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村上龍の訃報

掲載日:2026/10/24

 作家の村上龍が亡くなったというニュースを知った。74歳だったらしい。

 

 村上龍はまだまだ元気で小説を書き続けるだろうと思っていたので、意外だった。私の中では、まだ若いイメージだった。

 

 村上龍に関しては、二十代前半の頃は読んでいたがその後はあまり読まなくなった。私は吉本隆明をよく読んでいたので、吉本のガイドで村上龍や村上春樹を読んでいた。

 

 村上龍はよくデビュー作の「限りなく透明に近いブルー」が取り上げられるが、次作の「コインロッカー・ベイビーズ」も含めて、私はそこまで魅力を感じなかった。村上龍の本領はその後の「テニスボーイの憂鬱」みたいな作品にあったと私は感じている。

 

 吉本隆明が一番褒めていたのは「クレイジーバタフライダンシングナイトクラブ」という短編だ。これは「ニューヨーク・シティ・マラソン」に収録されている。

 

 「クレイジーバタフライ(以下略)」は村上春樹と同じように都市の闇を描いた作品だ。主人公のピアニストとダンサーの恋人はある暑い晩に、大量の羽虫が飛び回っているのに気づく。二人は外に出て、羽虫の発生源を突き止めようとする。二人は入り組んだ路地の奥に、羽虫の女王を発見する。これはぶくぶくに太っている化け物なのだが、何故か人間のような顔がついている。

 

 この化け物が残していった奇妙な髄液を二人は拾う。これをダンサーの脳に投与する事で飛躍的に運動能力が高まり、ダンサーとしての彼女は覚醒するらしい、という事がわかる。ダンサーは実際にこの髄液を注入すのだが、その後………という話である。この作品は最後の締め方がうまくできている。ホラー小説として、うまく都市の闇を利用できている。

 

 それと私が未だに印象深いのは、「村上龍映画小説集」に載っている短編だ(もしかしたら違うかもしれない)。タイトルは覚えていない。

 

 主人公は作家志望の青年だ。彼には画家の友人がいて、共同生活をしている。主人公は小説を書き、友人は絵を描いている。

 

 ある時、二人はフェリーニの新作の映画を観に行く。二人はフェリーニの作品を見て、打ちのめされる。「フェリーニの映画があれば十分じゃないか」と二人の意見は一致する。

 

 住居に帰ると、画家志望は自分の絵を破り捨てる。画家志望はそれきり、絵を描くのを永久にやめてしまう。

 

 主人公も同様に、自分の書きかけの原稿を破き、二度と小説など書くまい、と思うのだが、しかし彼は躊躇し、結局、原稿を破かなかった。それだけの話だ。

 

 うろ覚えの記憶で書いたので細部は間違っているかもしれない。ただ、私はこの短編は未だに好きな一作だ。

 

 この作品を私は地元の図書館で読んだ。図書館の窓ガラスから光から差し込み、並んだ書架にぶつかる壮麗な光景と合わさって、未だに私の記憶の中では一つの像を形作っている。

 

 …そんなわけで、私は村上龍が亡くなったと聞いて、真っ先に思い出したのはこの事だった。

 

 村上龍個人は私のこの記憶の在り方とはそれほど関係はないのだが、私の中では村上龍という人は、私の記憶の風景の一部をそのように形作る存在、その一部として私の中には未だに潜在している。

 

 

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