聖夜
大雪のクリスマスだった
あら、コウちゃん
食べないの?
スキヤキ嫌い?
気持ち悪いんだ
風邪かしらね
祖父の姪、父の従姉妹
旅行がてら我家に泊まりに
来ていた。
20代中頃、優しいキレイな
お姉さんだった。
お土産に陶器の人形を頂き
嬉しかった気持ちは今も記憶に
鮮明だ。
母と同じくらいの世代の女性、
そう見えた。
歓談する大人たち
の笑い声
部屋中に立ち込める
スキヤキの匂い
バックで流れるテレビ
番組のコント
過剰に効き過ぎる暖房
私は吐き気と眩暈に
耐えきれず、食卓に嘔吐
した。
こりゃまずい
テレビを見たいから、と
引き続きこの場に留まる
事を懇願したが、当然に
聞き入れられず。
寝なさい、と。
私が恐れたのは、客や祖父母
から引き離された場所にて、
母から殴られたり抓られたり
罵られたり…だいたいいつも
その全部だか…すること。
抵抗すれば、ことさら後の展開
が厳しいものになる。
私はおとなしく聞き分けた。
三歳児ながら熟知していた。
案の定、奥の部屋に入れられて
から、母の表情と態度は一変。
手で口を押さえられ、散々に
腹を殴られ、身体中を抓られた。
気が済んだのか呼ばれたのか、
母は茶の間へ戻って行く。
母が去った。
部屋の片隅にあった花柄の
ゴミ箱に、私は再度嘔吐した。
日中、母から食べることを
強要された油粘土が、飲み込
んだ時以上の臭気を連れて、
また戻ってきた。
怖い
ただそれだけしか無い。
昭和47年のクリスマス
もう39年前…
いまだ克明
いや、消せない。