07
入社してから一番ハードな一週間だった。
土曜日、私はいつもの平日と変わらない時間に起きた。
今日は黒部先輩とご飯に行く日。
少し体が重い気がしたけれど、それ以上に楽しみだ。
「うわ、クマ……隠せるかな」
今日はいつも以上に入念にメイクをした。
余裕をもって準備したはずが、少しだけ時間がかかってしまった。
家を出たのは十一時過ぎ。
待ち合わせの駅には何とか予定通りの時間に着いた。
そこには既に黒部先輩の姿があった。
「黒部先輩、お疲れ様です」
「お疲れ。流石時間通り」
「先輩の方が先に来てたじゃないですか」
「まあ、男が遅れてくるわけにもいかないかならな」
「そういうものですか」
「そういうもんらしい。よし、行くか」
「はい」
先輩曰く、これから向かうのはイタリアンのお店らしい。
なんでもピザが有名で、この前バラエティー番組で取り上げられたとか。
お店の前に着くと、そこには長蛇の列ができていた。
丁度お昼時。これは結構待ち時間が長そうだ。
「あの、先輩。これ結構待ちそうですけど、どこかで時間つぶしますか?」
「いや、予約してあるから大丈夫」
「え?」
そう言って先輩は長い列を無視して店内へと入っていく。
私もその後を追った。
「すみません。十二時半から予約していた黒部です」
「黒部様……はい。こちらへどうぞ」
少し年上の女性の方に店内を案内された。
「予約されてたんですね」
「うん。一応ね」
(やっぱりこういうの慣れてる……)
思い返せばこれまでの人生、誰かを好きになることはあっても、付き合ったことは一度もなかった。そんなことが頭に浮かぶと、ふと今の自分が先輩からどう見られているのかが気になってきた。
(今日の私、変じゃないかな……)
「糸魚川?」
「あ、はいっ」
「メニュー、なに注文する?」
「ああ、えっと……ピザが有名なんですよね」
「うん。そうらしい」
「やっぱりマルゲリータは欠かせないですかね」
「いいね。俺、このチーズのやつも食べてみたいんだけど、いい?」
「いいですね、頼みましょう」
黒部先輩が店員さんに声を掛けて料理を注文する。
料理が届くまでの時間、何気ない話をしている時だった。
不意にバックの中のスマホが鳴った。
確認すると、私用の携帯ではなく、念のため持ち歩いていた社用携帯の方だった。
相手はお客様だ。
「あ、……もしかして打ち合わせについてかも」
「社用携帯、持ち歩いてるんだ」
「はい、念のため。……すみません、少し対応してきます」
「ああ、うん……」
電話の内容は、案の定仕事の問い合わせだった。幸い、すぐに解決できる内容だったけれど、最後にまた電話するかもとお客様に言われた。
(一応、休みの日なんだけどな……)
テーブルに戻ると、既に料理が届いていた。
「す、すみません! お待たせして……」
「大丈夫。料理も丁度今来たところ」
「良かった……」
私と先輩は、揃って手を合わせてから料理を食べた。
ピザは本当に美味しかったけど、ほんの少しだけ冷めていた。