風呂を作ろう 2
「九十九、これでどうだ?」
『いいですね、それくらいあれば大丈夫だと思います』
食後にシゴロの家へ戻り、作業の続きに入った。ヒフミはもう少し休むと言うので、今のうちに排水周りをやっておくことにした。作業の前半でシゴロが言っていた、前に埋めたという穴を確認し掘り直してもらった
『風呂の水を抜いたらここまで流れるようにするので、ある程度貯められないと困りますからね』
ただ1つ問題がある、これから先何度も使用するのなら排水先を決めないといけない。少量なら蒸発するまで放置すればいいが、村に銭湯を作るのなら川に流す方向で考えたい
(川に流す前に、ろ過するフィルターみたいなのも考えないといけないのかな?)
風呂から水を抜く場所に、布などを巻くだけでも変わるだろうか。但しそうするのなら、もっと目の細かいものが必要だったと思う
(いっそのこと村の外に銭湯を作るのもありだな、川に近ければ排水も楽だし…村の柵を広げればいいだけだもんな)
もしそうなるなら大規模な作業になりそうだ、まずは村の人からの信頼を得る必要があるだろう
『あれ?そういえば村長さんに会ったことはないな』
村に着いてから一度も見たことがない、チキンバードを食べた宴でも挨拶をすることがなかった
「村長なら、少し前に出かけたぞ。定期的に俺やヒフミが作った物を、他の街へ売りに行くんだ」
シゴロが言うには、俺が着く少し前に村を出ていたらしい。村の南西から出た先にある、俺がまだ行ったことのない街へ売りに行ってるらしい
「俺が作った器とかヒフミが作った木の細工や薪などを、売りに行ってくれるんだ。村には収入がないからな、それを売った金で街で買って帰って来る感じだ」
『なるほど、村長さんが自ら行くのは凄いですね』
「村の決まりらしいからな、ずっと歴代の村長はそれを続けてるよ。もう少ししたら、戻るんじゃないかな?」
村長といえば老人なイメージだが、もしかしたら若い人なのかもしれない。村に戻ってきたら、一度は挨拶をしたいと思う
「さて、後はどうする?」
『そうですね…お風呂をここに置くとして、壺は向きを変えれば直にお風呂にお湯を送れそうですね』
窯の高さが50センチほどはあり、その上に壺が乗っている。壺はドラム缶に似た大きさなので、1回でそれなりの量のお湯を沸かすことが出来そうだ
「重いから1回水を抜くか」
『そうですね、抜いてから一緒に動かしましょう』
抜く前に壺の中をよく擦り、もう汚れがないことを確認した。そして水を抜いてから、水を抜く栓がある方を後ろから横に向ける
『ヒフミさんが起きる前にお湯を沸かしておきたいので、また手伝ってもらっていいですか?』
「ああいいぜ、いい筋トレになるよな」
『たしかに…結構腕にきますね』
腕だけではなく、腰や足も疲れていた。ただステータスが上がった影響なのか、前に比べて楽に感じている
『風呂が完成したら、きっと頑張って良かったと思えるのでお願いします!』
「ああ、九十九のことは信じてるからよ」
シゴロと2人で何往復もして、壺の中に水を貯めた。貯める途中から火を入れてお湯を沸かし始め、ヒフミが来るまで待つことにする
「待たせたね、久しぶりに大きな物にスキルを使ったから、疲れちまったよ」
シゴロと話していると、ヒフミが外に出てきた。肩を回したりストレッチをしながら、こちらへ近づいてくる
『先程作ってもらった木の容器と同じ物を作ってもらって、2つを合わせてもらえますか?』
事前に作ってもらった半分と木を1本、シゴロと風呂を設置する予定の場所に持って来ていた。後はヒフミがスキルで作ってくれれば、風呂は完成となる
「ちょっと待ちな、同じ物だね」
ヒフミが木に手を添えて、先程作った物を見て集中する。木が虹色に光ると、形が変わって半円の桶みたいなものが出来る
『シゴロさん』
「おう、合わせればいいんだな」
シゴロと協力して動かし、半円の桶の接合部を合わせる。綺麗な円の形になり、大きな桶がその場に置かれた
『ヒフミさん、お願いします』
「はいよ」
ヒフミが桶に触れると、接合部の壁となる部分や底の部分が光り始める。そして俺が欲しかった物が、そこに完成した
『ふむふむ、周りの壁の高さは1メートルくらいで厚みは5センチ以上あるからちょうどいいですね。足も伸ばせるので、2人で入っても全然大丈夫そうだ』
「そういえば、栓をつけるんじゃないっけ?」
『あ…そうだ、シゴロさん忘れてました。ヒフミさん、ここに水を抜く用の栓を付けたいです』
「こんな感じかねぇ」
ヒフミは桶の底に近い横の壁に、500円玉くらいの穴を空けた。そしてT字の木の栓を作り外側から挿して、水を抜きたい時はそれを抜けばいいと言っている
「試しにこれで使ってみて」
『わかりました、ありがとうございます!』
完成した風呂を見ると、初めて作った物にしてはよく出来ていた。これも全て、シゴロとヒフミがいてくれたおかげだ
「それで、これをどうするんだ?」
シゴロを見ると、期待の眼差しを俺に向けている。とうとうこの時が、来てしまったようだ
『この中に壺のお湯を出しましょう。どれくらいの量が貯まるか、確認してからですね』
「あいよ、栓を抜くぞ!」
『それ、火傷に気をつけて下さい』
壺に付いている栓が熱さで持てなくなっていたので、布を何枚も巻いてなんとか抜くことが出来た。ここはまた後で、風呂への排水管みたいな物を作りたいと思う
『お〜』
「貯まる貯まる〜」
「これじゃあ、この容器の半分も貯まらないねぇ」
壺からお湯がどんどん流れて行くが、風呂の大きさがそれなりにあるので足りなかった。だがそこに事前に用意しておいた水を足して、温度を調整しつつ水量を増やす
「これでも半分くらいだねぇ」
『ヒフミさん俺達裸になりますけど、見てますか?』
そろそろ入っても、問題はなさそうだ。ただ裸になるので、ヒフミに確認を取った
「え、何を言ってるんだい?」
『お風呂なので、裸で入るんですよ。出来れば離れててもらえると、助かりますけど…』
そう言いながら少し服を脱ぐ、ヒフミしだいでは対応は変えようと思う
「ちょっ、ちょっと待ちな!」
ヒフミは顔を赤くしながら、家の中に入って行った。俺はそのまま服を脱いで、用意しておいた器に服を入れた
『ん〜ちょっと熱いけど、大丈夫そうだな』
手を入れてお湯を混ぜた。底の水と湯を混ぜて、温度を調整する。そして小さい桶に入れた風呂のお湯を、頭から被った
『さて…九十九いっきま〜す!』
湯温には問題がないので、風呂の壁を乗り越えて中へ飛び込んだ




