出会いと新たなマイホーム
船から落ちるときに見たのと同じぐらいに大きく、強い光を放つ月に照らされて僕は目を覚ました。
「くっ……う……ん」
どうやら、あの時のことを思い出しているうちに、眠ってしまったらしい。
思いつつ、またあの時の、あの瞬間を思い出し、しばらく黙る。
が、そうしていても何も変わらない。
とりあえず今日寝る場所と食料を確保しようと動き出す、そう考えている自分が
やけに冷静であることに、僕はまだ気がつかない。
あたりを見回しながら、静かに歩いていく。
こうして歩いているとわかるのは、僕はどうも島の海岸の中でも、入り江に打ち上げられたらしい。
無人島、という単語から想像するような、ジャングルや、遠くに難破船が見える
などと言う状況ではない。
見渡せば岩ばかり、でも雨風を防げるほどにはしっかりとしていない。
というより、上は無い。
どうも、入り江は入り江でも、はずれっぽい場所だった。
とりあえずここは寝る場所には出来そうにない。
そう考え、入り江から離れると、そこはさっきまでとは打って変わって
無人島!とびっくりマークがつくぐらいの光景が広がっていた。
「うわぁ……」
思わず、感嘆と驚きの両方を混ぜた声が出た。
がすぐに
「うへぇ」
気の抜けた声を出す。
この声はジャングルそのものに嫌気がさしたわけではない――もちろんそれも少しは含むが――眼前に広がるジャングルが視界を端から端まで埋め尽くしていたからである。
この範囲を歩き回るとなれば、相当の時間と体力が必要となる。
しかも、今は夜。うっかりジャングルに入ると何が出るかわかったものじゃない。
――よし、ジャングルはパス――そう思考を切って入り江に方に戻る。
入り江の方にだって岩はいっぱいあったし、たぶん探したら洞窟の一つや二つあっというまに
「あ、あった……」
なんともあっさりと、それは見つかった。
薄暗い洞窟の中を確かめるように歩きながら、暗闇に目を凝らす。
これでもし、何かの巣、とかゆーお決まりパターンが来たらどうしよう。
などと考えながら、警戒は怠らずゆっくりと歩を進める。
「だ、誰かいませんかー?…………いるわけないか」
誰もいない、ということに安堵と不安を覚えながら大体の広さを確認する。
大きくもなく、また小さくもない。
「今日からここがマイホームかぁ」
とかるく愚痴をこぼしつつ、地面の砂を払い寝る場所を作る。
「どっこいしょ」
まるでおっさんのようだなぁ、と全国のおっさんが聞いたら怒りそうなことを言いつつ横になる。
すると、ついさっきまで寝ていたはずなのになんだか眠気が襲ってきた。
とくにあらがう理由もないので、眠気に任せるように体の力を抜く。
――とりあえず、明日からだ!――そう意気込みながら僕は深い眠りへと、落ちていった。
身を刺すような寒さと、じめじめとまとわりつくような空気で僕は目を覚ました。
足元がぬれているように冷た……
「なんじゃこりゃー!」
足元が海が迫っていた。
その驚きと言ったらもう、なんじゃこりゃーが素で出てしまうほどである。
とりあえず、こういうときは、えーと、えーと、そう110番!
はないし、えーと、えーと………
ここにきてから一番じゃないか、と言うほどうろたえながら出した答えは
「洞窟からでなきゃ!」
という至極まっとうなものであった。
急いで洞窟から出て、泳いで砂浜へとたどり着き一息つく。
ようやく頭が状況についてきた。
どうやら、入った穴がそもそも少し海に近かったんだろう。
夜になり、潮が満ちた時に、洞窟まで海水が入ってきたんだ。
どうしよう。服はぬれてて寒いし、体も気持ち悪い。
そしてなにより…………
その時、急に近くの茂みから、ガサガサ!と内かが動くような音がした。
「ひっ…………」
そう、夜だ。
夜になればジャングルに居るであろう動物、この場合は猛獣などが
活発に動き回る。そんな状態で洞窟にも入らず、野宿などしようものなら
ブルッ、と身震いして考えるのをやめる。
――とりあえず、安全に寝る場所だ――考え、歩き出す。
言葉にすればかっこいいように聞こえる今の葛藤は
ぶるぶると震えながら、ジャングルの方をちらちらと見ている人の思考とは思えない。
ガサガサ!とまた近くの茂みが揺れた。
同時にビックゥゥ!とかたまる僕。ゆっくりと顔だけを茂みに向ける。
するとガサッ!と逃げるように茂みの揺れが遠のく。
「?」
その反応を不思議に思い、次はゆっくりと歩を進める。
ザク、ザク……ガサ、ガサ……と
僕が近づくと、やはりそれは遠のく。
このままでは埒があかないので、思い切って作戦をしかける。
その作戦はこうだ。一回引いて、一気に飛び付く。
ゆっくりと後ずさりながら、やはり後ずされば近づいてくることを確かめる。
ここだ!考えること一瞬、僕はそれに飛びついた。
「おりゃぁあ!」
飛び込みつつ僕は考えていた。たぶんこれは人だ、と。
無人島だと思っていた島に人がいた!
今はそれしか考えていなかった。
「ひゃぁ!」
と叫び声が聞こえた。僕の抑え込んだそれから。
「やめて!ごめんなさい!ゆるして!悪気はなかったの!ただちょっと興味があって……」
そんなすごい勢いの謝罪を前にして僕はたじろぐ。
「い、いや別に、て言うか君はなにもしてな……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサイゆるしてオネガイすみませ…………」
この後5分ほど謝罪が続き、そろそろこっちがいたたまれなくなったころ
「ひっ、ひぅすみません」
「それはもういいからさ、ちょっと聞いてもいいかな?」
「え、あ、はい」
「ここは何処?」
「はい?」
「ええと、だから、その、この島は何?」
「何って、ここはクレタ島ですよ」
「クレタトウ?」
「はい、クレタ島です」
「くれた豆?」
「ク、レ、タ、島です!」
「はあ……それで?ここは何?日本は?」
「ニホン?」
「そう、日本」
「二本?」
「いや、ニッポン、ジャパンだよ」
「?」
こんなやり取りをずっと続けてもう1時間が過ぎようとしている。が
なんとか、ここに居る理由、僕の状況を話を終えた。
「つまり、彼方は船から落ちて目が覚めたらここに居て、そのえーと……」
「日本」
「そう、そのニホンとか言う国からきたってこと?」
少し呆れたような、かといって信じていない訳ではないような視線。
「ああそうだ」
憮然として言う。
「で、お前はどうなんだ」
1時間も話したせいか、言葉にも丁寧さが抜けてきている。
「えっ……わ、私は…………あはは」
あからさまに怪しいので、なお問い詰める。
「なにしてたんだよ」
「あの、えーと、ここら辺になんか最近、人みたいなのが居たって
皆がうわさしていたから……ちょっと……観察に…………ね!」
「ね!じゃねーよ!じゃあ体につけてるそれ、なんだ!」
見ると、彼女の体には無数の武器らしきものがまとわりついていた。
彼女はちょっと焦りつつ
「ご、護身用……」
「護身用ってレベルの量じゃないだろそれ」
「そ、そんなことより」
「なんだよ」
憮然として言う
「とりあえず町の人たちには毛の薄いチンパンジーがいたって言っとく」
「誰が毛の薄いチンパンジーだ」
そして具体的にどこが?と聞きかけてやめた。
もし体の上部、主に頭の毛などと言われたら立ち直れない。
「あ、ちょっと待ってて」
「え、なんで?」
「いいから」
唐突に言い出して、森の方へ走って行った。
取り残された気分の僕。
て言うか取り残された。
その事実が、僕の恐怖を少しあおる。
もしかして、彼女はああ言って、町の人を大勢呼んできてたりして…………
あながち、ないとは言い切れない内容だったので考えるのをやめ、空を見上げる。
今日は雲が多くて、月は見えない。
「待った?」
「わぁ!」
急に近くで声が聞こえて、僕は尻もちをついた。
「だ、大丈夫?脅かすつもりはなかったの」
「ああ、大丈夫」
本当はかなり焦ったが、そこは少し意地になって、大丈夫、ともう一度言った。
「はいこれ、お腹すいてるんでしょ」
「あ、ありがとう」
ご飯を持って来てくれたらしい。
お腹が減っているような態度や言葉はとっていないはずだが、まあいい、貰えるものは貰っておこう。
そう思い、食べ始める。
いざ食べ始めると、箸が止まらない。ん?
箸?日本を知らないのに?どういうことだ?
「お、おいしくなかった?」
「いや、おいしい」
う~ん、おいしいんだが他のことが気になって味があまり分からない。
そういえば、言葉も通じる。
「なあ、一つ聞いていいか?」
「え?あ、うん」
「この棒状の食器は何て言うの?」
「え?」
きょとん、といった様子で質問の意味を聞いてくる。
「これ?」
「うん」
知らないの?の言った様子で
「箸」
「ワンモア」
「はーし!」
うん?言い方まで一緒?ということはこれは完全に箸なんだな。
「ねぇ、さっきからどうしたの?」
怪訝そうに聞いてくる
「いや、実は……………………」
「…………ということなんだ」
「じゃあ、あなた暮らすところがないの?」
着眼点が少しおかしい気がしたが
「そうなんだ」
と認めておいた。たしかに、今一番心配なことではある。
「じゃあうちに来る?」
「え!?」
「嫌?……ならいいけど」
「嫌じゃない嫌じゃない」
むしろ大歓迎、だけど
「君はいいの?」
「何が?」
「いや、その、家族とか」
「大丈夫、私の家、結構大きいの」
「はぁ」
また少し着眼点がおかしい気がするが、気にしないことにした。
「じゃあいこっか」
「え!?今から?」
「そう今から」
なんとも元気がよろしいことで。
「それじゃ、レッツゴー!」
やっぱりテンション高いなー、とぼんやり思いつつ後に続く。
さっき、ご飯を持ってきたときになんとなく思ったが家は近かった。
「で、でけぇ」
言葉とおりのでかい家、というかお城に近かった。
もしかしたらお嬢様なのかも。
「早く入って」
少し周りを気にするような声で言う。
「わかった」
反抗する理由もないので素直に従う。
屋敷は、見た目よりも大きく感じられた。
付いて行くうちに、少し道が細くなってドアがいっぱいある通路に出た。
「ここ」
静かな声でまた、指示をする。
従い、ドアを開ける。
「あなたの部屋ね」
中は、ほこりと少しのクモの巣があった。
「ここ、使用人が使ってた部屋だけど今はいないから」
外装と客間を見たからか、その豪華さに不釣り合いな部屋を見回し、少し落胆する。
が今の状況がどれだけ幸運か思い出して、またうれしくなる。
「部屋は基本好きに使ってくれていいから、困ったことがあったら言ってね」
「ありがとう、おやすみ」
「おやすみ」
ゆっくりと部屋のドアが閉じられた。
二話目です。投稿遅くてすいません。
また誤字脱字があれば指摘お願いします。
続編も出すのでよかったらまた読んで下さい。