新しいパン
「こら、マス!みんなが見てるってば!」
スージーと呼ばれた女性を、マスはずっと抱きしめていた
『ん〜、邪魔ですかね?』
「おうそうだな、俺達はちょっとあっちに行ってようか」
「痛えっ!」
俺と他の門番が少し距離を取ろうとすると、マスがスージーに頬を叩かれ転がっていた
「もう、恥ずかしいってば!」
「あ、ああ…すまん」
マスは立ち上がり、スージーと仲間の門番に先程の件を話した
「う、嘘…」
「嘘じゃない、九十九のおかげでやっと見つけられたんだ」
(う〜む、なるほど)
少し前からわかってはいたが、マスとスージーは良い仲なのだろう。多少は複雑な部分もあるようだが、この二人の未来は明るいと思った
「そうかお前達良かったな、また兄ちゃんのおかげか」
『いや、俺は何もしてないです』
「ねえ、もしかしてこの人が例の?」
(例の?)
マスは俺のことをどう話したのだろうか、視線を見る限りは悪くはなさそうだが
「ああそうだ、そういえばスージーはどうしてここに来たんだ?」
「あなたの家に行ったら返事がないんだもん、もしかしたらと見に来たのよ」
スージーはマスに用事があったらしい、まぁ二人の仲を見れば当然だと思う
「これ、見て!」
スージーはずっと、藁で編んだようなバスケットを腕に抱えていた。その中に手を入れて白いものを取り出す
「もしかして、出来たのか?」
「とりあえず預かったもので作れる分だけど、これ凄いの!」
マスは受け取ったパンを眺めている、パンだと思ったのは形がここ数日見たものと同じだからだ。ただし黒に近い色ではなく真っ白なパンだった
「柔らかいな、なんだこの軽さは」
マスがパンを半分にしようとすると、裂けるように綺麗に分かれた
「九十九、とりあえず俺が先に食べてみるから」
「私も毒見してるから大丈夫よ、早く食べてみて」
「なんだ先に食べていたのか、うっ!」
『えっ、あっ…』
この味だ、この味こそ俺が知っているパンの味だ。そして柔らかさは今までの比ではなく、中身ももっちもちと表現出来るくらいに噛むのが楽しいと感じた
「これ作った時にシチューが残ってたから、一緒に食べたんだけど…」
「スージー…お前、まさか…」
「持って来なかったけど、美味しかった」
「持ってこいよぉぉぉぉぉ」
(持ってこいよぉぉぉぉぉ)
スージーがテヘッと可愛げを見せるが、俺とマスの気持ちは一致していた。さすがに恥ずかしいので心で叫んだのだが、マスは直接声に出していた
「お、おい、俺達もいいか?」
俺達の様子を見ていた他の2人も、パンを譲ってくれと言った。バスケットの中には他にも2つあったので、1つを半分にして渡していた
「なんだこりゃ」
「う、美味いな、初めてだこんなの」
(やっぱり…)
魔物の森という環境なのか、それ以外の地域にもあるのかはわからないが、俺の見立ては間違っていなかったらしい
「これ、どうしたんだ?」
「いや、その…」
マスが聞かれて困っていた、俺のことは内緒にしようとしてくれてるらしい
『ホーンラビットを狩る時にたまたま見つけて、試しに持ってきたんですよ』
「九十九いいのか?」
『ええ、簡単には採って来れないかもしれませんが、また機会があれば頑張ります』
「これは凄いな、また次があれば頼むよ」
「俺もかみさんや子供達に、食べさせてあげたい」
今日の当番の、門番の2人もお願いしてきた。スージーとマスは、パン以外の話もしているようだった
「九十九、もし可能ならまたお願いしてもいいか?」
「わかりました、せっかく袋を買ってきてもらいましたからね」
腰にかけていたのを引っ張り、朝起きた時に渡された袋を見せる
「あ、それ本当だったんだ」
「だから昨日言ったろ」
(なるほどね)
昨日のマスの用事が何かはわかった、俺が頑張れば2人の仲はもっと進展するかもしれない
『また手に入れられたらマスさんに渡すので、スージーさんに届けてあげてください』
「おう、任せろ」
「楽しみにしてるわね、ありがとう」
『あっ』
スージーに手を取られ、両手で握られた
(いいなぁ、女性の温もり)
俺にもこういう相手は見つかるのだろうか、元の世界では絶望していたが、この世界ではワンチャンあるのかもしれない
『ふふふ、マスさんとこれからも仲の良いところを見せて下さいね』
「お、おい九十九」
「任せて、今度マスの子供の頃の話をしてあげるね」
「止めてくれ〜!」
明日からはホーンラビットの討伐と、魔麦の回収もなるべくならしようと思う。みんなの笑顔が見られるなら




