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第6話「神の力④ -奪取力-」

 一人と一匹の無言の交戦に気付かないまま、暗がりの中を駆け寄る一つの影があった。

 加害者である。

 耳が隠れるほどの長さの滑らかな黒髪は汗に濡れ、向かい風を受けて広めの額を晒けだしている。切れ長の目には明らかな疲労感が見て取れた。

 それも当然だろう。神野じんのが大サソリとかち合っている間に、引き受けた小サソリの群れを余すことなく銃で打ち抜き、絶命たらしめたのだ。そこまでやってのけた彼の技術は熟練の軍人にも匹敵するほどと言って良い。

 だが、そんな褒め言葉が今の彼にとって何の足しになるだろう。胸を焼くような焦燥感が疲労困憊の体さえ突き動かしている。理由は明白だ。巨大な緑に光る物体のすぐ側で時折煌いていた小さな光。それはおそらく───

「やっぱりあいつの頭か!!」

 予想通りだった。しかも、向かい合っている存在まで予想していた通りだ。できれば外れて欲しかったと心中で毒づく。

「アレが王……凄まじい毛配(気配)だ……!」

 ムラサキドクオオサソリには群れのあるじたる王が存在することが確認されている。あまりの巨大さに餌の確保手段等で様々な憶測が流れているが、実際のところは一切不明だ。当然である。いくら近代兵器があろうと、近づくなんて余りにも無謀でヤバ過ぎるのだ。

 初めて出くわした生態調査チームは映像を撮ることに成功したのはいいものの、そこには洒落にならない悲鳴を上げ、涙と小水を駄々漏れさせながら逃げ惑う調査員達の姿が映されていたという。護衛の軍人達がいなければ、映像どころか命を持ち帰ることも叶わなかっただろう。

 後に彼らは口々に言った。知的探究心の先にあったのは恥的体験だった、と。ちょっとした諧謔味があるのは彼らに残された幾ばくかのプライドの発露である。悲しい男たちの見栄である。

 とにかく、いくら対抗手段があっても、出来る限り人が相手すべきものではないことは間違いない。が、それを言ったところで今の神野が引くはずもなかった。

「やめろ!そいつは───」

 走りながら大声で喚くも、一歩遅かった。れた神野が大サソリに向かって突撃を開始したのだ。サソリは大きなハサミ二つを地面に突き刺し、残る二つを振り上げて迎え撃つ。

 加害者には無謀にも思えただろう。だが、神野にとってはそうではなかった。体の調子が異様にいいのだ。ハサミをことごとく回避して背に登れると思ってしまうほどに。

 その予感は徐々に事実へと近づいていった。次々と明確な殺意をもって振るわれるハサミを神野は本当にことごとく回避していく。素人の体捌きではあったが、反応速度が異常に速い。ひらりひらりと白いスカートが舞う中、目まぐるしく動くハサミは神野の体をかすりもせず、一歩、二歩、三歩と確実に近づいていく。あまりに上手く事が運ぶので、神野は声を上げて笑った。

「はは、いける!いけるぞ!」

「すげえ……」

 それは、大サソリが体を支えるために二本のハサミを動かさなかったことにも起因するが、それであっても見事だった。予想外の事態に目を丸くする加害者を他所に、神野は目的達成への道を着実に歩んでいる。

 ……ように思えたのは、そう長い時間のことではなかった。大サソリが体勢を崩すのも厭わず、残る二本のハサミすら神野への迎撃に向けた時から状況は一変した。

 怪物が有するハサミ四本は、四方八方から狂ったかのごとく神野へと襲いかかっていく。はじめはなんとか回避していた。だが、時を経るにつれ、今度は一歩、二歩、三歩と後退していく。神野は汗を飛び散らせながら不満も飛ばした。

「くっそッ!数が多けりゃいいってもんじゃねえだろうがッ!!」

 否。数は力である。

 見よ、数を武器に攻勢に転じる怪物を。

 見よ、頭皮から数を失いし神野の劣勢を。

 前、右、左、と三方から同時に向かってくるハサミをかわしきれないと判断し、たまらず神野は後ろに大きく飛び跳ねた。それが致命的だった。怪物は空中で身動きの取れなくなった神野に残った一本で決定的な一撃を繰り出したのだ。

「やべ……ッ!!」

 神野が死を覚悟したその時、耳をつんざく重低音が鳴り響き、目前のハサミに大きな穴が穿たれた。衝撃で失速したハサミは神野の手前の地面を抉りとるに留まる。

 状況は理解できなかったが、それでも神野は更に後退───完全に振り返って走り出した。命の危機が神を求める激情を上書きしたのだ。

「大丈夫かッ!?」

 大声で呼びかけられて、ようやく神野は加害者の存在に気付いた。離れた位置から煙を噴出す銃口を大サソリに向けている。

「ああ!助かった!」

 礼を言いながら神野は加害者の方へと駆け寄った。顔だけで振り返って大サソリを見てみると、穴の空いたハサミに違和感があるのか軽く振り回している。すぐに追いかけてくる様子は無い。少しは安心したのか、肩で息をしながら、神野は力なくうつむく。

「マジで死ぬところだった……」

「そりゃそうだろ!なんであんな無茶な事を!」

「しょうがねえだろ。アレの背中にあるみたいなんだよ」

「背中って……シャンプーが?本当かそれ」

「それらしき影があったのは間違いねえ」

「確証はないんだな?」

「ああ。だからどうにか確認したいんだが、どうにも見え辛くてなあ。ああ、明かりが欲しい」

「明かり?明かりか……」

 本日一体何度目か、加害者の視線が再び神野の頭頂に注がれる。

「手はなくもない、けど……」

「持ってるのか?だったら頼む」

「アレを使うことになるんだ。……辛くないのかい?」

「何がだ?」

「……っ!あんたは一体どれだけ……いや、そうだよな。最初に会ったときからそうだった。あんたは俺がこれまで会った誰よりも強い。尊敬すら覚えるよ」

「いや、だから何が?」

 驚愕に切れ長の目を見開く加害者に、神野は困惑の表情を持って応えた。それですら加害者にとっては意外だったようで、一つ吐いた息には感嘆の感情が込められていた。

「……意にすら介してない、か。謝罪は筋違いだよな。だったら、俺はあんたのその心意気に全力で応えるよ」

 最後の断りを入れて加害者はすっと目を閉じ、精神集中を開始した。

 己の内に御座おわす神、含有神がんゆうしんに呼びかける。それは神野が知らない、知るはずも無い未知の力だった。静寂の中で胎動する何か。加害者から異様な圧力が漏れ出し始める。


怒髪どはつてんッ、しょうーーッッ!!」


 それは言霊ことだまだった。言葉そのものが持つ力が、加害者の内なる者を揺さぶり起こす。

 髪は逆立ち天をき、髪光現象はっこうげんしょうを伴って得体の知れない不可視の力、その波動が周囲をいで行く。

 神。

 そう、それは紛れもなく尋常ならざる()の力であった。神とは即ち髪であり、人の頭上に常に存在するものである。その神を起こし、超常の力を発揮する。それこそが神秘の技法、『神起こし』。

 加害者の髪は神を体現し、蛍火のようにその身を輝かせて、光の粒子が点々と漏れ出しては火の粉の様に散らばり空気に溶けて消えていく。

 黄金に光り逆立つ髪と、黄金の波動。神々しく煌くその姿を見て、神野は驚くよりも先に呆れていた。

「光る人間なんて、いくらなんでも非現実的すぎるだろ」

 それはどうだろうか。なにしろ、今ここには光る人間が二人もいる。発光と反射。むしろ人間とは光るものだと言いきって良いのではないか。

 それに非現実的といえば、神野の方が余程そうだろう。現実という絶望の中で、遠き理想を追い求めるその生き方こそ、非現実的と呼ぶに相応しい。ただし、それは間違いなく一般的に忌避される割とダメな生き方である。

 しかしそれであっても尚、いや、だからこそ、諦めに沈んでしまっていた加害者にとって神野は眩しく映るのだ。そう、光り輝く神野は直視できないほどに眩しかった。正視に耐えないとはまさにこのことである。

 輝き続ける神野は、半眼でさらに言い募る。

「どこの戦闘民族だよ」

「はは、金毛族きんもうぞくほど好戦的じゃあないよ」

 金色に染まった眉を僅かに歪めて加害者は笑ったが、すぐに真剣な面持ちに切り替えるとサソリに視線を移した。

「光は持って十秒。その間に確認してくれ」

「お、おう」

 加害者は地を蹴り、高く高く飛び上がった。その体はサソリの身の丈すら越え、人間の力では及ぶはずの無い高度まで到達すると、その位置で静止してしまった。落ちてくる様子は欠片も無く、中天に輝くもう一つの黄金月となっている。空を飛んでいることは誰の目にも明らかだった。

「いくぞ!目を凝らすんだ!!」

「お、おう!?」

 非現実さで思考も飛びかけていた神野だったが、反射的に言葉を返して目を凝らす。加害者が発する光はより強く、大きくなっているようだ。加害者の力が肌からビリビリと伝わってくる。

 やがて準備が整ったのか、加害者は額の前に両手をかざして叫んだ。

髪光はっこうッ!!」

 その瞬間、あたりにまばゆい閃光が走った。加害者の神から発せられた強烈な光が闇夜を切り裂いていく。まるで昼間のようになった世界で、一層輝きを増した神野もまた叫んだ。

「うがあああ!!目がああああッ!!」

「って、何してるんだよ!」

 慌てて光を打ち消した加害者に、神野は目を押さえながらも不服さを込めて叫び返した。

「お前が目を凝らせっつったんじゃねーか!」

「俺を凝視してどーすんの!?サソリ見ろってことだよ!」

 もっともである。完全に神野の落ち度だった。

「……ああ、なるほど」

 意図に気付けなかった自分の鈍臭さ加減に少々の気恥ずかしさを覚えつつ、神野はポリポリと鼻の頭をかいた。

「すまん。悪いけど、もう一回頼む」

「今度はちゃんと見ててくれよ、サソリを!」

「お、おうよ!」

 念のため、今度ははっきりと視認対象を指示する加害者に対し、神野も次は失敗しないと視線をサソリに向けたままで返事をした。

「行くぞ!髪光はっこうッ!!」

 一度目は暗くて見えず、二度目はまぶしくて見えず、そして今、三度目の正直。飛び上がった神野は今度こそ目論見通りサソリの背中をはっきりと見た。

「間違いねえ!アレだ!!」

 興奮から思わず大きな声を上げてしまったが、地面に着地する頃にはその興奮も冷めてしまっていた。

 確証を得た喜びと、どうやって取ればいいのかという疑念がせめぎ合って、神野の胸中は複雑に揺れている。加害者も同様だ。

「まさか本当に背中に乗ってるなんて……」

 呟きながら降りてきた黄金の加害者と向き合い、二人して嘆息する。

 どうしよう。

 視線を交わしただけで互いに困り果てているのは容易に分かった。それでも、出来る限りの手段を考えねばならない。この程度の試練も乗り越えられないのならば、髪の恩寵溢れる未来など手に入れることはできないだろう。

「飛んでいって取ることはできねえの?」

「難しいね。仮にあのハサミを掻い潜れても尻尾の毒がなあ……」

「そうか、危険すぎるよな」

 尻尾の針先には猛毒がある。三十分で人を死に至らしめるほどの猛毒だ。ほんの少し掠るだけでも命の保証はできない。巨大さばかりが専行して、神野の頭から毛と共にすっかり抜け落ちていたが、最初の逃走然り、先程の交戦然り、針先の一撃が来なかったことは随分と運の良いことだった。しかし、次もそうとは限らない。

 神野としては自分の我侭わがままでそんな危険に加害者を飛び込ませることは本意では無いし、加害者としてもできるなら避けたかった。やりきる自信が無いのだ。神野には何気なく空を飛んだように見えたが、実際は繊細な技術が必要で、自由気ままに飛ぶことは神起こしの達人であっても相当に難しい。加害者の技術では真上にゆっくりと浮かび上がるのが精一杯だった。

「じゃあさ、突っ込むのは俺がやるから銃でさっきみたいにサポートするとか」

「さっきので弾切れだよ」

「玉切れだって?」

 全くもってそういう意図ではなかったのだが、神野の脳裏に恐怖の光景が浮かぶ。何故こんな簡単な危険に気付かなかったのか。

 鎧の様な守りもなく、最低限の下着すらなく、ただ垂れ下がるのみであるそれは、ハサミがほんの少し掠りでもすれば切り落とされるだろう。しかも銃と違って再装填できない。恐怖に震え、縮み上がるタマに神野はすかさず手を添えた。

 そんな神野を知ってか知らずか、加害者はぽんと手を叩き、軽い調子で尋ねる。

「銃で思い出した。手榴弾はまだあるかい?」

「あるけど……」

 そちらは既に片玉失っている。もう一つも奪おうというのか。神野は片玉を強く握り締めながら、震え声で問いかける。

「つ、使うのか?」

「ああ、そうだよ」

 その通りだった。加害者は神野の心底くだらない嘆きにも気付かず、残りの玉も容赦なく使いきってしまうつもりらしい。当然といえば当然の判断だ。毛の無い玉を大事にとっておいて何の意味があろうか。そんなものは投げ捨てて、髪の恩恵にあずかるべきだ。

「で、でもよ、さっきこの玉食らわせたんだけどほとんど効いてなかったんだぜ?せいぜい足が折れたくらいで……」

「十分だよ、それでいこう。一つ思いついたんだ。この状況をひっくり返す手をね。まずは───」



 軽い打ち合わせを行い、二人は大サソリと向き合った。大サソリは未だに穴の開いたハサミを振り続けている。余程感触が気に食わないらしい。気に食わないのは神野も同じだ。加害者が立てた作戦にも穴がある。

 神野は大サソリに向かってゆっくりと歩みを進めながら考えていた。穴とは唯一つ、作戦の肝を担う加害者に、果たしてそれだけの力があるかどうか。

 もちろん、神野は個人としての加害者は信頼している。しかし、先程見た力、即ち神起こしのことまでは完全に信用できていない。どこまでが出来て、どこまでが出来ないものなのか。結論付けるための知識と経験が不足しているのだ。だから結局は加害者の「できる」という一言で決断した。もう一度、大サソリのハサミ乱舞をかわしきることを。己のタマを賭けることを。

「よお、ハサミの調子はどうだ?」

 大サソリの目前まできた神野は攻撃範囲の一歩外で笑いかけた。それはあくまで表面上の態度だった。内心では冷や汗がだらだらと流れ続けている。

「穴が開いて使いやすいハサミになったなあ。見るからに空気抵抗が減って動かしやすそうだ。だからそんなやたらと振り回してんだろう?そこまで喜んでもらえると俺もあいつも頑張った甲斐があるってもんだ」

 意味もなく煽る。伝わるはずも無いのに煽る。それは自らの恐怖に煽られる心を誤魔化すために過ぎない。だが、大サソリの反応は顕著だった。まるで言葉が分かっているかのように激しくハサミを突き出してくる。

「今だ!やれッ!!」

 最初の一撃をかわしきってから、大サソリの側面に位置する加害者に向けて叫んだ。

 加害者は返事の代わりとばかりに手にした玉、即ち手榴弾を大サソリの腹の下へと投げ込む。

 間もなく爆発。轟音が鳴り響くとほぼ同時、加害者は地を蹴った。凄まじい加速力が生まれ、手榴弾で浮き上がった大サソリの腹の下へ吸い込まれるように消えていく。夜の闇に黄金の軌跡が奔る。

 加害者が浮かび上がっていく腹を見上げながら力強く地面を踏み抜くと、再び轟音が鳴った。おおよそ、普通の人間には成しえない踏み込みの強さだった。その力を受けた地面は大きくひび割れ、反動を受けた加害者は恐ろしいほどの勢いで土煙の中を切り裂き、甲殻に覆われた下腹に迫っていく。その手には一際強い黄金の光が渦巻いていた。

髪勁はっけいッ!!」

 気合と共に撃ちだされたのは、まさに神の一撃。捻り込む様に突き出された手の平が、黄金の光と衝撃を伴って大サソリの下腹をしたたかに打ち抜く。

 さらに轟音が響いた。

 凄まじい一撃だった。手榴弾の衝撃の後押しがあるとはいえ、加害者の掌底は巨大な体を比喩抜きで吹き飛ばしてしまった。当然、背に乗った黒い希望も一緒に吹き飛んでいく。

 そうして、呆気に取られた神野の目前に残ったのは、上下がひっくり返った大サソリがわたわたと、足とハサミを動かす滑稽な姿だった。

「確かに手でひっくり返ったな……」

 余りにも一瞬で、かつ簡単に片がついてしまった。神野の悲壮な決意には何の意味もなかったのだ。酷い話である。

「それにしてもアレは……」

 悠々と歩み寄ってくる加害者をみつめながら、神野の心は改めて震えていた。神起こしの恐るべき力は完全に想定外だった。人の身一つで手榴弾に勝るとも劣らぬ力をひねり出す。それはまるで魔法だ。あまりにも非現実的すぎる。

「いやあ上手くいって良かったよ。思った通りあの巨体じゃ簡単には起き上がれないらしい。まるで亀だなあ」

「あ、ああ……いや、うん。ありがとうな」

ぎこちない返事に内心では疑問符を浮かべながらも、加害者はなお明るく笑う。

「いいって。大事な物だってことは良く分かるし。で、見つかった?」

「まだだ。今から探す……けど、その前に一つ聞かせてくれねえか」

「なんだい?」

「一体なんなんだ。その金ぴかになるヤツ」

 その言葉に、加害者は罰の悪そうな顔をすると、すぐさま頭を下げた。

「それは……その……やっぱり謝らせて欲しい。すまない。ただでさえ個人差が大きくて、使える人間同士でも劣等感を覚えることがあるのに、あれだけ大きな力を見せ付けたんだ。あんたがどういう考えであっても、所詮は大義名分で、結局当てつけにしかならないもんな……」

「何言ってるのかビタイチ分かんねえけど、そういうこと聞いてるんじゃなくてだな、あーと……聞き方変える」

 神野はしばし思案し、選んだ言葉を口にした。


「お前、一体なんなんだ」


 外見えは完璧に人間だが、その正体に疑問は尽きない。魔法使いか、超能力者か、あるいは人間以外の生物か。

 その問いかけになんと答えたものかと、正体不明の男は腕を組んでううん、と唸った。

「哲学的な問いだなあ」

「いや、そんな高尚なこと聞いてねえから」

「あ、もっと単純な話の方か。それでは……」

 こほんと一つ咳払いをして居直ると、

「俺はアリュー。イマナギ・アリューっていうんだ。改めてよろしく」

 逆立つ金色の髪のまま、その男、アリューは笑った。

【特殊語句解説】


 ※基本的には小説内で説明を入れるか、説明の必要もなかろうものなので読み飛ばして良い。


・神起こし(かみおこし)

 →人は個人個人で己の神を持つ。

  神とは即ち髪であり、人の頭上に常に存在する。

  その神の力で超常現象を起こす技法を『神起こし』と呼ぶ。

  神お越し。つまるところ、神野の現状とは……


怒髪天衝どはつてんしょう

 →怒髪天をくのもじり。

  神起こしを使用する際に発声する言霊。力の起動を意味する。

  尚、この小説はこの造語に端を発して生まれており、ようやく使えたことに

  作者は非常に満足している。


髪光現象はっこうげんしょう

 →神起こし発動状態で髪が光る現象のこと。


髪光はっこう

 →神の輝きを意図的に増幅させる技のこと。


髪勁はっけい

 →発勁。神の力を手のひらから撃ちつける近接格闘技。


毛配けはい

 →気配。人がそこにいれば感じる感覚。

  本来の気配の意味よりは確信的なものに近く、実際その感じ方で誰がいるのか?

  ということをはっきりと識別できる。戦闘民族でいう所の「気」のこと。


金毛族きんもうぞく

 →金髪の人種。

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