77話
さてと、無事に初戦も終わったし、それじゃあ変装といてゆっくり観戦でもしようかな。友達と。
それとも、一緒に祭りの売り子をやるっていうのも、楽しそうかな。
少なくとも、僕はしたことない経験だよ。どんな気分になるのか、なんてね。
「さてさて、それじゃあプリンの売り子さんは、」
すいませーん、僕にも一つくださいなーっと。
お金ないけどね、あはは、
「た、大変じゃーーー!!」
お、あっちから来てくれた、手を振って可愛いな。
「や、お疲れ様、レコウ、」
「おうじゃセシィ。って、それより大変なんじゃ!!」
「うん。どうしたの?」
「無銭飲食じゃ!!」
え、かくほー?
またやったのドラゴンちゃん??
「プリン泥棒じゃ!!」
「えっ、僕はまだ食べてないよ?」
「なにがじゃ!?」
確かにお金持ってないけど、冗談なのにって、
うん? 泥棒?
「おー、いつの間に、」
「さっきじゃ、ごそっと持ってかれたらしいのじゃ!!」
ふーん、このつよつよドラゴンが守る黄色の財宝奪っていくなんて、とんだ命知らずがいたものだね。
僕が聞いて見てる限りは、試合中は普通に売ってたし、別の場所の在庫かな?
「おう! 別の売り場のとこじゃの、目の前で持ち去られたらしいのじゃ!」
「……それはもう、泥棒じゃなくて強盗では? ひったくりって感じでもないし、外見みてないの?」
「なんかとんできて、凄い速さで見えなかったって言ってたじゃ!」
「はえー、つっかえ、」
っと、変な言葉が出てしまうね。
それよりも泥棒か、まあ今日はもう試合なくて余裕あるし、早めに捕まえちゃお。
「どうするの? 目の前で見たやつすら使えないとすると、聞き込みしても意味ないし、地道に空間に聞いてくか、」
「あ、それは大丈夫じゃ、匂いが続いてるからの、」
持ち去られたプリンの?
それで追えるとか、いよいよ僕の耳より便利だな。
試合に出る時は消臭対策しといて良かったよ、というかもっと強くしないとダメかも。
「それじゃ、引き留めて悪かったね、早く行こ、」
「おうじゃ!」
……はやく、か。
せっかくだし、またおんぶしてもらおうかな、どれだけ機会あるかわかんないし、、
——なんて、人の目があるし走るか、今の僕はそこまで遅くないしね。
「お、なんじゃその靴?!」
「ローラー、剣は商品名だっけか、まあ原動機付きブーツだよ」
いろいろいじって、とりあえず速く滑れるようにしてみた。空間魔法、便利だね。
まあそのかわり、ちょっとこけると世界に穴が開く僕専用装備になっちゃったけど、後で説明書作っとこ。
「車輪の口径大きくして、上の方は空間の狭間に通して、ズレた空間同士のぶつかりで加速できるようにして、」
「お、おう。よくわからんが凄いんじゃな、」
まあ元の科学の力が凄かったんだよ。
……うん、電気アシストとか、ほんのちょっとくらいは原型残ってるし。
そ、それに元々空間魔法も物理に化学の知識使ってるからね! 立派な科学だよね!?
「スィーっと、」
「……楽しそうじゃの?」
「使ってみる?」
「うむ、」
「あ、一定以上の速度出すと別位相がメキメキ鳴ることあるけど、仕様だから気にしないでね」
「遠慮しておくじゃ。」
そう、まあうるさいしね。
この機能は渡す時には制限しとこ、覚えておいてよ?
あ、あえて消さずに解除コードとか入れとくのが良いんだよね、リミッター解除! みたいな。
そういうの、君は気に入ってくれるだろ? 限界を超えてオーバーヒートして、最後には壊れる感じとか。この場合は世界の方が、靴は保存しておいたから問題ないよ。
「スーッと、そうそうこんな感じ、普段は体重移動だけで結構速度でるよ、」
「誰に説明してるのじゃ?」
「ああごめんレコウ。それで、プリン泥棒はどっち?」
「あっちじゃ!」
さてと、今はそれどころじゃなかったね。
どこに向かってるんだろ、この先にあるのは、
何もない。あるのは一面の視界を遮る、
「かべ?」
「この向こうじゃ!」
「ああ、あっち側に逃げたのか、」
それじゃ、壁に車輪引っ掛けてスィースィーっと、
魔法で警報ついてるな、『まあ』切っとこ。
向こうにも監視カメラあったはずだけど、どうせ見てるのはこの靴くれたドラム缶だけだしいっか。
「おお! 凄いの! それはかがくー、それとも魔法か?」
「え、いや、体重移動、」
この程度、別にちょっと先尖った靴でもできるし、車輪ついてるなら余裕……。ん? 逆に難しいかな、そうでもないよ。
「……もう何も言うまいじゃ、」
「……なにさ、」
僕としては、音も無くふわっと壁を跳び越えてるドラゴンさんの方に突っ込みたいんだけど。
一っ跳びだったね、そのくせ地面の方にも余計な傷ついてないよ、魔法でも使ったかのようだね。
そんな子に変な視線向けられるいわれはありませんっと、
「サーッと、で、まだ先?」
「おう、その車輪で壁降りてくるのカッコいいの、」
「そっちこそ、なんであの高さから普通に着地してなんの問題もないの? カッコいいね、」
スーパーヒーロー着地、ですらないな、普通に両足で降りた。
スカートが汚れちゃうからね、スーパーヒロイン着地だ。ドレスがふわっとなった、カワイイねの方があってたかも。
しかし、本当にどうなってるだろ。いくらレコウが軽いとはいえ、あの高さから普通に落ちたら少しくらいは衝撃が聞こえるはずなのに、
「クンクン、強くなってきた、開封して食べる気じゃな!」
「いや、残った匂いの理屈としてそれはおかしくない?」
「む、そうじゃった!」
しかし、わざわざ壁越えしてまでプリン奪ってくなんて、どんだけ甘味に飢えてるやつなんだろ。
というか、こっちでも販売はしてたらしいよね、なんで今になって?
まさか、あのプリンに人を中毒症状にさせるほどの何かが!? 聖女様の商売、やりかねない、ごくり、
「それで言うなら、セシィが作ったやつの方がなんかヤバそうなの入ってたがの、」
「あのゲーミン、虹色プリン?」
「ま、我には見えんかったがなっと、こっちじゃ!」
確かに、なんであんな色にするんだろ。
何かの科学的な、中毒作用があるのかもねなんて、僕は何も感じないけど。
栄養になればみな一緒ってね、まあ僕の虹色は栄養満点の証なんだけど。
む、ということはあの色は高い栄養価の現れなのか! つまり、人類は虹色に高い栄養価の調和を見出していた!?
こ、これが科学、なんてことない事にすら重大な理由がある。ふふふ、ははは、なわけあるかーい。
「うぐぐ、薬でも飲んだかのようだ、まさに虹色の、」
「大丈夫かの?」
「うん。そろそろ僕の射程にも入るかな、流石に匂い分子の識別までは厳しいけど、」
整理すればいけるけど、そこまではいっか。
世界がゲーミング、意識が画面ごし、小さな事件はただのイベント。
おっと、空気の流れ、電子の導き、あっちかな?
「お、あそこじゃ!」
「うん。ただの民家だ、一体誰がいるんだろうねー、」
気づいたら、町の中心まで来ていた。
二つに割れた町の、その中心。つまり全体の四分の一くらいで、でも縦から見たら半分、いやこっちの軸が横? 面倒だな。
やっぱ一つの体に二つも意志を埋め込むもんじゃないよ、はやく一つになーれっと、、
いやこの場合は融合じゃ無くて片方の削除だもんね、違うか。
「うん。科学の町の真ん中にはとっても小さな塔があるんだねー、初めて見たやー、」
レコウと一緒には、。
まさか、こんな早くまたここに来ることになるとは。
「それよりプリン泥棒、かくほーじゃー!!」
「おーー、、」
ドアを開ける、
————ゴホッ、ガホッ‼︎
奥から機械のガシャガシャ音が聞こえる。
……うん。流石にこの距離だと僕にも甘い匂いがするよ。
え、マジで犯人が知人なんですけど、うわ気まず〜、
くもないな、なんかそういうことやりそうな奴だったし、むしろ納得感しかないね!?
「む、地下じゃ、神妙にーじゃー!!」
「あーー、お邪魔しまーすっと、」
————ッ、ダレッ、ゲホッ、ガッ、グ。
ドタドタ聞こえる、なんか可哀想になってきたよ。
空気の流れ、視線を逸らす、ああなんかプロペラのついた小さな機械が落ちてる。
ドローン、だっけ? あれで取ってったのかな、なかなか性能良さそうだ。
「追い詰めたぞドロボー……って、あれ?」
「うん。初めまし、いやまあいっか、」
そこにいたのはドラム缶。
空になったプリンの容器を転がして、慌ただしくゴロゴロしている。
「あっ、な、なんでっ——、。……いや、よくここが分かったな、」
表面上は冷静を保ちながら、こちらを見つめるレンズの目。
初対面扱いなのかな、随分と早く同じ場所で再開したけど、まあ別に僕はどっちでも良いや。
というか僕らが来てることくらい、カメラ見てわかってただろうに、
「——ケフッ、ふ、ふむ。聖国の大会参加者と、」
「……………………。」
「……その友人か。なんのようだ、こんな場所まで、」
目が合う、というか合わせる。
うん。言いたいことは伝わったね、取引は絶対話すなよ?
「こんな場所までじゃなーーい! 観念するのじゃ、プリンドロボーー!!」
……しかし、よくよく考えたら、そもそも相手がいなくなったら取引も何も無いんじゃ、
今この場でドラム缶のままドラゴンに大陸の海に沈められても、僕止められないよ。
東京湾がないだけ救いだね。しかしそんな埋める定位置があったらすぐバレちゃうんじゃ、いやあえて目立つ場所を用意してってことか、怖いねー。
まあ、怒った竜の一撃の方がよっぽど恐ろしいだろうけど。
「む、泥棒とは失敬な、ちゃんと金は払ったぞ、」
「ドロボーはみんなそういうー! ……じゃ?」
「ふむ?」
嘘は言ってない、かな?
落ちてるドローン、ああここに金属イオン残ってるか? それこそ嗅いだら硬貨の匂いするかも。
「払った、じゃなくて置いてきた、じゃない?」
「……む、まあ、そうとも、言えなくも、ないかもな、」
話ではなんかいっぱい持ち去られたって聞こえたけど、落ちてる容器は一つだけ。
なら普通に買っただけかな? 話がどっかで広がったか、まあどっちにしろ順番抜かしで、やってる事は普通に軽犯罪だと思うけど。
「……こんななりなのに、やけに人間臭いやつじゃのー。というか、どっから食ったんじゃ??」
「ね、良くいけたね? 無茶したでしょ、どんだけ食いしん坊なのさ、」
「…………いや、ただの、知的好奇心だ、っ、」
つるりとした表面の金属ボディを見る。
なんだか肌も見えないのに、照れて赤くなってる気がするよ。
実際に体温上がってるかな? オーバーヒート、ではないけど。
「ボッ、ジブンを、そんな目で見るなっ、」
ハハハ、見えないよ。
これにて、プリン騒動一件落着だね。
——————もきゅもきゅ、
「やあ、セイントレディ、休憩かい? どうにも今、華麗にプリンを盗む甘い怪盗が現れたらしいのだけど、」
————。
「ん、ああ、どうも。…………うん。もういってしまう気かな?」
——、
「…………もぐもぐ、ああ、やはりキミの作ったものは素晴らしいね。いや、正確には違うけれど、」
「しかしこれ、多いな。なんでまた、嫌がらせかい? ふむ??」




