ちきしょう 後編
なんで兄貴ばかりイジメるんだよ?
弟は激昂していた。
初めて見る姿だった。
およそ感情というモノを持ち合わせていない
ような類の人、それまでの実弟のキャラ。
対峙する母はもとより、弟本人も驚いて
いたに違いない。
握りしめた拳が震えていた。
弱いものイジメ、楽しいのか?
あいつからが悪いんだ
兄貴も嫁さんも、何もしてない!
ロクだって怯えてるじゃないか
あかちゃんも泣いてるぞ!
あんたも泣かすよ?
やってみろよ
家中のガラスは割れ、飛散して入り乱れた
調味料の匂いが鼻を突く。
…事後、コレを誰が片づけるのか?
どうでもいい事を考えていた。
妹帰宅。
この家で、数少ない良識を持つ人。
当時高校三年生。
お母さん、もうイイから。
二階に行こうね?
うるさいっ!だまれ!
お母さんは悪くないから
当たり前だ!
こいつらが、こいつらが…
ほらほら、ほっといて行こう?
鉢植えをひっくり返し割る音
ロクでさえ発さないような咆哮
二階のふすま、蹴破ったな…
物音が静まった頃
ちきしょう
ちきしょう
ちきしょう
翌朝は平日だったが、明け方まで。
妹は付ききりだった。
私には真似すらできない。
^^;
ゆえに、我が家は近所からは変人扱い。
しかし警察に通報されたことは皆無。
いまどきなら、そうは行かないだろうか。
私も嫁も赤ん坊も、一睡もできず。
やっと気付いた嫁と、引っ越しの話しが
具体化した。
だが…逃げたつもりが逃げられない。
いまだ、あの『ちきしょう』が、時折に
夢の中で繰り返し鳴り響く。
申し分なく、勝者は母であろう。