突然の別れ
「九十九!九十九起きろ!」
『はっ!』
寝始めてすぐにマスに起こされた。真っ暗な詰所の中で見えないが、声からマスだと分かる
「大変なことになった…」
『どうしたのですか?』
マスの息づかいから、急いで来たのは分かった
「おいっ!怪しいやつはどこだ!」
「はっ!お疲れ様です、怪しい者とはどういう者でしょうか?」
「ここに出入りしている冒険者がいるだろう、ホーンラビットを毎日のように納品しているやつだ」
南門の方で、怒鳴る声が聞こえる。マスに呼ばれて詰所から隠れて覗くと、転移初日に南門まで俺を引き摺った城の兵士達がいた
『あの人達って…』
「しっ!最近俺達の羽振りが良かったからと、怪しまれていたらしい」
『あ〜…』
今日の昼間に思った時には遅かったらしい、マスだけではなく他の門番にも、接触していた者がいるとは聞いていた
「誰かそこにいるのか!」
俺とマスが隠れている詰所に城の兵士が近づいて来る、マスは隠れていろと言って出て行った
「貴様、マスか」
「はっ!」
「貴様がホーンラビットを納品しているのは知っている、それを倒している者はどこだ!」
城の兵士の目当ては俺みたいだ。ただ兵士の探しているのが九十九という男とは、まだ確信は出来ない
「あ〜、最近自分がお世話になってる冒険者さんですかね?」
「そうだ、どこにいる」
城の兵士がマスに詰め寄る、マスは冷静に街の中を指して言った
「今日はもうお休みではないですかね?もし良かったら宿まで案内しますけど」
「ほぉ?それなら案内してもらおうか」
マスを先頭に、城の兵士が街の中へ入って行った
(とうとうこの日が来てしまったか)
目立つことをしていたので覚悟はしていた、ただ想像よりも早かった
(まだ魔物の森も突破出来てないのに…)
もし先程の兵士に見つかったら、どんな目に合わされるかわからない。勇者の盾に使えると勘違いされて、一撃であの世に送られるかもしれない
「兄ちゃんいるか?」
昼に話をした門番が、詰所へやって来る。その門番は、申し訳なさそうに謝ってきた
「すまない、俺や他のやつも目をつけられてたみたいで、酒場で飲まされて調べられていたらしい」
ここ最近は、やけに酒をご馳走しながら絡んでくるのがいたみたいだ。そうやっていい気分にさせて、情報を喋らせるつもりだったのだろう
「本当にすまない、兄ちゃんには世話になってたのに…」
『いえ、仕方ないですよ。いつかはこういう日が来ると思ってました』
謝られてももう遅い、だが自分もマスや他の門番のおかげで、少しでも良い生活が送れていた
「もしって時があればとマスと話してたんだ、来てくれ」
呼ばれて荷物を持ちついて行く。そして街の中に入れてもらうと、街の内壁を伝い西門へ向かうように言われた
「こっちを通って行けば、西門までは行けるはずだ」
『いいんですか?』
俺を街の中に入れたと知られたら、この門番達もどうなるかわからない
「捕まらないでくれよな、俺はマスのところに行くから案内出来ないが、無事に街から出てくれ」
『わかりました、ありがとうございます!』
街の中へ入れてくれた門番達へ御礼を言い、その場から離れた
『くっ、またこれか』
南門から始まり内壁すれすれを通って、西門へ向かっている。内壁と建っている家などの建物は、間隔が空いているため通るのには支障がないのだが、ところどころに木材や瓦礫などのゴミが転がっていた
『なるべく音は立てたくないのだが…』
西門へ急ぎたいが、どこで見つかるかわからない。俺は静かに進むので精一杯だった
「ねぇ、そこにいるのは九十九君?」
『えっ?』
横から声がかかり驚いた、だが俺の名前を呼んだので知り合いなのはわかった
『スージーさん…』
「やっぱり九十九君だ、良かった〜」
スージーが俺に気がついて近づいてきた。周辺をナナが確認してくれてるが、今のところ他に人はいないらしい
「マスに言われて探してたの、たぶん内壁を通って西門へ向かうだろうからって」
『危険ですよ、わざわざすいません…』
俺を探してくれていたのだろう、スージーは息が荒かった
「これ最後に焼けたパン、暫く会えないと思うから持って行って」
スージーからパンが入った袋を受け取る、スージーは笑顔でこちらを見ていた
「九十九君のおかげで、私達頑張れそうだから…ありがとうね」
『いえこちらこそ、ありがとうございました』
マスとスージーはこれからが重要だ、二人の仲が上手く行けば良いと思った
『あ、そうだ、これ…』
「えっ」
スージーに金貨を5枚入れた袋を渡す、万が一の時は渡そうと準備をしていたものだ
『2人への俺からの御礼です、これからも2人の仲を応援してます』
「え、そんな…受け取れないよ」
『パンありがとうございました!お幸せに』
逃げるようにスージーから離れて西門へ向かう。これ以上一緒にいて見つかったら、2人に迷惑がかかると思った
(正直恥ずかしいだけだけど…)
2人へのご祝儀のつもりで金貨を渡した。次に会う機会があれば、幸せな2人を見たいと思った
(う〜ん、困ったな…)
あれから暫くして、なんとか西門へ着いた。ただなるべく音を立てないように移動したので、思ったより時間がかかった
「不審者が街の中に潜伏した可能性がある、怪しいやつが来たら捕まえろ」
「はっ!」
「万が一がある、もう少ししたら門を閉めろ」
城の兵士なのか、西門の門番へ指示を出していた。早く出ないと、西門が閉まるようだ
(さてどうするか…)
「スキルを使って強行突破は?」
『スキルは使うけど、タイミングが…』
ナナがスキルを使えばと勧めてくる、それは考えているがなるべくなら見つかりたくはない
西門にいる門番のステータスを見る限りでは、速さでは負けてはいない。ただ1分ほどで、どれだけ逃げられるかってことだ
「怪しいやつがいるぞ〜!」
(えっ!?)
「どこだ!」
俺が隠れている場所の反対側から、聞いたことがある声が聞こえる。それは間違いなくマスの声だった
「こっちだ!こっちに逃げたぞ」
「行くぞ」
「おう!」
西門の門番についていた2人が、マスの声に誘われて離れて行った。俺はそれを確認してから、スキルを発動した
(付与、融合)
スキルを発動し、駆け出す。西門は今、門番が離れてもぬけの殻だった
(マスさん、ありがとう)
俺はマスに御礼を言って、西門を抜け街から出たのであった




