89話
誰もいない控室、
一人気ままに、寂しいな。
僕も一緒に観戦行けば良かったかも。
「……いや、レリアはまた実況やってるのかな。もしかしたらレコウも? どうだろ、」
レコウに解説できるのかな、まあその場合は逆にすればいいだけか。
まあどっちにしろそれじゃあ、一人余っちゃうし、しょうがないか。
……三人の場合ってどうするんだろ。実況と解説と、応援?
今頃やってるのは王子様、主催者側のエウスの試合。応援するのは、うーん、僕は一応相手選手だしなぁ、
というか全員選手だ、じゃあ応援もおかしいや、実況と解説と敵だ、敵と敵と敵だ、訳わからん。
「うー、頭がぐるぐるする、流石に無理しすぎた、」
ぐったりと、良くも悪くもない控え室で倒れ込む。
まあ僕にとっては普通に最上な環境だな、汚くないし、比較的。
あーあ、余計なことを考えてしまう、まるで寝る前の夢うつつ。僕には馴染みのない感覚。
「じゃあなんで知ってるんだろ、うぐー……、」
頭を抱えて倒れ込む、二日酔い、この感覚は、
いやまあ覚えはあるか、薬大量に使われた翌日とか。お酒も別に、割と飲まされたこともあったっけ。
最近は自分で分解できてたから特にだったけど。
「……はぁ、疲れた。いくら疲労物質除いても、流石に脳の疲労までは誤魔化せない……、」
ことも、別に、脳まで空間魔法で弄ればいいんだけど。
でもそれやると、本格的に生物から外れちゃうからなー、
ずっと空間魔法使えるなら問題ないけど、いつ使えなくなるか使えるのかわからないし、記憶も残るかどうか。
「五分五分ってところかな、うーー、」
そんな訳で一人寂しい控え室。
こんな姿をレコウに見せるわけにもいかないからね、レリアにも、
だから黙って隠れた控え室、自業自得だ。使い方違うか?
「決勝戦までにはなんとか、動けるようにはなるかしら。なんてね、」
まああの人は演劇大好き、どうせ今も無駄に演出重ねて時間稼いでるだろうし大丈夫か、
勇者になるとか言ってたし、言ってたっけ、だから相対する相手も強くなきゃ格好つかないもね。僕もある意味同じ思考だ、だから魔王とやらには頑張って、
と、話が逸れたな。
「……ん? そう考えると決勝はとびきり強い相手と戦わないとダメだな、」
例えば最強のドラゴンちゃんとか、いやまあそっちだと本当に勝てないだろうけど。
そんな相手をルールの穴ついて、狡賢く勝ち進んだ小柄な雑魚じゃ、勇者伝説の始まりとして盛り上がらないんじゃ、
「…………あー、って、だれが小柄でひんにゅーだーーー」
しまった、その気は無いのに計画を潰してしまった。
いやまあどっちにしろ負けるつもりはなかったし、潰すつもりではあったからかわりはないんだけど。詰んでいたのだ、はじめからー?
うーん、しかしここで僕が勝ったら勇者どころか今後のサーカス運営にも影響が出るのでは?
……しょうがない、多少は付き合って、
「……うぐっ、頭痛い。そんな余裕もないかも、」
あ、無理だこれ、というかこんな状態で相手に魔法使ったらやっちゃうかも。グニっと。
…………うん、最悪あとで謝っておこ、
はーー、決勝始まっちゃうよー、どうしよ。
「セシィちゃーん?」
「……ん、次の試合?」
控え室、静かな足音育ちの良さを感じるな。
入ってきたレリアに、いつも通りに返事をする。
「あら、セシィ?」
「どうしたの?」
「……いえ、準備は万端みたいね?」
そりゃね、多少疲れたけれど、まあこの程度不調のうちにも入らないよ。
ちょっと久しぶりだったからダラけてただけだ、取り立てて騒ぐほどのものでもない。
手馴れたものだ、むしろ調子いいくらいだね。
「……そう、よねぇ、?」
「ほら、もう次の試合始まっちゃうんでしょ、早く行かなきゃ、」
「ええ。いえ、まだ最後の試合ですから、準備に時間がかかっているけれど、」
そうなの、そりゃ残念、こんなにも元気が有り余ってるのに、まあいいや。
「……先に、三位決定戦でもやった方がいいかしら、」
「そんなの予定にあったの?」
「いえ、あってもいいと思ったのよ」
何それ、時間余ってるならわかるけど、急に入れたら進行崩れちゃうよ?
ただでさえ誰かさんが試合時間を引き伸ばしたんだから、うん花火で尺稼いじゃってほんとすいませんでした。
それに三位決定戦ってことは、知らないけど今負けた誰かさんはそのあとさらに強いドラゴンちゃんと連戦って事でしょ?
流石に可哀想だと思うけど、
「誰かさんって、いえその理屈で言うなら決勝戦が連戦の方が悪いんじゃないかしら、」
「……まあ確かに、」
ちょっと僕がズルになっちゃうな、しょうがない。
「とはいえどっちにしろ、エウスのやつに聞かなきゃダメかしら、」
「そだねー、」
どんぐらい疲れてるかは知らないけど、休憩できるならするのかな、主催者。
……ん? いやそう聞くと主催者権限で強引に休憩時間捩じ込んだみたいで狡いかもな。うーむ難しい。
というか主催者側が出て来るせいでややこしくなってるんだな全く。
「アレもこっ酷くやられたみたいだし、もしかしたら私がレコウちゃんと特別対戦でもして、時間稼がなきゃ駄目かしら、」
「え、相手の人、そんなに悪いの?」
「いえ、そこまで疲れた様子は、。まあ、わからないけれど、」
ふーん、エウスの演技に付き合わされて?
それはご愁傷様、かな??
「演技、ねぇ。どうなのかしら。少なくとも私には、本気に見えたけど、」
「へー、そこまでねぇ。どんな感じの人だったの? また死亡フラグ族??」
「死亡、ふらぐぞく?」
「ああいやなんか、大会に勝ったら結婚とか求婚とかしそうな人のこと、」
今日の大会参加者は、一応朝に全員見たはずだけど、誰だったんだろ。
何人か欠けてたけどね、まあそれは僕とレリアとエウスと、主催者側ばっかだ、僕は違うけど。……ん、いやレリアは隠してただけで、最初からいたのかな?
「あー、確かに、なんかそんな事を書かれていた気がするわ、」
「へー、それでよくここまで勝ち残れたね、」
「そうねぇ。なんか、心に秘めたお姫様がいるとかなんとか?」
疑問系? まあ別にどうでもいいからか、
「でもどうせそれも全部エウスが書いた演出でしょうから、本当のところはわからないけれどね、」
「いや勝手にそれ捏造するのはどうなん、——っと、なんでもないよ、」
「…………捏造じゃないですしぃ、」
いや少なくとも僕のところは捏造、かはまあ、少なくとも誇張は入ってたでしょレコウのも。
……まー今更、お祭りが盛り上がったなら良いけどさー、
「それで? 三位決定戦、できそうなの?」
「どうかしら。まあアレなら、ボクはだいじょぶさーって言いそうだけれど」
うん、そっちは別にいいけどさ、むしろ聞かずに勝手にやった方が選手としてズルくないし、
いやその場合、今度はレリアの身内の僕の方が悪いことしてる感じになるけど。いや僕はもう休憩必要ないし。
「それより、相手の方は大丈夫なの?」
「ええ? まあ、文句は言わないんじゃないかしら、特に悪い事は無いはずでしょうし、」
「え、そうなん? 勝手にやって、」
「まあ勝手にはそうだけれども、運営としては自然ですし?」
そのノリで、ドラゴンに喰われるのか。
可哀想に、喰わらばばらばらなむー?
「それじゃあ、取り敢えずエウスの方に聞いてこようかしら、」
「あ、結局伝えに行くんだ、」
「伝えないでどうやってやるのよ、」
ま、そりゃそうか。
大会主催者様だしね、いくらなんでも勝手に試合増やすのはまずいよね、
「それに選手に言わなきゃ、どうしようもないでしょう?」
「選手になったせいで、めんどくさい事になったんだけどね、」
「本当よ、だから精々、疲れてもらいましょう」
いやいや、そうさせないために言いに行くんでしょ?
これ以上やったら、僕が八百長してるみたいに、あんまり否定できない。
うーんしょうがない、それじゃあせめて僕もついて行って、少しでも不公平無くすとするか、
「え? いえ、そう、」
「それで、結局相手はどうするの?」
「ええ? まあ、順当にレコウちゃんに出でもらうけれど、」
「え、いやそっちじゃなくて、その哀れな犠牲者は、大丈夫なの?」
「犠牲者って、んんぅ?」
…………ん?
死亡フラグ族の誰かだよね、そっちも呼びに行かないと、
結局どんな外見してんの? 効率的に、僕が呼びに行っても、
「そうねぇ、全身甲冑で中身は見えなかったけれど……って、もしかして、」
「あー、顔わかんないか、どうしよ? 名前は、」
「セシィちゃん。もしかして、さっきの試合見てないの?」
え、うん。
……あー、いや別に興味がなかっただけで、僕に何か問題があったわけではないけどね、
それにどうせほら、結果はわかりきってたし。
ただでさえズルい大会主催者に、相手は死亡フラグ族でしょ? ……まあそれは今知ったけど、。
そんなの、見なくたって、
「その死亡族というのはよくわからないけれど、まあ愛に生きる人達ってことかしら?」
「そうとも、まあ、この状況に限っては?」
他にも無駄に自信過剰で相手を舐めてかかったり、卑怯な手をやたら使ってくるやつもそうだよ。
…………ん、これ僕にも当てはまる?
「ならまあ、強いのも頷けるのかしらねぇ、」
「……え、いやー、僕は別に、。ん?」
えっと、つまり僕が死亡フラグの使い手で、勝ったのは死亡フラグで、つまり死亡フラグは強くて、んんん??
なんか、話が、
「さっきの試合、勝ったのはそのよくわからない種族の方よ、」
……………………、
……………………?
……………………??
……………………えマジで???
「……ふぅ、いったた。全く、容赦なくやってくれたねぇ、」
————————。
「ははは、別に文句を言いたい訳じゃ無いさ。うん、魅せてもらったよ、君の王子様は、」
——————、
「おや、それはお気に召さないかい? じゃあ何がいいのかなプリンセス?」
————勇者様。
「…………ふふ、ははははっ! そうだったねぇ。勇者、うん。——それじゃあ、演じようじゃないか。新たな主役の、誕生劇を、」




