06
「糸魚川さん、これやっておいて」
「はい」
忘年会以降、富山課長の遠回しな嫌がらせが始まった。
傍から見れば自然な上司と部下のやり取り。
でも、蓋を開けてみると明らかにキャパオーバーの仕事を割り当てられている。
(今日も残業か……)
残業なんてやりたくもない。
するとパソコンに社内チャットでメッセージが入る。
黒部先輩からだ。
黒部 樹『糸魚川』
黒部 樹『ヤバかったら仕事回して』
黒部 樹『俺も手伝う』
嬉しかった。
でも、今は自分で何とかしたい。
糸魚川 律『ありがとうございます』
糸魚川 律『本当に手が足りなくなった時にお願いします』
デスクの隙間から黒部さんと目が合った。
私は頭を下げる。
黒部さんがパソコンのキーボードを打ち始めた。
メッセージが届く。
黒部 樹『わかった』
黒部 樹『あと今週末、空いてる?』
黒部 樹『飯行かね?』
糸魚川 律『空いてます。是非!』
黒部 樹『分かった。店こっちで決めるけど良い?』
黒部 樹『行きたいとこあれば教えて』
糸魚川 律『どこでも大丈夫です』
黒部 樹『決まったら連絡する』
糸魚川 律『ありがとうございます』
仕事を倍以上頑張るのだから、これくらいのご褒美はあって良いはずだ。
ぐっと伸びをしてから、私はパソコンと向き合った。