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そして風呂の話

「それで、俺としたい話ってなんだ?」


『そうですね、シゴロさんは粘土の職人なんですよね?どういうことが出来ますか?』


「どういうことって、粘土の形を自由に変えることかね」


シゴロは服の中に手を入れて小さな塊を取り出す。それはサイコロくらいのサイズで、揉むとぐにぐにと形が動いていた


『そういえばこの村の人って、着物みたいな服を着てますよね』


「着物?」


(あ、着物と言ってもわからないか。何故かこの村の人ってドラマで見た江戸時代の服装に近いんだよな)


着物と言っても小袖に近いだろうか、薄手で質素な雰囲気である


「昔からこの格好らしいからな。おとぎ話になっているが、召喚された勇者が最初に立ち寄った村がここらしい。そこで俺達の先祖が勇者から教えてもらって、着るようになったのがこの服らしいんだ」


村にあるトイレなども勇者から得た知識だとか。そう言われてみると、ところどころに面影を感じる


(しかしまぁ…)


すれ違う女性達がシゴロを見て驚き、そのまま目で追いかけている。髪と髭を整えた途端、女性から魅力的に映るようになったらしい


「話が逸れたな、これが俺のスキルだ」


俺が話を逸らしてしまったので忘れていたが、シゴロが手に持った粘土に集中すると、それが輝いて変形していく


「これでどうよ」


(…キン消しかな?)


シゴロの掌には、親戚の叔父さんが見せてくれたコレクションの、キン消しみたいな物が乗っている。よく見ると女性の形なので、ヒフミをイメージして作ったのかもしれない


『これってヒフミさんですか?』


「え、ああ、そうだよ」


好きな人をイメージしたのだろうか、女性の形のキン消しサイズの粘土人形が、掌に乗っている


「あんたら戻ってきたのかい、え…」


『あ、ちょっと出てました』


俺とシゴロが家の前まで戻ると、ヒフミが自分の家から顔を出して声をかけてきた。もしかしたら戻るまで、ずっと待っていたのかもしれない


「あんた、もしかしてシゴロ…?」


「なんだよヒフミ、文句あるのかよ」


(あらあらあらあら…)


2人が頬を染めながら顔を逸らしている。いっそのこと素直になればいいのに、この2人の春はまだ先になりそうだ


「と、とりあえず中に入ろうぜ」


『え、いいのですか?』


「いい!いいから!」


「え、ちょっと…」


ヒフミから逃げるように、家の中に入って行った。俺はお辞儀をして、シゴロを追って家に入る


「またやっちまった…」


『う〜んその件は、また後で協力しますよ』


話を戻すと進展が望めないので、まずは風呂の話に入ろうと思う


「ヒフミのこと、協力してくれるのか?」


『ええ、それは後々手伝うので、今は風呂の件をいいですか?』


「ああ、そうだったな、それで風呂ってなんだ?」


俺はヒフミの時と同じく、風呂の良さを説明する。シゴロは真剣に話を聞いていたが、理解は出来ていなかった


「その風呂ってのに、俺のスキルは役に立つのか?」


『そうですね、ちょっと確認したいことがありまして』


俺はシゴロの家に入って、とあることに気がついた。先程は目に入らなかったが、部屋の壁際に棚があり、そこに様々な大きさのヒフミ人形が並んでいた


『これってどうやって作ったのですか?』


先程見せてもらったのは粘土で作った人形だったが、目の前に並んでいるのは硬くて焼いてある、陶器のような人形だった


「ああ、隣の窯で焼くんだ」


外に出て横に行くと、少し離れたところに焼き物に使う窯があった。シゴロはここで粘土を焼いて、陶器の皿や入れ物を作っていると言っている


『あ、マスターの店でも見たかも』


「ああそうだな、前に頼まれて作ったな」


形は整ってなかったが、たしかに陶器の皿だった。マスターの娘に見せてもらった蓋付きの壺なども、ここで作ったものらしい


「これも勇者の遺物らしいぞ、先祖代々使っているからな」


(そういえば親戚の叔父さん、陶芸が趣味だったな)


俺以外の親族は、叔父さんを煙がって相手をしなかったので、叔父さんは俺にいつも作った陶器を持ってきた


『そういえば酒場の裏に、水が入った壺があったな』


「ああそれも作ったな」


『結構仕事してますね』


引きこもりと言われていた割には、ちゃんとやることはやっている気がする。よく見ると筋肉があって身体もガッシリしているので、ヒフミを守るために筋トレをしているのかもしれない


(俺がこの村を目指している時に見た煙は、これかもしれないな)


窯の煙突から煙が出ている。あの日を思い出すと、目印になったので助かった


『あれ、これって』


窯の横には薪が積んであったのだが、その裏に面白い物を見つけた。それはあると助かるなと、思っていた物だった


「ああそれか、それも勇者の遺物らしいんだがな。結構昔から語り継がれて直してきたんだが、途中から形がおかしくなって直せなくなったんだ」


燃やすのも勿体ないと、ゴミ置き場みたいな場所に置かれていたらしい。それは2つの持ち手を両手で掴んで荷物を載せて運べる、俗にいう1輪車だった


(そういえば子供の頃に…いやまぁいいか)


親戚の叔父さんに誘われて木彫りで色々作ったなと思ったが、今思い出すことでもないだろう


『これ、ヒフミさんに言えば直せそうですね』


「九十九はこれの形がわかるのか?」


『ええ、いけると思います。ん…?』


シゴロと向き合って会話をしていると、俺の視線の先、シゴロの後ろの奥に何かが見える


「九十九どうした?」


『え、いや、まぁ…』


どう見てもヒフミが隠れてこちらを見ているのだが、それを言っていいかどうか悩んでいた


(また後でお願いするか…)


2人の関係を考えたら、呼んで一緒に居させるのは悪いかもしれない。いや…逆にそういう機会を増やした方が、いいのかもしれない


(う〜ん、どうしようか)


「九十九どうした?」


『いや〜、う〜ん…』


「あんたら何してんだい」


結局ヒフミからこちらに来てしまった。そしてシゴロが反応し、2人の言い合いが始まった








『お、いい感じです』


「そうかい、そりゃ良かった」


捨ててあった一輪車は、車輪の周辺がボコボコになって折れていた。俺はヒフミに頼んで形を伝え、スキルを使って直してもらった


『たぶん前より、頑丈になったと思います』


長い年月のせいか、元の世界の一輪車に比べたら形が結構変わっていた。それを俺の知識で修正して、普通の一輪車に戻した


『これもう1台くらい、欲しいですね』


「作れるけど、木の一本は欲しいね」


「最近林から、何本か採って来てたよな」


『あ〜堀用のか…』


結局は作業に使うのだから、それを使ってもいいだろう。俺は2人を連れて現場に向かった






「おお、これはいいな」


堀を掘る現場に着いて説明し、木を1本使わせてもらって一輪車2号機を作った。ただし2号機は、俺の希望を言って少し改造をしてみる


『2種類あるので、試して下さい』


2号機はまず車輪を2本に増やし、バランスを良くした。取っ手の部分をコの字にして、引いても運べるようにもする


「元のと、どちらが使い勝手がいいのかねぇ」


『これは現場で、試してみるしかないですね。という訳で皆さんお願いします』


「おう兄ちゃんありがとよ、ところで2人がいるのは珍しいな」


村の外にヒフミとシゴロが出るのは珍しいらしい、俺の付き添いとはいえよく来てくれたものだ


「面白い物が来たから、お前ら続きをやるぞ〜」


「おう!」


現場の男達に気合が入ったので、俺達は邪魔をしないようにまた村の中に戻った。そういえば、まだまだ本題は終わってない気がする


『風呂のお湯を沸かすのに、大きな壺が欲しいんですよね』


「そうなると、俺の窯では厳しいな。土窯を1から作らないといけないかもな」


「あんたらもう、明日にしなよ」


『えっ』


空を見ると、いつの間にか橙色に変わっていた。今日はここまでにして、また明日話すことにした


「じゃあ九十九、またな!」


「あんた九十九って言うのかい、またね」


『ヒフミさんシゴロさん、ありがとうございました』


昼間のように言い合いをせずに歩く2人の背中を見送った後で、俺は酒場へ向かった


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