交渉
「時間が勿体ないので、単刀直入に言いましょう。あの魔物の素材を、売っていただきたい」
商人が言うにはチキンバードのランクはDで、専用の冒険者を雇わないと狩るのは大変らしい。しかも今回の個体は、長年逃げ続けた良質な魔物だったとか言っている
(たしかに逃げ足は早いしな、赤かったし)
気配察知をされて罠も察知され効かないし、しまいには遠距離からの飛び道具も弾く。俺もスキルがなければ、触れることも出来なかった
「私が連れている護衛でも、あの魔物は無理だと言っております。あの魔物を倒せるほどの冒険者様なら、魔物の価値もご存じだとは思いますが、何卒お譲り戴けるとありがたい」
商人は頭を下げている、それほど素材が欲しいみたいだ
(と言っても、俺は倒した覚えはないんだよな)
チキンバードに掴まっていたら、勝手に魔物が飛んで穴に落ちて首を折って死んだだけのような気もする。だがステータス画面を開くと8だったレベルが、初めての2桁に突入していた
(お、10になってる。そうなると、俺が倒した判定になったのか)
運が良かったとしか言えないが、勝ちは勝ちってやつだろうか、俺は商人との交渉に応じることにした
『欲しい素材はどれですか?可能ならチキンバードの肉はこちらで消費したいです』
「お、ありがとうございます。そうですね、肉は腐ってしまうので全然構いません。私としては、それ以外の全てを希望します」
『なるほど』
肉を置いていってくれるなら俺としては他はどうでもいい、正直冒険者ではないので価値もわからない
『あの魔物の素材って…』
「おわかりの通りです。あの魔物の素材を加工すると、風の加護を得ることが出来ます」
俺の話を食い気味に話しを始めた商人は、チキンバードの凄さを語り始める。わかりやすく言えばその素材を加工して武具やアクセサリーを作ると、ステータスに補正がかかるらしい
「それでどうですか?」
『あ〜、そうですね…』
価値を決めるにも、どれくらいの物かわからない。個人的にはお金はいらないので、それなら実用的な物が欲しい
『あ、勇者米って積んでますか?』
前にマスターが、商人が街へ運んでいると言っていた。それならそれはまず欲しい、チキンバードもあるので丼にしたい
「勇者米ですか、今回は街からの注文もあり多めに積んでますね」
『それを置いていけるだけ下さい、後はどうしようかな…』
「ふむ、街へ卸す分もあるので樽2つを置いていきましょう。お〜い!」
商人が声をかけると、従者が樽を2つ酒場の中に入れた。樽は小学生の子供が入るくらいの大きさで、中には結構詰まってそうだ
「あなたの武器は、そのナイフだけですか?」
『あ、そうですね』
商人は俺の腰を見ながら考えている、見ればわかるが武器どころか防具もない
「ふむふむ、これはどうですかな?」
商人が従者を呼び伝えると、また酒場の外から持ってきた。俺の前に出されたのは、ナイフより大きいダガーだった
「少し前に仕入れたものですがね、ナイフの切ると別の用途でダガーは突き刺すのにおすすめですよ」
『なるほど、それは持っておきたいですね』
勇者米以外に欲しい物が浮かばないのでダガーを受け取り、残りは靴や服など実用的な物を交換してもらった
「これでどうでしょうか?」
『俺はそれで大丈夫です、ありがとうございます』
「う〜む…普通ならもっと上から色々と要望を言われるものですが、あなたは他の人とは違いますね」
『えっ?』
「また機会があれば、お願いしますよ」
商人は笑顔で酒場から出て行った。俺の前には樽が2つと、ダガーと服などが置いてある
「九十九、お前気に入られたみたいだな」
商人との話が終わり、マスターが近づいて来る
『そうなのですかね、わからないですけど…』
勝手に死んだ魔物のおかげで、手に入ったようなものだ。俺はただ良い思いをしてるだけだと感じている
『それよりも…』
「ん?」
『チキンバードの肉は、どこにありますか?』
「涼しいところに置いてあるぞ」
『マスターって、勇者米の炊き方はわかりますよね?』
「まぁ、わかるけど」
さすがマスターだ、この村で1番仕事が出来る男と言ってもいいだろう
『マスター、村の人達全員にチキンバードと、勇者米の丼をお願いします!』
「本気で言ってるのか九十九、普通ただで食える物じゃないぞ」
『大丈夫です、勇者米はまだまだ余るだろうから残りは後日として、チキンバードは腐らせないように皆さんと食べましょう』
「うぉぉぉぉ、すげえ!」
「兄ちゃん本当かよ!」
「九十九お前…凄いよ」
村の男達が叫び始めたが、お腹の空いた俺にはそんなことはどうでもいい
『俺はお腹が空いたんだ!今夜は宴だ〜!!』
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
酒場に、男達の叫び声が響いたのだった




