木の職人
「ここが木の職人の家だ、隣が粘土の職人の家だな」
『ありがとうございます』
「じゃあ俺は戻るわ、中にいると思うから」
俺を案内してくれた若い男の人が、先程の場所へ戻って行った
(う〜ん、職人の家にしては他の家と変わらないな)
マスターの酒場はともかく、この村は基本は木で出来た平屋のような家が多い。デザインも同じ人が建てたのか、個性が少なく同じような家が多かった
(そういえばトイレも、同じ人が作ってるのかな)
村のトイレは共用で、村の南に木で出来た小さな建物が2つあった。その中に入ると、畳1畳くらいの空間に陶器で出来た器があり、そこに座って用をしてから近くに置いてある水で流すと、器から繋がっている建物の外の土に埋まった器に流れて溜まるようになっていた。もう片方の女性側のトイレも同じ造りで、外の溜まるところは蓋がされていて肥溜めになっているようだ
(トイレの仕組みが、意外に良く出来てたな)
元の世界のトイレとは比べられないが、村にしてはよく出来ていた
『こんにちは、誰かいますか?』
「ああん?」
木の職人の家を覗き込み声をかけると、不機嫌そうな声が返ってきた
「誰だ?村の者じゃないな」
女性みたいな声だと思ったら、二十歳を過ぎたくらいの若い女性だった。長い髪を右上で紐で結びサイドテールみたいになっていて、見た目はヤンキーのお姉さんみたいな柄の悪さを感じた
(見た目は綺麗なのに、怖そうな人だな)
「お前、今私の悪口を考えてるだろ」
『いえ、考えてません!』
顔に出てたのだろうか、不機嫌そうな顔のまま起き上がり、こちらを見てきた
「あたしに何の用だよ、身体が目当てなら他を当たりな!」
そういう輩が寄って来るのだろうか、もしかしたら男性が嫌いなのかもしれない。たしかにモデルのような綺麗な顔は、化粧などをしていなくても魅力的だと思う
『ちょっと木の加工の相談をしたくて、お時間いいですか?』
「えっ」
俺の言葉に、怖い顔が少し緩んだ
「こっち来て座りな、くだらない用事だったら、ただじゃ済まないよ!」
『お邪魔します』
呼ばれて中に入り、その女性の前に座った。先程からずっと俺のことを睨みつけているので、警戒をしているようだ
『ええと、いいですか?』
「話しな」
周りを見るが職人の家には見えない、もしかしたら加工場は他にあるのかもしれない
『木の加工をしていると聞きまして、どういう風にしているか見てみたいなと』
「もしかしてあんたか、村の男共に変なことを言ったやつは」
目の前の女性は、眉間にしわを寄せて話し始めた。昨日から大量の仕事が入って、イライラしていると言っている
「何でも村の外に堀とかいうものを掘るから、大量に木の板を用意してくれと言ってきたんだ。あんた身に覚えがないかい?」
『あ〜、内壁の耐久性を上げるために必要かなって、忙しかったですか?』
「別に暇してたからいいんだけどね。どういう物が欲しいか聞いても、男共は曖昧なことしか言わねぇ。こちとら、中途半端な仕事はしたくないんだよ!」
つまり説明不足ということだろう、たしかに設計図などが無ければ作業も簡単には進まない
『説明するので聞いてもらえますか?』
不機嫌そうにこちらを見る女性に、自分のわかる限りの堀の仕組みと、村の安全や耐久性を含めて掘った内壁を木の板で埋めたいことや、水を張る話をした
「へ〜面白いね」
『ある程度の厚みは欲しいので、これくらいの幅と…』
1センチの板だと薄い気がするので、2センチは欲しいと伝える。長さや板の幅は組みやすいように均一でお願いしたいと伝え、それを聞いていた女性は真剣な顔をしていた
『木の加工はどうやるか、見せてもらえますか?』
なるべくなら形の整った平たい板が大量に欲しいので、少しでも技術力がそこに近づくように現在の状況を見たかった。酒場の裏に薪みたいな物が置いてあったので、薪を作るのもこの職人の人がやっているのかもしれない
「イメージが知りたいから、小さめでもいいかい?」
『あ、大丈夫です。加工場はどこですか?』
「そんなもんないよ」
そう言うと、横に転がっていた薪を取る。それは適当に、斧で割ったような雑な形をしていた
「とりあえずっと」
女性が目の前に薪を置いて指で触れると、薪が光り始めて虹色に輝き出す。そしてぐにゃぐにゃと動くと、横に伸びて厚さ2センチほどの平たい木の板が現れた
『はぁぁぁぁぁ!?』
「うるっさいね〜、いったいなんだってんだい」
『いやいやいや、これチートですよ』
「チート?何を言ってるんだい」
女性は俺の言ってることの意味がわからないと、頭を掻きながら板を見ていた。目の前には俺が想像した、平たい長方形の板が置いてある。
『これってもっと大きい物が、作れるんですよね?』
「ああ、お試しだったからね。山の方から木を採ってくれば、その時はこれの大きい物が作れるよ」
『凄い、これはアレも作れそうだ』
「アレ?」
目の前の板を手に取り見てみる。俺が考えていた壁にしたい木の板のミニチュアサイズなものが、そこに出来ていた
『こんないい板が作れるなら、村の柵ももっとまともなのが作れそうですけど』
村の柵は細い木を切って刺し並べた物を、ロープで縛ってあるだけの安い造りになっていた
「頼まれもしなかったからね、あんたの様な考えの人もいなかったし」
井戸の囲いは過去の木の職人が作り現在はたまに修復をしていて、酒場にある台やバケツなどは言われたイメージのまま作ったらしい。やはり村の中の木で出来た物は、この人達が作っていたようだ
「うちの家系はずっと木の加工のスキルを授かる家系でね、先代も先々代もずっとこの村で職人をしてるんだよ」
『なるほど』
木の加工って言葉では過ぎないレベルのことをしている気もするのだが、本人は自分の凄さに気がついていないらしい
『ちなみにこの板を、もう2枚作ってもらえますか?』
「ん?いいけど」
薪を手に取り、先程と同じ物を2枚作った。薪の大きさが多少違うので、出来た物の長さが少しずつずれていた
(体積で変化する感じか)
出来た3枚の板を横にしてから縦に積む、堀の内壁はこういう風に壁を作りたいと伝える
『釘とかってあるのかな?はめ込みのが楽だろうけど、かなりの技術がいるってテレビでやってたしな』
元の世界でテレビを見ていた時に、日本の職人の技術という番組で見た。家を建てる時の木材に凹凸の加工をして、それをはめ込むだけで繋げる方法だ
「釘?テレビ?」
『ああすいません、こちらの話です。この板を固定するのに、良い物がないかなと思いまして』
木材用の接着剤などもあるらしいのだが、そういう物がある世界ではなさそうだ
「それなら、こうすればいいじゃん」
俺が積んだ3枚の板に触れると、それが輝いて一つの板になった
『…えっ?なんだこれ』
「これが良かったんじゃないのかい?」
『いや、いいんですけど…』
こんな村に、木専門だがチート使いがいるとは思わなかった。この人ならこの村の発展に、1役買うのではないだろうかと思う
「それでどうだい?やれそうかい?」
『はい、堀の件は問題無さそうです。そしてもう1件相談なのですけど…』
そしてもう1つ、俺が思い付いた自分と村のためになることを相談することにした




