08
目の前のお皿が全て空になった頃、不意に黒部先輩が聞いてきた。
「最近、大丈夫か?」
何についての事かはすぐに分かった。
「そうですね……大変ですけど、まだ一人で何とかできるくらいの量です」
「休日に仕事持ち込んでか?」
「それは……」
先輩の視線は鋭かった。
「糸魚川が悪いわけじゃない。もちろん怒ってるわけでもない。ただ一人で抱え込んでパンクするくらいだったら頼ってくれって話なんだよ」
やっぱり先輩は凄く優しい人だ。
私はまっすぐ先輩を見つめ返して、答えた。
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫です」
辛くないと言えば嘘になる。
正直、富山課長からの理不尽な命令に腹が立って仕方がない。
でも、ここで先輩を頼ってしまえば、それは負けを認めることになる。
それに、この理不尽を乗り越えた先、私はこの仕事に誇りを感じて、いつか友達に自慢できるかもしれない。そんな頑固なプライドが、今私を突き動かしている。
本来なら、この後は先輩と一緒に買い物に行けたら良かったけれど、今日は厳しそうだ。
いつお客様から連絡が来て、対応しなければいけなくなるか分からない。
先輩の貴重な休日をつぶすわけにはいかない。
私は財布からお札を出して、伝票の間に挟んだ。
「今日はありがとうございました。凄く楽しかったです」
「ああ……」
私は軽く頭を下げて、お店を出た。