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情報過多の荷物持ちさん、追放される  作者: エム・エタール⁂
荷物持ちさん、追放される(プロローグ)
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9話


「無事着きましたな。いやー、勇者様に護衛していただいたなんて、我が商会にも箔がつくというものですな」

「いや、そんな。俺なんて、まだまだ大したことは、」

「ほっほっほっ、そうですな。ではもっと素晴らしい活躍をしていただくために、是非ともうちの商会のご利用を、」

「…………ぁい、いつか、」


 ……………………誰か使うかこのクソが。




 俺様達は、わざわざうぜえ商会の護衛を引き受けて、隣の町まで来てやった、


「…………がーっ! 肩凝る!? 何で俺様があんな奴にヘコヘコしなきゃ何ねえんだよ!?」

「ちょっと、勇者さま、聞こえてしまいますよ?」

「うるせぇ、じゃあお前が相手してくれれば良かっただろ」

「いえ、わたしは。……教会のものが、一つの商会に肩入れするわけにはいかないので、」


 …………絶対面倒臭いだけだな、このおっぱい緑め。


「くそっ、そもそもこんなめんどくせえのは、全部あいつの仕事だったのに、」

「なによ勇者、まさかあれを追い出したこと、後悔してるんじゃないでしょうね!?」

「いやちげーけどよ。そもそも、お前が俺様の寝具をきちんと取り出せてたなら、こんなのに関わらずに済んだのに、」

「あたしが悪いっていうの!? それはあれが適当にものを詰め込んだせいよ! 全部あのチビキモ野郎が悪いのよ!!」


 だとしても、自分で入れたはずの香水すら取り出せないって騒いでただろ、このおませ赤娘ちゃん。

 

「だがまあ、この鞄が毎日うめえ飯を自動で出してくれる秘宝だったとは儲けもんだ。ギルドと紋章が違うって時は何だと思ったが、なるほどギルドも元は国の紋章。その国の秘宝なら似たようなもんになるか。外装も、よく見れば何か見慣れた感じがするしな」

「だか勇者殿よ、父上……、大臣が言うには、それはあのダンジョンの秘宝ではないらいが」

「あ? 知らねーよ、あんな旅の餞別がわりにゴミクズ押し付けてきた奴なんてよ!」

「その、そいつだが。……いなくなったって言ったら、ものすごく怒っていたな。やはり、父上から貰ったものを安易に捨てるべきでは無かったのでは」

「お前も賛成してただろうがよ!? くそ、何なんだ、あんなゴミを押し付けられて怒りたいのはこっちだってのに。ムカつくからさっさっと出て行ってやったぜ」

「それも、やはり不味かったのでは」


 うぐぐ、そもそも、お前を連れてくかわりにってよこされたんだぞ、この口だけ軟弱剣士。戦闘中、ちょっと腕が当たっただけで騒ぎやがって、この黄娘が。


「あー、むしゃくしゃするな!? もういい! さっさと宿に行くぞ!!」


 くそ、夜に着いたからか、殆ど人がいやがらねえ。

 何か走ってく変な男がいるし、あー、誰かいねえのか?


「……お?」


 暗くてよく見えねえが、女が二人?


 あれくらいをガキ扱いすると、うるせえ赤がいるしな、まあ女扱いでいいだろ。

 んで、結構いい服着てやがる? 貴族か? めんどくせえが、他に人もいねーし、


 …………ちょ、やば、こっちくるのじゃ、はやく逃げるのじゃ、

 …………アレレレレレレレレレレ???????


 ……よく聞こえねえが、何か、揉めてやがるのか?

 やっぱ、別のやつにした方が、って、こっち見てんな。

 ちっ、もうしょうがねえか、


「あー、すまんがお嬢さん達。宿屋はどこにあるか知らねーですか?」


 なんか、蛇みてーな目をした紅い奴と、真っ黒な目をした暗い奴だ。


 紅いほうは、光の錯覚か? 何度見ても人間の目に見えねえ。

 それに比べたら、暗い方は陰湿なだけでまだマシだな。


「ッ、いや、その、なんじゃ、我は、旅人じゃから!? そのじゃな?!」

「我? じゃ? ……あー、そっちのお嬢さんは、知ってないか」


 いや、初対面で陰湿は流石にひでえか。よく見りゃ綺麗な眼に、顔だし、何で陰湿だなんて思ったんだ?


 ……それにしてもこっちの蛇女、すげえ変な喋り方するな、


「ちょっ、まっ、我に!」

「そっちのっ、青髪のっ、綺麗なお嬢さん! 宿屋は知りませんか!?」


 とりあえず、俺様としてはもうこの蛇女とは関わりたくないし、こっちのまともそうな女にだけ、話しかけさせてもらおう、


「……ん、あれ、バレてない、のじゃ?」

「はい、宿屋ですね。すぐこちらです、案内しましょう」

「うおっ、セシィ!? 治ったのか!?」


 セシィ? 聞き覚えのない名だ、


「ああ、助かる。感謝するぜ、……あー、セシィ?」


 だが、何故か知らねえが、悪くねえな。

 特別に俺様が、覚えておいてやっても、


「はピっ、宿屋はこっちですピーーーーーッ

「うおぅ! セシィが限界を超えて、オーバーヒートを起こしたぞ!?」

「ピー、ピピッピ、ピー、ピピ」

「なのに案内は続けておる、何て不屈の精神なんじゃ!?」


 こっちの女も、変な奴だった。

 結局どっちも忘れられそうにねえ、はぁ、今日は厄日だ。




 ピーピピッピ、ピーッ、


「落ち着けセシィ! もうあの男は行ったぞ」

「ピッ、ピッピ、ピプピ、ピッピッピピ」

「おお! 何を言ってるかわかりそうで、全然わからんぞ。正気に戻るのじゃ!?


ピッピ? ピピ、ピッピピプピ。ピピピ、ピピピッピ、ピッピピ、ピピピピ(正気? 何、言ってるんだ。僕は、いつだって正気 なのに)


「ピーーーッ、」

「もう、こうなったらっ。すまんセシィ、許せ!!」

「ピ、ピギュウ!?!?!?」


 斜め四十五度、これは遺伝子に刻まれた心理なのか。

 頭の上に手をかざされて、咄嗟に庇うなんて馬鹿な真似はしないようにしてたけど、この感触は久しぶりだ。


 久しぶりなのに、初めてだ、

 こんな感触をくれるのは……。


「……あれ、誰だっけ?」


 頭がスッキリする、空っぽだ。

 僕から痛みを除いたら、何も残らない。


「セシィ!? やりすぎてしまったのじゃ

!?!?」

「セシィ? 僕の名前は違いますよ?」

「ゔぇ!?」


 声が聞こえる、反射で返す。

 笑顔だ、そして丁寧に、少しだけ卑屈に、

 相手に合わせて調合を変えるのも欠かさない。


 玉虫色で、銀色で、透明で、僕の色なんて存在しない。

 とても便利、だって何のしがらみも選択も無いこの色が、僕そのものだから。


「僕の名前は、」

「もうダメじゃー……、」


 僕の名前は、


 そんなものない、モノに一々名前なんてつけないだろう、


 僕の名前は、


 アレンが呼んでくれた、嬉しかった、


 僕の名前は、


 奴隷って意味で、何度もアレンが呼んだ、可愛くはないけどお似合いで、


 僕の名前は、


 あの子が付けた、似合わないほど可愛い愛称で、


 僕の名前は、


 あの子とアレンが呼んでくれた、


 僕の、


 ……いや、そんなどうでもいいことより、


 あの子、あの子、


 知らない感触をくれたあの子、


 あの子の名前は……、




「……レコウ?」

「違うのじゃーー!?!?」

「あっ、僕の名前はセシィだよ、大丈夫だよレコウ!!」


 何で、忘れてたんだろう。

 こんなに大事なことなの。


 やっぱり僕は、とっくに壊れたゴミクズなんだろう、


 でも、今は、


「うえ〜〜んっ、良かったのじゃ〜〜」

「あはは、大袈裟過ぎるよ」


 流石に、そんなことを言い出すほど、最低にはなりたくないな。


 せめて、無価値でも、これ以上害を出さないくらいは、目指すべきだよね。




「……それよりも僕、アレンにちゃんと案内できてた!? 失礼してなかった!?!? 変なことしてなかった!?!?!?」

「おう、あの状態でも見事に案内できてたぞ、感服ものじゃ。失礼もしてなかったぞ、我が保証する」

「あ、まあ、少なくともレコウよりは失礼してないよね。ふーー、」

「……まあ、変なことはしまくってたがの」

「うぐぐぐぐ、」


 だって、しょうがないじゃないか、アレンにあんな真っ直ぐ名前を呼んでもらったことなんて、初めてなんだから。


「ほお、にしてもその前の、綺麗なお嬢さん、なんて言われたあたりで、よく限界にならなかったの。意外と、顔にはしっかり自信があるのかー?」

「え、僕、そんなこと言われピーーッ??」

「あっ、しまった、あの時まだ正気に戻ってなかったのかじゃ!? あー、また行ってしまったのじゃーー!?」


 アレンが、僕に、綺麗って?

 いや、服の話だな、だとしても嬉しい!! ありがとうレコウ!!!!


 ……ん、いや、でも、だとしたら同じような服着てるレコウは?


 レコウだけ何も言われてないのはおかしいし、いやそもそもレコウは言動がおかしか。だから僕の方にだけ?

 ならやっぱりただの社交辞令? お世辞? それでもいいけど、でも、もし万が一があるなら、


 いや、僕が、万が一なんて望んじゃいけなくて、

 いやでも、アレンが言ってることが間違ってるはずなくて、

 アレンのことを否定するわけにはいかないけど、僕のことを肯定するわけにも、

 あれ、でも、えっと、つまり、


 僕の内面はともかく、外面だけならなんとか? 服込みで? ワンチャン? ありり?


「キュピーーーッ」

「セシィー! セシィーーーッ!!」


 拝啓、多分顔か体がいいだけのお母さん、多分金か能力を持ってるだけのお父さん。あなたがたの血筋は、この一瞬のためにありがたく受け取りました、敬具。


 ご冥福なことを、お祈りしております。

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