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05

 駅まで早歩きで向かっていると、後ろから名前を呼ばれた。


「糸魚川!」


 振り返ると黒部先輩がいた。

 少し息が上がっている。急いで追いかけに来てくれたのだろうか。


「黒部先輩……すみません。いきなりあんなことして」

「いや、そんなことよりも糸魚川の方は大丈夫か?」

「はい。実際は未遂なので」

「そうか……」


 黒部先輩はほっとした様子だった。


(心配してくれたんだ……)


「駅まで送るよ」

「ありがとうございます」


 隣を歩く先輩の顔はどこか暗かった。


「糸魚川、本当にごめん」

「先輩?」

「富山課長が酒癖悪いのは二年目以降の社員ならほとんど知ってることなんだ。事前に伝えておけばこうはならなかったと思った」

「ああ……」


(だから飲み会の席で誰も富山課長に関わろうとしなかったんだ)


 今更ながら私は納得した。

 それに私ももう少し注意しておくべきだった。

 今の時代にそんなべたなセクハラが起こるとは全く思っていなかったわけだし。


「先輩は悪くないですから。それに、ああやって反撃できたのは先輩のおかげです」

「え、俺?」

「はい。嫌なことは嫌って言えってやつです」


 先輩はぽかんとした顔をした。


「……俺、そんなこと言ったっけ?」

「言いましたよ」


(ついこの前のことなんだけどな)


 それだけ先輩にとっては大したことじゃないんだろう。

 でも、私にとっては今まで考えたこともない価値観だった。


「まあ、これで私がクビにされたら先輩が私を養ってくださいね」

「いや、重っ。それに何かプロポーズみたいだな」

「あ、他意はないですよ」

「即答かよ」


 私と先輩は揃って笑った。

 久しぶりに笑った気がする。

 気が付けばもう駅は目の前だった。


「糸魚川って面白いな」

「それ、誉めてます?」

「もちろん。糸魚川の印象ってクソ真面目って感じだったから、少し驚いた」

「あはは、よく言われます。でも、先輩も噂で聞いてた人とはちょっと違っていて驚きました」

「噂?」

「何でも、元ヤンで女の子遊びが激しいとか」

「いや、まあ……」


 先輩が珍しく動揺していた。

 やっぱり人を見かけや噂で判断しちゃだめだな。


「すみません、冗談です。先輩は凄く優しい方です。じゃあ、私帰ります。ここまでありがとうございました」

「ああ、じゃあな……」


 駅の改札を抜ける。

 すると後ろから「糸魚川!」と呼ばれた。


「今度、飯行こう!」


 先輩みたいに大きな声を出すのが苦手だった。

 代わりに私は腕で大きな円をつくって、それに答えた。

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