01
最近、自分がよくわからない。
毎日納期に追われる日々。
残業ありきのスケジュール。
ブラック企業というわけではないけど、忙しい日は帰宅が二十二時を回ることもある。
もともと将来の夢はなかった。
漠然と営業をやってみたかっただけ。
けど、こんな社会人にはなりたくなかった。
お父さんに相談しても「お前は社会人をなめてる。お父さんが新入社員の時なんて……」と、昭和の凝り固まった思考を説かれるだけ。
こんな毎日くたくたになるために良い大学を出てこの会社に就職したわけじゃないのに。
「私、転職しようかな」
週末、私は高校からの友人である彩と美香にそうぼやいた。
「ええ、何で!?」
「律の就職先って○○社でしょ? 超大手じゃん」
「まあ、そうなんだけど……ちょっと辛くて」
「辛いって残業とか? それとも上司のセクハラ?」
私は机に突っ伏して答えた。
「うーん。そういうのじゃなくて、気持ちかな」
すると二人はお互いに顔を見合わせてから言う。
「私だったらもう少し続ける。まだ一年も経ってないし」
「あたしも。給料も高いんでしょ? あたしなんて手取り十三万! 毎月の美容費だけでカツカツなんだから」
「それは美香がやりすぎなだけでしょ。そのごてごてのネイルとか怒られないわけ?」
「全然平気。美香の方はどうなの? 美容師」
「辛いことばっかりだよ。でも、それ以上に楽しいから我慢できる」
胸の中がむかむかする。
私は二人よりもたくさん勉強して、良い大学にも進学して、良い会社に就職したのに。
なんで廃れているのが私の方なんだろう。
二人は何も悪くない。
でも、口にせずにはいられなかった。
「……ずるい」
二人には聞こえないくらいの声量で、私はそうぼやいた。