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第30話 井戸の下の魔物



「ちょっと、早く降りてくださいよ!」


「悪い、下見えないって、ぶふぉっ……」


 井戸の下に伸びるロープを伝って降りていく俺、先頭を切ったがいいものの下が見えずにうじうじしていたら、ユフィーの尻が眼前に迫っていた。


「やだ、教祖様ったらくすぐったいっ。きゃっ、話しちゃだめっ」


 ユフィーが動くたびに、彼女のバニー服についたウサギのしっぽが鼻に擦れる。その上、体重がかかって……


——落ちるっ!

 

「うわっ」

「きゃぁっ」

「くっ!」

「風遁の術!」

 

 俺たちが井戸の下の湖に落ちる前に、シズカが唱えた術で風に舞った俺たちはなんとか地面に着地した。


「わぁ……まさか井戸の中がダンジョンになっていただなんて」


 ジョハンナがそう言いながら近くにいたスライムに切り掛かる。一見普通のスライムだが、なんとジョハンナの斬撃を受け止めて反撃。


「危ない!」


 俺が咄嗟に防御魔法で粘液が彼女にかかる前に阻止できた。


「なんだこいつ、強いぞ」


「ええい!」


 シズカの投げた毒手裏剣でどろりと溶けたスライムは絶命したが、その直後ダンジョンの奥から「ぶおぉぉおおぉん」と大きな咆哮。ゴロゴロと地面が揺れるほど大きな足音。


「くるぞ!」


 ダンジョンの奥から土煙と共に姿を現したのは大きくねじれた2本ツノ、見た目は大きな牛だが筋骨隆々。蹄をかき鳴らし俺たちを威嚇する。

 ゲーム画面で見ると大したことないモンスターだが、実際に目の前にすると迫力がやばいな……。


「バフバッファロー?! このモンスターは人を襲うような性格じゃないはず」


「そうなのか?」


 ゲーム上では、中盤のダンジョン内でエンカウントするモンスター。こいつ自身は強くはないが、他のモンスターと一緒になって出てくるとすごくやっかいなのだ。

 なぜなら、その名の通り「バフ」をかけるからだ。


「バフバッファローは人間を襲った事例はほとんどありません。それどころか、彼の唱える魔法で助けられた……なんていう例も。そうか、この辺の魔物が強かったのは彼がバフ魔法を振り撒いていたから……? けれど、どうして」


 ジョハンナと話が本当だとすれば、この井戸の水が「命の源」だというのはこのバフバッファローのおかげだったのかもしれない。


「ピカの見た赤い髪の男が何かしたのかもしれないな、例えば……こいつが怒りくるような……」


 牛が暴れること……闘牛? 闘牛といえば、温厚な牛をわざと怒らせるために背中に細い剣を突き刺しておくんだっけ。

 中学生の時にグロい映像を見るのが好きで見ていたけど、心がすごく痛んだのを思い出す。


「見てください! バフバッファローの背中に何か刺さっています!」


 ユフィーが指差した。と同時にその甲高い声に反応したバフバッファローが俺たちに突撃してくる。


「よけろ!」


 と俺たちは左右に飛んでなんとか突撃攻撃を避け、バフバッファローはダンジョンの壁にめり込んだツノをゴリゴリと揺らす。


「彼を沈めることができれば……でもあんなのどうしたら」


 ジョハンナが剣を構える。一番手っ取り早いのはあいつを俺が討伐することだろう。けれど、そうしてしまえば、この井戸の水の不思議な力は消え村の人たちが元通りの生活をすることは難しくなる。


 となれば、こうするしかない。


「ユフィー、ローブを貸してくれ」


 ユフィーがバニースーツの上に纏っていた白いローブを受け取ると俺はひらりと揺らす。闘牛士のようにヒラヒラと。布の色が白いので若干違和感はあるが、怒ったバフバッファローはぎらりと目を光らせて俺に狙いを定めた。


「シズカ! 次の一撃で背中に飛び乗って刺さったもんを抜いてくれ!」


「御意!」


「ユフィー! 傷口に回復魔法を!」


「わかりました!」


「ジョハンナ! 2人の周りにいるスライムを倒してくれ!」


「はいっ!」


 バフバッファローが、俺に向かって突撃を繰り出すと俺はひらっとそれをかわす。奴の大きなツノがダンジョンの壁に突き刺さると、その拍子に身軽なシズカが背中に飛び乗って、突き刺さった何かを引き抜いた。

 すると、バフバッファローは大きな叫び声と共に悶絶するように転がる。血が噴き出し、もがくように蹄を動かし


 俺は睡眠魔法をかけ、同時にユフィーが回復魔法を唱える。その間もジョハンナが強化されたスライムを倒し続ける。

 

「ユフィーいけるか」


「あと少しです!」


 みるみるうちにバフバッファローの傷が塞がり、そのうち寝息も穏やかになっていった。バフバッファローが眠ってしまうと、近くにいたスライムたちのバフも解け大人しくなった。


「見てください。こんなものが突き刺さっていました」


 シズカが拾い上げたのはイバラで作られた剣だった。攻撃力は少ないものの確実に痛みと苦しみを与えるものだ。こんな装備でバフバッファローを殺すことはできないが苦痛を与えて怒らせる目的に関していえば可能だろう。


 まさに、闘牛と同じ。


「この石だらけのダンジョンにイバラは存在しません。つまり、ピカの言っていたことが正しかったわけですね。赤い髪の男がバフバッファローを怒らせ魔物たちに強化魔法をかけさせ続けていた」


 ジョハンナはイバラの剣をシズカから受け取ると真剣な表情で「保安局に報告しなくては」と言った。


「でも、ピカちゃんが言っていた井戸からの光というのは?」


 ユフィーが俺からローブを受け取って羽織ると不思議そうに首を傾げる。


「おそらく、こいつの背中にそれを突き刺すために目眩しの魔法でも使ったんだろう。たとえば、すごく強い光の魔法だ。暗いところに生息するモンスターはそれで目をくらませられるんだよ」


「さすがは教祖様。モンスターも倒してしまうなんてやっぱりすごいです! けど領民探しは失敗ですねぇ……」


「まぁ、無理に住む場所を変えさせるのはよくないよ。俺たちの目的は慈善活動だ。これが1番の結果だろうし」


「ダヴィド様、赤い髪の男の件ですが保安局で調べを進めます。この村周辺の安全が確認できるまでしばらく村人たちを領地にて預かっていただいても……?」


「あぁ、構わないよ。それに村の修復もあるだろうし」


「ありがとうございます。では、戻りましょうか」


 すやすやと眠るバフバッファローを起こさないようにそっと井戸のロープを登ると、俺たちは通常通りの強さに戻ったモンスターを倒しつつ、城へと向かうのだった。







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