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ちきしょう 中編

犬の散歩から帰ると、妻は

キッチンの片隅にうずくまり

声を殺して泣いていた。


原因は…わかりきっている。


母だ。

間違いない。


何を聞いても、ただ首を横に

振るだけ。


朝からずっと、母の悪態に

耐えていたのだ。

常日頃からいびられてはいたが、

今日のは度が過ぎる。

この家に生まれ育った私には、

これから先の展開が予測できた。

それはつまり、イジメのエスカレート。

いざこざが起きる度に、悪い方向へ

シフトする。

この2年前に亡くなった祖母が、

晩年に母からの虐待に次ぐ虐待を受け

た。

当時の私は家から離れ自衛隊の寮に

住んでいた為、シッカリ庇うことが

不可能だった。

…いまだ悔やまれてならない。

祖母については後述する…

まだ記憶に新しい、祖母の悲劇が

ザワザワと湧き上がる。


許せない


私は二階に上がり、母に声を荒げた。



何をした


何もしてない


怯えてるぞ!


チャラチャラ遊んでるのが悪い


夕飯の支度が遊びなのか?


アタシもそうやって叱られた

当たり前の事さ


はあ?


嫁はいびられてナンボなんだよ


理由にならないな


お父さんに言いつけます


チンピラと合体して暴れるのか


なんだって?親に向かって


ヤクザ流儀の脅しやゲンコツ、

あんたの振り回す包丁、

今の俺には効かないぞ?

昔みたいには行かないんだ


あんた泣くよ


いったい何が望みだ?

俺を苦しめて何になる?

ガキの頃から不思議だ

俺、何もしてないぞ?昔から


きぃぃぃ〜っ!


ドタバタと階段を降りる母

その表情は…中庸な表現だが

鬼婆そのもの…幼い頃から見慣れ

た、ヒステリックな母だったか。


いかん

妻と赤ん坊がいる


追いかけ、階段を飛び降りた





何やってんだよ




救われた


二階でモメてる間に、弟が帰宅

していた。

6歳違いの弟、当時高校生。

ヤツは両親から寵愛され、と言うか

普通の家庭でみられるような、ごく

一般的な処遇を両親から受けていた。

半年前に、私が嫁を連れて実家に入

った際に


兄ちゃん、大変だろうが俺が

庇ってやるよ


と言ってくれた。


もうガキじゃないさ、嫁と娘は

手出しさせないよ


しかし、出来ちゃった婚は…

立場キビシくね?この家で


ま、なんとかするさ


つい数年前、小学校の不良共を

言い聞かせ、イジメから開放した

のに…ずいぶんたくましくなって。


いま、その弟に助けられようと

している。


いや…可能なら、波風を立てないで

くれ、後生だ。



で…俺の義姉さんが何した?


ウサギみたいにおとなしい弟、

両親の飼い犬だと信じていただけに

私は驚いた。


ヤツは怒っている。



母は髪を乱し半狂乱。

これまた、いつもの事だか…

それは私と亡き祖母にしか向けない

ものであり、いまだかつて弟や妹

には振りかざした事のない憤怒だ。


やっちまったな

私の巻き添い…面目ない


キッチンテーブルをひっくり返し、

手に付く物という物を投擲する母

言いたい事が堰を切ったのか、

ヒステリーの発作なのか、その

両方なのか…言葉を聞き取れない。


床の間の部屋を一瞥する。

まだ首の座らない娘を、妻が

シッカリ抱いて震えていた。



いまさらだが、もうたくさんだ。

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