第70話 安息地な妹だけど、どうしよう……
「誠一さん、しばらくギュッとしていてください」
私は呼吸を落ち着けるために、そう願い出た。
相鉄の駅前だという事もあり、人の視線がある。
それでもだ。
我儘だとは思うが、
「判った」
そう許してくれる。
彼の優しさと熱、そして匂いを感じると少しづつ、私は落ち着いてくる。
「ありがとうございます。
少し、楽になりました」
離れながら私はそう言葉を吐いたことで、初めて私自身が無理をしていたことに気付く。
「燦、家へ行こうか。
ゆっくり今日の事を吐き出そう」
っと、誠一さんから手を繋いでくれる。
あ、嬉しい、っと思うと同時に、気持ちがあふれ出そうとする。
でも、エロい感じではない。
純粋に心が温まる感じで落ち着き、安定している。
「……はい♡
……あれ、姉ぇは?」
恐らく私を観てくれていたであろうが姿が無い。
「旧友に用事が出来たらしい」
「あ、さっきのギャルの……」
「そういうことだ。
ちゃんと帰って来いって言ってあるから大丈夫だ」
確かに今の姉ぇが外泊する理由はないし、勝手知ったる京都市内だ。
問題ないだろう。
「ちょっと寄り道させてくれ」
っと、帰り道の途中、誠一さんが人参と牛肉などを購入していた。
姉ぇに頼まれたのだろう。
「先に風呂にでも入って、ゆっくり頭と体を休めといてくれ。
あ、今日、掃除してないから軽くお湯で流してから湯を張ってくれ」
と言われたので、慣れた手順でお風呂を準備する。
流石にこれぐらいは出来る。
誠一さんを誘ってみるかとも考えたが、辞めておく。
助けて貰った姉ぇに不義理すぎるし、なによりキッチンで何やらやっている真剣な眼差しの誠一さんを邪魔したくなかったのだ。
「……はぁ……」
溜息とともにお湯の温かみが染みてくる。
体が強張ってるなという感じが気持ちよくほぐれていく。
お風呂は命の洗濯だと、好きな作家先生が言っていたことが実感出来る。
「誠一さん、お先でした……くんくん」
お風呂から出ると食欲をそそられるスパイシーな香りに釣られながら食卓へ。
私があがるのを観るやいなや、用意される金曜日のご馳走、カレーライスだ。
「ぇっと、誠一さんが作ったんですか?」
「あぁ……初音にも教わってな?
初音のように美味しくないし、煮込みも浅いが、勘弁してくれ」
座り、一口。
口の中に広がるオーソドックスなルーの味、林檎とハチミツのモノだろう。
「……美味しいです」
「世辞は要らないぞ?
大分、習う際、初音には迷惑かけた」
ちゃんと野菜の皮も剥かれているし、肉は一旦焼き目を付けてから煮込んでいる。
確かに具材が不揃いで大きいモノの、
「これはこれで、男の料理って感じがして、姉ぇとは違う方向で美味しいです」
「褒められてる気がしないが……」
と言いつつ、誠一さんが嬉しそうに微笑んでくれる。
「僕も食べるとしよう」
そして二人で囲む食卓。
何というかムリに会話をする必要は無いと、黙々と食べる。
ただ、居心地が悪いかと言うとそうではなく、
「おかわりもあるぞ」
「お願いします」
っと自然な会話が成り立つぐらいに居心地がいいのだ。
気楽だ。
先ほどの合コンを今の状況と比べると、気を張り詰めていたことが良く判る。
「お茶だ」
「ありがとうございます」
二人でリビングのソファーに移り、食後の余韻を楽しみの締めくくりを出してくれる。
渋く、熱く淹れられた緑色の液体が、脳内を覚醒させてくれる。
「さて、カウセリングの時間だ」
L字型、しどーさんが私の左に座り、眼鏡の奥で目元が真面目になる。
「今日の事を振り返ることで、大丈夫になったことを自覚し、自分を認めていく効果がある。
さぁ、今日の事を話してみてくれ」
頷く。
「先ずは……」
続けて、話していく。
ちゃんと男性と話せたこと。
好意を向けられることが悪くなかったこと。
好意が無い男性とも普通の会話は楽しめたこと。
カラオケ自体が楽しい時間を過ごせたこと。
……そして最後に姉ぇの知り合いに会い、皆から疎外感を感じた目線のこと。
「大体は楽しかったようで何よりだ」
「はい……で、誠一さん何で不機嫌そうなんですか……?」
口調の感じが尖っていたので、そう聞いてしまう。
「……何でもない」
誤魔化された気がする。
ヤキモチかなと思うが、さすがに自分の意識が高すぎる。
「ただ、……姉ぇの知り合いの件で皆の距離が……」
「それは勘違いだったし、燦自身が原因じゃない。
責任を感じる必要はない」
キッパリと断じてくれるので、気を楽にしてくれる。
同時に、沸き上がるような心の衝動を覚え、
「……やっぱり、私、誠一さんが好きです。
最後の件、誠一さんならどうするだろうかと考えましたし、誠一さんを浮かべたら早く会いたくなって……はい」
「そうか」
誠一さんが嬉しそうにしてくれるので、私も嬉しくなる。
「慣れないこともあったがよく出来た、偉いぞ?」
「えへへ。
……我が儘言っていいですか?」
「いいが、エッチなことは今日はしないぞ?
僕も初音も寝不足だ」
っと、言いつつ、彼は大あくびを一つ。
そんな様子にクスリと笑みが浮かんでしまう。
私のために苦労を掛けたのだろうことは、想像出来た。
「頭撫でて欲しいんです。
ちゃんと出来たご褒美に」
っと、言いながら私は誠一さんの横に座る。
「ダメですか?」
「ダメじゃないさ」
「わふっ」
上目遣いで誠一さんを覗き込むと、その頭にポンっと手を乗せてくれる。
そして優しい手つきで、私の長い髪を漉いてくれる。
ビクンと電気が走る様なむず痒い感覚が走るが、今日は性欲に結び付かない。
それだけで満たされている感じが有るのだ。
「ちゃんとして偉いぞ?
いい子だ……こうしてると燦はやっぱり犬っぽいよな……。
こう甘やかしたくなる」
そう以前と同じ感想を言いながら、膝枕をしてくれる誠一さん。
がっしりと少し固めだが、身を委ねたくなる。
「……何と言うか、犬の扱いなれてませんか?」
「昔、飼ってたんだ。
大分前に死んじゃったんだけどな」
「なら、私が代わりになりましょうか?」
誠一さんが眼を丸くして観てくるので、悪のりして、
「わんわん♪」
「からかうな、全く……」
と笑いながら、デコピンをしてくれる。
「とはいえ、燦が他の人に好意を向けられたりするのを観ると、良いことの筈なのに受け入れられない自分が居る。
困った。
こうして居ると安心する僕がいることも否定出来ない。
来週からは午前授業だし、気楽に家によるといい」
「……えへへ」
いつもの私、少なくともずる賢い女の私ならチャンスとばかりに誠一さんへアピールしていたかも知れない。
それこそ、牝犬アピールをしていただろう。
けれども私は頭上の誠一さんを観て、
「誠一さん、好きです」
そう何度目かになる告白だけをし、顔を背けてしまう。
今の時間を壊したくないと考えたのもある。
それに私自身、好意を向けられただけで嬉しくなれたのだ。
今はこれだけで良い。
「嬉しいな」
この言葉と優しく頭を撫でてくれる手つき。
安全だと安心しきった私は眠気が来て意識が落ちた。
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