4.ミサ
この話までがとりあえず前置きで、次から年齢指定かかると思います。よろしくお願いします。
クラスを見渡すが、特にこれと言ってごく普通のクラスに授業だ。前に自分の使ってた教科書より少し難しいのが問題だが。
「……ここ、今やってるから」
と、隣の奴が教科書のページを指定してくれて優しいと思った。まぁ、これなら適当に卒業まで過ごすのは楽かもなぁなどと思っていた。
後ろの黒板をチラ見すると、そこに今日の時間割が書いてある。現代文、数学A、物理、ミサ……体育。ミサ……。そう言えばさっき担任も言っていた。ぞわりと背中に怖気が走る。
「次の問題……あー、413、答えろ」
担任が生徒を指名する。指名された生徒が立ち上がり、問題を解いていくのだが。
「はい、この問題は~~」
……今日の日付や、出席番号で当てる人を決める先生は何人か出会ってきた。いや、でも普通は番号の後に名前を言わないか?
『囚人番号』
その言葉がまた頭に浮かんでは消える。そう言えば、向かいの……325Aは、同じクラスではなかったなと少し残念に思った。
時間は、あっという間に過ぎていく。物理の先生のお経のような呪文を聞きながら、もう一度後ろの黒板の時間割を見た。急いで書き換えられた4限目のミサ。
あと、15分すれば3限目が終わる。
教室の空気は変わらず、先生の呪文により大航海時代に漕ぎ出している生徒が半分近くいた。
やっぱり、どこも同じじゃん……。そう思ったのだが。
鐘がなった。
よくあるチャイムだ。その音で、船を漕いでいた生徒たちが起き……いや、起きたけど。
みんな顔がギュッと引き締まり、若干青い顔をしている奴もいる。かと思えば、ひどく興奮したように周りのやつと大声で話しながら、俺の方を見て笑う。
なんだ?
なにが?
その時、教室のドアが後ろも前を一気に開かれる。そこから、上級生とおもわさしき生徒たちが20人くらい教室に傾れ込んできて、まだ話し足りなそうにしている先生を教室外へ追いやった。
先生が書いた数式は消され、何か大きな紙を黒板に貼っていく。
『一年緊急ミサ』
デカデカと書かれていて、その後は進行表になっているようだ。代表挨拶などが書かれている。
教室に侵入してきた生徒たちは、教室の机の間に何人かずつ、俺らを監視するように立っていた。
「一堂!起立!」
大きな声が響いて、ガタガタと生徒たちが立ち始める。何事かと思いつつ、席を立つと同時に教室の前のドアから誰かが入ってくる。その顔を確かめる前に。
「礼!」
ざっと、教室中の生徒が頭を下げる中、俺は少し遅れて頭を下げたから見えてしまった。
「……あ……」
慌てて頭を下げる。教室に入ってきたのは、4人だった。知らない上級生3人と、もう1人、俺の向かいの部屋な奴だ。
「気をつけ!着席っっ!」
椅子に座るが、視線は今朝も会ったあいつにいく。しかし、朝に見せてくれた人好きする笑顔はなく、ただ冷たく教室の生徒たちを眺めるだけだ。もちろん俺とも目線は合わない。
「さて、挨拶は抜きだ。私が来たということは、みんなわかっているだろう?」
教壇の上に足を組んで座る男は、まるで王様みたいな話し方をする奴だと思った。
男が喋るたびに、それに賛同するかのように拍手があるのも宗教のようで気持ち悪い。いや、ミサと言っていたし、宗教というのは正しいのだろうか。
「………というわけだ。301B立て!」
何か前のやつが声を荒げる。周りの奴の視線が俺に突き刺さっててくる。
え、なに。
「もう一度言う、301B立ちなさい。三度目はない」
隣の席のやつが、手を引いて立てと合図してくる。
「……あの、」
「発言は許してない」
ピシャリと言われ、黙る他なかった。ノロノロと立ち上がると、周りの監視?のように立っていた生徒たちが、俺を罪人のように、両脇から腕を掴まれる。
「な、にすんだよ!」
「発言は許していない。さて、301Aのスケープゴートになるという心意気は買うさ、名前は?」
掴まれている腕に指が食い込んで痛い。
「貴様の、名前を聞いている」
「……ぁ」
『名前は言うな』
あいつの言葉が頭に思い浮かぶ。あいつはというと、俺の方は向いていない、ただ面白くなさそうに窓の方を向いている。
「……あの、私の名前……は、301Bです……」
「貴様は、番号を自分の名前だと言い張るのか?」
男が威圧的に迫る。
「……あの、はい」
「………そうか、貴様は名前を私に呼ばれたくないと言うことだな?」
「いえ、お、私のここでの名前は301Bだと、聞きいて」
男は、俺を眺めてそして興味がなくなったのか、ふっと視線を外す。
「貴様は、私の言うことに」
一触即発という、時だ。
「堕としちゃえばいいんじゃね?」
誰かの声がした。その声に呼応するように周りの生徒たちが騒めく。
「静粛に!静粛に!」
誰かが叫ぶほどに、教室が湧き上がる。
「……っ、あの……」
視線に晒され、一気に変わる教室の空気に、俺はどうしたらいいか分からず、助けを求めるようにあいつに視線を移す。
しかし、彼は何もいわず、なんの感情も載せていない目でこちらを眺めている。
いよいよ分からない。
本名を言う方が正解なのかもしれない、そうだ、そうに違いない。俺は
「あの、お、俺のほ……」
「仕方がない。では、301Bを、301Aと同じくスケープゴートということで決定する」
は?
スケープゴート?なに、生け贄?身代わり…?!
「貴様が誰の差し金で、『本名』を、言わなかったのか知らないが…この私に従わないことが、どんなに馬鹿なことかを教えてやるよ」
生徒たちの歓声や怒号が飛ぶ。偉そうな男が、笑う。
「馬鹿だなぁ」
そう声をかけてきたのは、向かいだと言っていた奴だ。
「ジャック、お前また、勝手をしたのか!?」
ここにくるまで、何も発してなかった偉そうな男の後ろで静かにしていたやつが声を荒げる。
「いい、静かにしろダイヤ…」
キングと呼ばれた偉そうな男は、ジャックと呼ばれた男を見てため息をついた。
「お前のやり方が、わからねぇ……クソ野郎」
「はは、キングのことは好きなんですけどね、僕」
「まぁ、自分が作ったルールは破るわけにもいないからな……仕方がない。さて……」
キングが、俺に向き直る。周りの生徒たちが何やら囃し立てているが、それすら今の俺には聞こえない。
「お前は、キングの命令に背いた。よって、お前は、名前も役者かも何も無しだ。今日から卒業まで、オモチャだ」
わっと、歓声とも怒声とも違う沸いた声が教室を響き渡った。その中で、俺はただ立ち尽くすだけだった。