ったなとリオンは内心でかすかに笑っていた。




誤字脱字等がありましたら指摘してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ