ストーリー1 「リオン」
若干のグロ描写があると思います。苦手な方はお戻りください。
突然白い閃光に目が暗み、視界がホワイトアウトした後、気が付けば囲まれていた。恐らくは閃光手榴弾によるものであり、着弾と同時に高音と光を発して主に相手の動きを止めるために使用される。見つからないようにと顔を隠していた黒服のフードが仇となり、光と音を防ぐことは無かった。
黒服のフードを外し周囲周囲を確認すると、大人と同じくらいの大きさで鋭い爪と牙を持つ魔物である狩猟用狼が七頭にそれを統率する人間が一人居た。
耳鳴りが収まり、視界が鮮明になりその様子を確認した女性は「フン」と鼻を鳴らした。まるでまた雑魚を相手をするのかと言わんばかりだ。
鼻を鳴らしたのは身長が百七十センチはあるであろう鋭いブロンズの瞳を宿し、左右非対称の髪の毛が特徴的な女性であった。
女性は魔物の頭数と人間の武器を確認した後、腰に掛けてある折り畳み式の剣であるクロムレアを背中にかけてある剣専用の入れ物から取り出した。
取り出す際、つかの部分の装置を押すことで折りたたんであったクロムレアが、まるで機械のように徐々に展開されて、剣の形になっていく。
二倍もの大きさになった剣。つかの部分の稲妻のマークの付いたメダルをある人間達が見れば、その剣が、その保有者がどういったものか容易に分かる。
事実、人間はその剣の稲妻のマークの付いたメダルを見て、彼女がどういった人間か元々分かっていたのにも関わらず思わずたじろいでしまった。
自分に恐れをなして体が震えている人間ほど容易いものはない。精神的には最早先手を取っていると見ていいからだ。彼女はそれを見ても手を抜こうなどと生ぬるいことは考えなかった。
体を斜めに向け、利き手と反対の右腕を前に構える戦闘スタイル。体を斜めに向けたのは剣などの攻撃を当たり難くし、重心のバランスを取るためと攻撃の際、勢いをつけるためであり、右腕を前に構えているのは相手との距離感を正確に測るためだ。
脚に力を入れ、地面を蹴り上げて相手に向かう。生み出された脚力は相手との距離を一気に詰め、一番近くにいたハンティングウルフの喉元にクロムレアを通した。
「斬る」と言った表現が不適切なほどに滑らかな剣筋は喉の奥深くを断ち切り、まるでスプリンクラーのように血を噴出させた。その感触をしっかりと確かめて次の標的を定める。
そして返り血を浴びるより先に次のハンティングウルフの喉元を切り裂く。二頭は叫ぶことすらままならずに絶命していた。
まずは二頭。それを頭の中で確認してから、わずかに息を整えて真っ直ぐ視線をやる。
後ろから跳躍し、地面を鋭い爪が強く弾く音した。ハンティングウルフが自分の元に向かって来るのが音だけで正確に分かる。
彼女はそれを振り向きもせずクロムレアを後ろに振る。鋭い牙が喉元まで達する前に、空中に浮いていたそれの体は横に真っ二つになり地面に転がっていった。
その残酷な様子を一部始終見ていた人間がようやく動き出した。ボーっとしていたわけではない。圧倒的光景に恐怖で体が動かなくなっていたのだ。
「うああああああ!!!!」
悲鳴にも近い声で叫びながら機関銃を取出し、彼女に銃口を向けて引き金を引く。取り出してすらいなかった機関銃の無様な構えなど最早脅威に値するわけもなく、彼女は鼻で笑っていた。
瞬時に彼女は一番近くにいたハンティングウルフを剣のつかで殴り気絶させた。そしてそのハンティングウルフの背後に回り込み、首筋を掴む。
やかましいほど連射された銃声は決して目標を捉えることは無く、その代わりに首筋を掴まれて身代わりとなったハンティングウルフに全て吸い込まれていった。
一発も命中していない中、引き金の感触はしなくなった。弾数がゼロになったのにも関わらず、人間が引き金を引いているのは恐怖からくる心理行動なのだろうか。
「初心者が・・・」
そんな事を思いながら、彼女はそれだけ呟いてから掴んでいたハンティングウルフを投げ捨て、弾切れになった機関銃をクロムレアで弾き飛ばして人間の後ろに回り込む。
簡単に機関銃は吹き飛び、無防備になった人間の首を腕で強く押さえつけてから片手でクロムレアを突きつけて動けないようにする。人間は苦しそうな声と恐怖の声を同時に発した。
それを見た瞬間、ハンティングウルフ達の動きが止まる。統率者が捉えられて一旦行動不能になり、様子見といったところだ。
四頭のハンティングウルフ達は横一列に並んで鋭い牙をむき出し、彼女を威嚇している。だが決して襲っては来ない。それをしてしまったらどうなるかは今までの光景で容易に想像できるみたいだ。
「あのお方を殺してもまだ殺し足りないのか!! リオン!!!」
人間は彼女に向かって言う。どうやら彼女の名前を知っているようで、その声は涙声で全身がガクガク震えて今にも崩れ落ちそうだ。そんな状況で良くもまあ強気な発言ができるなと半ば呆れながら彼女は思っていた。
「お前と無駄話をするつもりは無い・・・」
それだけ言うとリオンはつかの部分の引き金に手を引き、一番右にいたハンティングウルから順に撃ち抜いていった。銃の反動をものともせず正確に。
そう、このクロムレアは剣であり銃でもあるガンブレイドなのだ。六転式のリボルバーが一発ずつ回転し、銃口から煙が流れる。四発だけ銃声が響き、ハンティングウルフ達は順番に地面に倒れて動かなくなっていった。
全て頭部に正確に命中しており、即死していた。硝煙の香りが人間の鼻と恐怖を刺激し、言葉にならない声を上げていた。
「お前みたいな下っ端からは何の情報も得られないな・・・」
捨てるようにそう言うと、クロムレアのつかの部分で後頭部を殴った。鈍い音がした後、人間は情けないほど簡単に気絶し、地面に倒れてしまった。ハンティングウルフ達のようにしなかったのは殺さないためであった。もちろんする事は容易であったが。
気絶したことを確認するとクロムレアを納刀し、くるりと踵を返した。どうやらここは用無しのようで長居をする必要はないらしい。
「さて、クレアを連れて行こうか・・・」
リオンは一人そう言うと気絶した人間と絶命した魔物を放置してこの場を立ち去って行った。
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