とある兵士の非日常
俺の名前はマス、俺が住む街へ危害及ばぬように門番をしている、それが俺の仕事だ
朝近所の鳥が鳴く声で起き朝食を食べてから着替える、そして南門に行き夜の番をしていた仲間と交代し、日が暮れてまた夜の番が来たら交代をして帰る
それが俺の毎日の流れだった
(この仕事についてから10年か)
俺は12の歳に冒険者になった、父や母には父と同じ仕事に就くように言われたが、おとぎ話の勇者に憧れて魔物を倒したいと、反対する両親を説得して冒険者の道へ進んだ
(親父…元気にしてるかな)
俺は勇者のようにはなれなかった、旅に出たこともあったが、結局はDランクの魔物さえ一匹倒すのが限界だった
(母さんも元気にしてるだろうか)
冒険者になってから旅に出て8年ほど経ち、ギリギリだったが五体満足で生き続けて父と母のいる街へ戻ると、二人が亡くなったことを友人から聞かされた
父は南の門を守っていたそうだが、ある日街の南門の前にある魔物の森と呼ばれる危険な森から、血塗れの冒険者が飛び出してきた
その冒険者が俺に似ていたらしい、父は仲間の静止を振り切り近寄ったところで、飛び出してきた魔物に殺されたと聞いた…そして母はそのショックで憔悴しそのまま暫くしてから亡くなったそうだ
「君の父は勇敢な男だった、誰よりも街を守ることを誇りにしていたよ」
当時父の上司だった人に、父が働いていた場所で街を守る力にならないかと勧められた。そして冒険者としての限界を感じていた俺は、父の分まで働こうと門番になることを決めた
あれから10年が経ち、毎日変わらない日常に飽きることもなく、俺は南門を守り続けていた
「この者は王の命令で国外追放だ、二度と入れるな」
『はっ!』
そして普段は俺達の前には顔を見せない城の兵士が、1人の青年を門の外に投げた。城の兵士は貴族の子息なので、街の住人とは身分が違うのだ
(少年ではないな、青年だよな)
体格は俺の15の頃に似ている。着ている物は、まるでおとぎ話で聞いたような、見たこともない装いをしていた
(すまないな、名も知らぬ青年)
俺は持っていた槍で境界線を引き、先程の城の兵士に言われたように街へ入らせないようにした
青年は驚き、悲しそうな顔をしていたが、暫くするといつの間にかその場に倒れていた
(どうするか、罠ではないよな)
共に門を守る仲間にも様子を見るように言われたので少し待ったが、起きる気配がないので近寄って揺さぶった
(良かった、死んではいない)
青年は生きてはいたがこのままでは本当に死んでしまう、俺は冒険者時代から使っていたナイフをその青年に渡すことにした
(少しでもいい、長く生きてくれ)
暫くすると青年はこちらへ頭を下げた後、森の中に消えた。もう会えないかもしれないが、俺のナイフが彼の力になればと祈った
(まだ生きてるかな、でも魔物の森は全盛期の俺でも入らなかったからな)
青年が森へ入ってからどれくらい経っただろうか、俺達が守る南門は、主に魔物の森へ向かう上級冒険者の通行と、魔物が万が一街へ侵入しないように監視をしている
(まぁ万が一魔物が森から門へ来たら、急いで門を閉じるしか出来ないんだけどな)
俺でもDランクを一匹倒すまでだった、他の門番の中にそんな猛者もいない
「お、おい!あれっ!」
『へっ?』
少し空を見ながら考えことをしていると、もう1人の門番の仲間が俺に声をかけた。呼ばれた方を見ると、先程の青年が血塗れで倒れている
(嘘だろ、まさか…)
「あ、おいやめろ、父親の最後を忘れたのか!」
仲間の叫ぶ声を振り切り、俺はその青年へと走った