03
何件か連絡してみたけれど、どこも予約でいっぱいだった。
それもそうだ。今は忘年会シーズン真っ只中。
今週末にいきなり大人数で入れる居酒屋なんて早々ない。
(どうしよう……)
チェーン店がダメなわけじゃないけど、あまり印象は良くないと聞く。
でもこのまま予約が取れない事の方がマズイ。
「糸魚川、まだいたんだ」
顔をあげると、同じ部署の先輩の黒部 樹先輩が立っていた」
「お疲れ様です」
相変わらず綺麗な顔をしている人だ。
社歴三年目の黒部先輩は色々な意味で会社では有名な人だった。
曰く、元ヤンで地元では有名人だとか。
今は色々な女性をとっかえひっかえしているとか。
私自身、先輩に抱いている印象は「少し不真面目な人」だ。
「お疲れ。仕事追い込まれてる?」
「いえ、ちょっと忘年会の場所を決めないといけなくて」
「え、今?」
「はい。課長に今週末って言われて」
「今週末? 絶対課長が忘れてたやつだな……ちょっと待ってろ」
すると黒部先輩はスマホを取り出して、どこかに電話をかけ始めた。
「あ、もしもし? 俺です。あの、突然なんですけど今週末新年会の予約できないっすか? ……やあ、何とかなりません? 結構ピンチなんですよ……」
先輩は電話相手と少しだけ他愛もない話をしていた。
それから会話の合間、先輩が私に尋ねてくる。
「うちの課って何人だっけ?」
「えっと、十五人です」
先輩は再びスマホを耳に当てる。
「十五人。時間は十九時くらいで……本当っすか? 助かります。はい、じゃあよろしくお願いします」
プツンと電話が切れる音がした。
「あの、先輩?」
「高校の頃の先輩がやってる居酒屋。駅から少し離れてるけど、料理もお酒もおいしい俺のお気に入り。店長に聞いてみたら何とか入れてくれるって」
「本当ですか!?」
「うん。あとで住所送る」
「ありがとうございます!」
「良いってこれくらい。じゃ、お先に」
「お疲れ様です」
先輩が踵を返す。
すると何か思い出したのか「あ」と言う。
「新人だからって何でも引き受ける必要ないから。嫌なもんは嫌って断れよ。仕事なんてほどほどに頑張れば良いんだから」
「……」
「じゃ、お疲れ」
「お、お疲れ様です」
先輩はオフィスから出ていった。
私は椅子の背もたれにぐったりともたれかかって、天井を仰いだ。
昔から律は真面目過ぎると言われることはあった。
私自身、何事も妥協はしたくない。だからそれは誉め言葉のように感じていた。
新人なんだから言われたことは何でもやって、完璧にこなさないといけない。
ミスなんてもってのほか。でも、そんなのは無理だと心のどこかで思っていた。
「ほどほどに頑張るか……」
少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。