表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

07

 入社してから一番ハードな一週間だった。

 土曜日、私はいつもの平日と変わらない時間に起きた。

 今日は黒部先輩とご飯に行く日。

 少し体が重い気がしたけれど、それ以上に楽しみだ。


「うわ、クマ……隠せるかな」


 今日はいつも以上に入念にメイクをした。

 余裕をもって準備したはずが、少しだけ時間がかかってしまった。

 家を出たのは十一時過ぎ。

 待ち合わせの駅には何とか予定通りの時間に着いた。

 そこには既に黒部先輩の姿があった。


「黒部先輩、お疲れ様です」

「お疲れ。流石時間通り」

「先輩の方が先に来てたじゃないですか」

「まあ、男が遅れてくるわけにもいかないかならな」

「そういうものですか」

「そういうもんらしい。よし、行くか」

「はい」


 先輩曰く、これから向かうのはイタリアンのお店らしい。

 なんでもピザが有名で、この前バラエティー番組で取り上げられたとか。


 お店の前に着くと、そこには長蛇の列ができていた。

 丁度お昼時。これは結構待ち時間が長そうだ。


「あの、先輩。これ結構待ちそうですけど、どこかで時間つぶしますか?」

「いや、予約してあるから大丈夫」

「え?」


 そう言って先輩は長い列を無視して店内へと入っていく。

 私もその後を追った。


「すみません。十二時半から予約していた黒部です」

「黒部様……はい。こちらへどうぞ」


 少し年上の女性の方に店内を案内された。


「予約されてたんですね」

「うん。一応ね」


(やっぱりこういうの慣れてる……)


 思い返せばこれまでの人生、誰かを好きになることはあっても、付き合ったことは一度もなかった。そんなことが頭に浮かぶと、ふと今の自分が先輩からどう見られているのかが気になってきた。


(今日の私、変じゃないかな……)


「糸魚川?」

「あ、はいっ」

「メニュー、なに注文する?」

「ああ、えっと……ピザが有名なんですよね」

「うん。そうらしい」

「やっぱりマルゲリータは欠かせないですかね」

「いいね。俺、このチーズのやつも食べてみたいんだけど、いい?」

「いいですね、頼みましょう」


 黒部先輩が店員さんに声を掛けて料理を注文する。

 料理が届くまでの時間、何気ない話をしている時だった。

 不意にバックの中のスマホが鳴った。


 確認すると、私用の携帯ではなく、念のため持ち歩いていた社用携帯の方だった。

 相手はお客様だ。


「あ、……もしかして打ち合わせについてかも」

「社用携帯、持ち歩いてるんだ」

「はい、念のため。……すみません、少し対応してきます」

「ああ、うん……」


 電話の内容は、案の定仕事の問い合わせだった。幸い、すぐに解決できる内容だったけれど、最後にまた電話するかもとお客様に言われた。


(一応、休みの日なんだけどな……)


 テーブルに戻ると、既に料理が届いていた。


「す、すみません! お待たせして……」

「大丈夫。料理も丁度今来たところ」

「良かった……」


 私と先輩は、揃って手を合わせてから料理を食べた。

 ピザは本当に美味しかったけど、ほんの少しだけ冷めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ