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初めての村

「いらっしゃい」


集落の敷地に入ると、周りが暗い中唯一明かりがついている建物を見つけて入った


「冒険者?それにしては随分と…」


俺の格好を見てそう感じるのだろう。俺はマスからもらった服を着て一応胸当てはつけてはいるが、それは冒険者というよりは村人と呼ばれてもいいような格好だった


『何か食べ物と、泊まれる場所はありますか?』


「ふむ…」


俺を見ている男は短めの髪に髭を生やしていて、身長は高めで体型は痩せてる方だろうか、だが腕などを見る限りは筋肉はありそうなので元々は何かをやっていたのかもしれない


(ここは酒場なのかな?)


入ってすぐに見えたのは、丸いテーブルがいくつか間隔を空けられて置かれており、そこに椅子が2つずつ置かれている。追加の椅子が欲しい場合は、部屋の隅にある椅子を持ってきて増やすみたいだ


「まぁ座りな」


言われて入り口から奥へ進む、テーブルなどが置かれている先にはカウンターがあり、そこには椅子が4つ並べてあった


「金はあるのか?」


そう言いながら店の主人と思われる男は、木のコップに入った水を俺の前に置いた


『大丈夫だと思います、おいくらですか?』


「そうだな、食事は銅貨50枚泊まりは銀貨2枚だな」


相場がわからないので言われた通り受け入れるしかないが、手持ちはあるので問題はないと感じた


『泊まりも出来るのですか?』


「ああ、2階にな」


カウンターの横を指されて見ると、そこには階段があった。外からは暗くてわからなかったが、ここは2階建てみたいだ


『泊まりもお願いします。明日の朝食もお願いしたいので、銀貨3枚でいいですか?』


「ほぉ…」


テーブルの上に銀貨を3枚を出す、店主は俺が金を持ってないと思っていたのか、少し驚いた様子だった


「待ってな、今用意する」


店主はカウンターの奥へ入って行った、そこにキッチンなどがあるのだろう


(それにしても、席の数の割に客はいないんだな)


今はテーブルは4つほどで、部屋の隅には使われてないテーブルや椅子が置かれているので、客が増えたら置くようにしているのかもしれない。だが今は、俺しか客はいなかった


「ここは通過点だからな、皆カゴウの街へ行っちまうよ。それでも昼間は、結構客が来るけどな」


俺が周りを見ているのが気になったのか、考えていることが読まれていた


「それでも夜でもこうやって客が来るからな、飲み物はどうする?」


酒を飲むかと聞かれているようだ。俺は水でいいと伝えたが、少し甘い匂いのする果実水みたいなものが出てきた


「今日の食事はこれだ」


俺の目の前に置かれたのは、シチューのような物が入った器と、形の整ってないパンのような物だった。シチューの中身は何かの肉と、いくつかの野菜が入っていて、味は街で食べたものより濃く感じた


『美味い、このパンも柔らかい』


パンだと思ったものは、よく考えてみるとナンと呼んでもいいくらい食感が似ていた。形は平たくて街のパンに比べて柔らかい、魔麦ほどではないが食べやすかった


「ふ、味には自信があるんだ」


『この肉はなんですか?』


シチューの中の肉を、木で出来たスプーンですくって見せる。スプーンも手彫りなのか、ちょっと形が変わっていた


「ステップラビットだな、村を出て少し行くといるだろう?」


『村、ですか』


「ああ、ここはイチの村だ。俺は元々冒険者でな、引退を機に親父がやってたここを引き継いだんだ」


『なるほど、冒険者だったんですね』


「ああ、そのステップラビットもたまに倒しに行くんだが、今日はたまたま在庫があったから出せたわけよ」


聞いてみると、素材は自分で仕入れに行くらしい。北の山の方では野良の野菜や麦を、街の外ではステップラビットを狩ってくるみたいだ


「今日はまだいい素材があったほうだな」


『そうなのですね、ホーンラビットほどではないですが、ステップラビットも美味しいです』


「っ!?」


ホーンラビットに比べたら肉質は柔らかいが、味が薄いと感じた。シチューではなく焼いて食べたりもしてみたいものだ


「お、おい…」


『はい?』


「ホーンラビットを、食べたことがあるのか?」


店主は驚いた表情で俺に聞いてくる


『ありますね、街で食べました』


「そうか、自分で倒したのかと思ったぞ」


先程とは違い、ほっとした表情になる。マスと同じく、何か因縁でもあるのだろうか


『あ〜、一応何匹かは倒したことがあります。角が高いんですよね』


「なん、だと…」


店主が目を開いて俺を見ている、俺が倒したのが信じられないようだ


「俺も街で食べたことはあるが、あれはCランクだったよな」


『そうですね、街の門番の人からそう聞きました』


「そうか、もしかして角は持ってないか?」


俺が倒した証拠が見たいのだろうか、だがマスにあげた一本以外は、全て換金してしまった。本当なら武器に使うために自分の分を確保するつもりだったのだが、その前に街を離れることになってしまった


「すいません、親の仇だと言っていた方にあげた以外は、全て換金しました」


「そ、そうか」


角が見れなかったことに落ち込むのが見えた、この人もマスくらいの冒険者だったのかもしれない


『ホーンラビットの角はありませんが、これはどうですか?』


時間が経ってしまったが、まだ綺麗な魔麦のパンを1つ取り出した。半分にして少し食べて、毒見をして見せる


「なんだこれは、パンか?ん!!」


恐る恐る魔麦のパンを口に入れたが、すぐにその良さに気がついたらしい、店主はあっという間に食べてしまった


「なんだこれは!!」


『それ魔物の森の少し奥で採れる、魔麦から作ったパンなんです。今は在庫はもうありませんが、ホーンラビットを狩らないと取りに行けなかったので…』


「魔物の森だと、いやそうか、ホーンラビットだからな」


俺の言葉に驚いた後に、店主は何かに納得していた


「なるほど、嘘でもなさそうだ。このパンは初めて食べたが凄く良かった、ありがとうな」


『いえ』


さすがに在庫はもう無いと言ったが、作れないことを考えたら無いに等しい。残りはナナに、この後あげようと思っている


「そろそろ部屋に案内するか、眠そうだな」


食事が終わると身体が限界だったのか、一気に疲れが出た。それが見てわかったのか、店主が部屋へと案内してくれる


「ここの一番奥を使え、扉を閉めたら鍵をかけておけよ」


『はい、ありがとうございます』


「マスター!いる〜?」


「マスターお腹空いた〜」


「おう、待ってな!じゃあゆっくりしてくれ」


他の客が来たのだろうか、下の階から若い女の声が聞こえた


『すいません、ありがとうございます』


眠気が限界だった俺は、部屋に入りすぐに鍵を閉めてベットに横になった。寝る直前に魔麦のパンを出しておいたので、きっとナナがこの後食べるのだろう…


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