猪の脅威
「九十九、お前…」
『ここは俺に任せて、先に村へ行って下さい』
俺は護衛として村の男達を守る為に、目の前の魔物と対峙している。それは10メートルほどの距離を取り、こちらを見ていた
(なんか…トリケラトプスみたいだな)
口元または鼻の横なのかそこから出た牙が2本、額にも1本、角みたいな物が出ている。昔恐竜図鑑で見たのは、こんな感じだっただろうか。猪をリアルで見たことは無いが、まるでそれは軽自動車と呼んでもいいくらいの大きさだった
(こちらを様子見してるのかな?)
今のところ静かにこちらを見続けている、俺は魔物へ意識を集中した
ワイルドボアー レベル 12
HP 150/150
MP 20/20
力 100
体 80
速 40
運 15
パッシブスキル
臭い察知 数キロ先までの臭いを嗅ぎ分けることが出来る
アクティブスキル
突進 衝突した対象へ2倍のダメージを与える
(う〜ん、死んじゃう…)
ステータスを見る限り、ホーンラビットより強い。そしてこいつの場合は、木に刺さっている間に倒すのも通用はしないだろう
(ナナ、いるか?)
「上にいるよ〜」
(周辺に他の魔物は?)
「う〜ん、いないみたい」
ナナを信じて行動に移そうと思う、村の男達はまだ動いてはいない
(付与、融合)
今のところ、目の前の魔物に勝てるのは速さだけだ。俺はスキルを発動して、ワイルドボアーへ走った
『おらぁ!』
ナイフを取り出して、顔を切るように振った。だがワイルドボアーの皮膚は硬く、刃は上手く通らない
「ブォッ」
『あっ』
切りに行った時に驚いたのか、顔を少し動かしていた。そのおかげなのかたまたまなのか、ナイフの刃が目の辺りを切ることになり、少しだけだがダメージが通ったみたいだ
「ブォォォォ!」
「うぉっ、なんだ!」
「こいつ怒ってるぞ」
目の前の魔物が雄叫びを上げると、後ろから声が聞こえてくる。村の男達は、まだ逃げていないらしい
『早く逃げてくれ!時間がない!』
俺のスキルも残り時間が少ない、ワイルドボアーが怒ってるうちに距離を離すしかないみたいだ
『ほら、こっちだぞ!』
「ブォォブォッ」
村の男達を逃がすために山の方へ走った。後ろを見るとワイルドボアーは、俺を追いかけて走り出した
『やばいな、後20秒くらいか』
「あっちに大きな岩があるよ!」
『ナイスナナ、そっちへ向かう』
ナナに教えてもらった方へ進路を変える。ワイルドボアーから見えなくならないような距離を取りながら、俺はそこまで走り続けた
『はぁはぁ…ふぅ』
俺は今、ナナが見つけてくれた岩の上に転がっている。その岩は高さが5メートルはあり、バスくらいの大きさはあるので、なんとか登って身を隠していた
『まだいるか?』
「いるよ、岩の周りを行ったり来たりぐるぐるしてる」
『やはり臭い察知のスキルで、居場所はバレてるか』
少し顔を出して下を見ると、ワイルドボアーがこちらを向いていて目が合った気がする。これは、かなり怒っているようだ
『登って来ないだけ助かるけど、俺も降りれないな』
1度だけ岩に突進をされたが、揺れただけで砕ける程では無かった。その衝撃には俺も驚いたが、岩からは落ちなくて済んだ
『このままにらめっこかな』
シゴロ達は無事に帰れただろうか。ワイルドボアーがこちらにいるので大丈夫だとは思うが、その後に何かあれば守ることは出来ない
『ナナ、何かいい方法はないかな?』
「ん〜どうかしらね、ステータス的には圧倒的に負けてるし」
先程の様に速さを上げたところで、逃げるしか出来ない。結局村に逃げ込んでも、怒って被害は拡大するかもしれない
『いっそのこと大きな穴でも空けて、罠でも作っておけば良かったな』
その昔原始人は、マンモスを穴に落として矢で射ったと授業か何かで聞いた。それがこの魔物に通用するかは置いておいて、準備はしておけば良かった
『いなくならないかなぁ』
また顔を出して下を見てみる、相変わらずその魔物は岩の周りを歩いている
『今は昼くらいかな、お腹空いたなぁ』
仰向けになり空を眺める。青い空に浮かぶ雲が、綿菓子に見えて更にお腹が空いてきた
『いっそのこと寝ようかな…』
空を見ていると、暖かい日光で眠気が出てきた。これが夏のような暑さだったら、確実に死んでしまうだろう。そして俺は、いつの間にか夢の中に落ちたようだった
「お〜い」
『はっ!』
「ちょっと〜、起きなさいよ」
『あ、すまん、いつの間にか寝てた』
ナナの声に目を覚ますと、青かった空が橙色に変わっていた。下を見ると、ワイルドボアーの姿が無い
「あっち、あっち!」
『あ、あれか』
ナナの指す方を見ると、遠くに小さい影が見える。俺が全然降りて来ないので、諦めたようだ
「いきなり鼻を動かしたと思ったら、いなくなったわよ」
『別の獲物でも見つけたのかな』
ワイルドボアーは村の反対側の山の方へ向かったので、とりあえずは安心出来そうだ。少し様子を見てから帰ろうと思うので、ナナと話をして過ごした
『そろそろ行くか、お腹も空いて動けなくなりそうだし』
「九十九を見てたら、私もお腹空いてきそう」
先程からずっとお腹が鳴っている、俺の身体も流石に限界のようだ
『動くのも辛いなぁ…』
「でも自分で歩かないと、村には帰れないわよ」
『ナナが大きければ、俺を飛んで運んでくれるのに…』
「さいって〜!女の子になんてことさせるのよ!」
ナナがポカポカと音が聞こえるように、頭を叩いてくる。痛みはないので、可愛いものだ
「全くもう、九十九ったら…あっ!」
『ん、どうした?』
ナナが俺の後ろに何かを見つけたららしい、もしかしたら先程の魔物が戻って来たのだろうか
「チキンバードだっけ?」
『何っ!!』
俺はその言葉に、勢いよく首を動かした。ちょっと勢いがあり過ぎて痛かったが、たしかに結構先に赤色のダチョウみたいな魔物が見える
『チキンバード、食べたい』
「美味しいんだっけ?」
『食うしかないな、行くぞ!』
俺は岩から降りて、チキンバードの方へ向かった。俺とチキンバードの先は、村がある方向のはずだ
『村まで追い込むか、ナナ周辺の警戒を頼むぞ』
「いいけど、気をつけなさいよ」
『どうするかな、少し追いかけてみるか。または最初からスキルを使って、奇襲をかけるか』
まだチキンバードには見つかっている様子がない、今ならどちらでも良さそうだ
『とりあえずステータスを見てみるか』
そして俺は、チキンバードへ意識を集中した。村へ帰るついでに、今夜の食事は豪華にすると決めた




