とある兵士の非日常その2
コンコンコンッ
「は〜い」
『俺だ、開けてくれ』
「え〜、鍵は開いてるわよ〜」
俺は今、両手が塞がっている。足で扉をノックすると、返事がして扉が開いた
『よう、もう夕飯は食べたか?』
「まだだけど、どうしたの?」
開いた扉から建物に入り、両手に持った器をテーブルに置いた
『まずは飯でも食いながら話そうぜ、スージー』
「マス、あなたはそうやって突然来るのだから!昼のパンの件だってそうよ」
俺が椅子に座ると、スージーも反対側に座った
「これ…チキンバードじゃない、こんな高い物をどうしたの!?」
『色々あってな』
「あなた、もしかして…」
テーブルに置いた器の中身に驚いたスージーは、俺が悪さをしたのかと誤解していた
『いやいや、真っ当なことをしているよ。ほら街のみんなのために南門を守ってるだろ?』
「そうだけど…」
『最近来た冒険者に気に入られてな、羽振りがいい人でさっきもお使い頼まれたんだ』
先程ここに来る前に買った、革の袋を見せるとスージーはとりあえず納得していた
「でもチキンバードか…食べるのは5年ぶりかな」
『あ、そうか、すまない気が利かなくて』
「ううん、いいの、マス、あなたとなら…」
俺とスージーは目の前の器の中身を見ながら、昔を思い出した
(そうか、もう5年か…)
俺が冒険者を諦め故郷の街に戻ると、子供の頃からの結婚を約束した幼馴染には、もう別の相手がいた。元々は俺が街を出たせいで、生きているかどうかさえわからないのだから、そういうことにもなるだろう
(その話を聞いた時は驚いたけど、俺が悪いから仕方ないんだ)
俺はスージーの幸せを願い、街のために南門を守り続けた。それから5年経ち、2人の結婚の集まりで食べたのがこのチキンバードだった
(だけど…)
1年ほど前に、スージーの旦那は亡くなった。俺と同じ街を守る兵士の1人で、酒に酔って暴れた冒険者に刺されたのだ
(良い奴だったんだけどなぁ)
俺とスージーに気を使える男だったし、スージーもその優しさに惚れていた。だがそれも、あの日に失った
「ご馳走様、美味しかったよ」
『ああ、美味かったな』
2人で手を合わせて祈った、スージーは涙を流していた
「それでどうしたの?」
『ああ、昼のパンの件どうなってる?』
スージーの家は昔からパンを扱っている。だから今回の件は悩んだが、スージーに相談することにした
「ん〜、これ見てくれる?」
スージーが隣の部屋に行き、何かを持ってきた。それをテーブルの上に置くと、俺が九十九から預かったものだとわかった
『真っ黒だな』
「そう、でもね」
穂先を見ると、ほんのわずかでも変化のない完全な黒だった。だがその殻みたいなのを取ると、中身は逆に黒みなどない真っ白な実が出てくる。それをスージーが目の前で、潰して砕いた
『なんだこれ』
砕かれた実が粉状になり山を作る。まるで砕かれるまでは、中身が圧縮されていたかのようだった
「こんなの今まで見たことがない、どこで手に入れたの?」
『あ〜、どうだろうな』
大切な幼馴染には嘘はつきたくはないが、世話になっている手前本当のことも言えなかった
「例の冒険者?」
『あ〜、まぁ…そうだな』
なんと説明すればいいかわからず、言葉にしづらかった。そもそもどうやって手に入れたかは、俺でもわからない
(魔物の森に関係はするんだろうけどなぁ)
スージーのことは信用しているが、どこから漏れるかわからない。だから悩んだあげくギルドや、他のパンを扱うところには持っていかなかった
『とりあえず、やってみてくれないか?』
「わかったわよ、出来たら持っていくわ」
『すまない』
俺は席を立ち出口へと向かった、後ろからスージーが追いかけてきて抱きしめてきた
「ねえ、帰るの?」
『泊まるわけにはいかないだろ』
「でも…」
後ろから抱きついたスージーが、俺の手を握ってきた
『まだあの件は終わってないんだ』
「…わかった、危ないことはしないでよね」
『ああ、わかっているよ』
スージーは俺から離れて笑顔を見せた
「また、来てね」
『ああ、パンを頼むぞ』
そして俺はスージーの家を出た。結局スージーは前の旦那との間に、子供には恵まれず1人で住んでいる
(寂しいだろうけど、あの件が決着つくまではな)
スージーの旦那を殺した冒険者は、南門から逃げて魔物の森へ入った。俺はいつかそいつを捕まえようと、ずっと南門で待ち続けている




