70話
科学の町、世界の異物で構成された空間。
身構えてみたけど、思ったより刺激的なものはなかったな。
一日観光して、表面上は普通の町と大差ないって判明した。
その日の晩の、宿屋のベッドの方がよっぽどスリリングだったな、なんて。それと楽しかったかな、なんて。
まあ、良い思い出は作れたかな?
「うー、ごめんねーセシィちゃん。今日から本格的にお祭りが始まるから、ワタクシちょっと忙しいのよー、、」
そんなわけで、朝から泣いてる聖女様。
大袈裟だな、昨日も散々ベッドの中でお話ししただろうに。間にレコウ挟んで。
ごめん、身の危険を感じたんでこれが最大限の譲歩だったんだ、
朝に誰かに抱きつかれてた時は、思わず声が出そうになったよ。いや体温高かったからすぐにレコウだってはわかったけど。
……おかしいな、同じ少女の外見のはずなのにこの扱いの差は、信用してないってわけじゃないんだけどね、。
「そうか、すまんの。じゃあ我はセシィと二人で、」
「あなたもこっちよぉ、国家代表選手様。運営側で仕事があるわ」
「……じゃー、」
あ、レコウ取られた。
僕一人かよー、寒いなー。
「……やっぱりセシィちゃんも、私の身内ってことで応援しに来てくれたりとか、」
「あ、頑張ってねー。じゃあ僕も仕事がありますので、」
「ばっさりじゃー、」
「わーー、」
一人は寂しいけれど、なんだそれ、そりゃそうか。まあ好都合かな、
今の内に面倒な仕事を片しちゃおうか。
宿題は、先に済ませちゃうのが合理的ってね。君はどうだったのかな、
「……本当に、いつでも来て良いからね?」
「……待ってるじゃー、」
「レコウもすぐにそっち側に順応したね」
はは、まあ、早めに終わらせてくるよ。
そしたらお祭り? みんなで運営側もなんか、楽しいかもね。
ということでやって来ました再び科学の町。
今日は一人で気ままに探索。
この町の、裏の裏までね。
「さてと。今回は感情的なフィルターはいらないな」
町を眺める、さびれた町だ、活気がない。
向こうよりよっぽど人口が多いはずなのに、みんな下を向いて黙している。
国民性だね、声の大きいお祭り大好き達と、積み重ねた平穏優先達。二つに分けても変わらない、むしろより差が生じたかな。
「人の目、うん、誰も見てこない、」
楽だ。やっぱり僕は、こっちの町の方が似合ってる気がするな。
僕が何もしなくても、まるでここに誰かなんていないみたい、便利だね。
誰もがまるで、僕と同じになったかのよう。
「でもそれ故に、派手に調査するなら目立っちゃうかもね」
顔のない人々、僕はただでさえ覚える気がないからね、本当に思い出として残らない。
何か服装も似たり寄ったりの効率重視だし、手持ちもみんな同じもの。
金属の板と、それから携帯性に優れた魔弾の杖。弾が別売りでグリップが付いてるやつね。ハンドタイプ?
おかしなことに、ちょうど僕も同じセット持ってるや。
変装に適した地味な服に、ヒビが入ってるけど使えるらしい携帯板に、どっかの軍の印の入った科学の杖。
まるで最初から、僕もこの町の住人だったかのよう。錯覚だ、あんまり良くは、いやどうだろう。懐かしさまでは感じるのかな。
「だってここは、人間の視線は無くても」
僕の夢、君はどうだったんだろう、ここは少なくとも窮屈に感じるよ。
君は気にいるのかな、逆に気持ち悪いのかな、考えてもわからないね。
ともかく約束もある。あんまり長居はしたくない、のかも。
「ああ、喉が渇いたかな。ジュースでも買おうか、」
売ってるのかな、まあ別に聖水でも良いや、コーヒーとかあったりする?
君は結構好んで飲んでたっけ、僕は、まあ、。ブラックよりは、甘くした特別性の方が、良い思い出があるかな。
「お、光が付いた。夜に来た方がよかったかな、」
自動販売機、夜は不気味に光るのか。
この町にまだ電灯はない、電信柱も電線もね。だから夜は歪にこいつだけ光るのだろう。
この、監視カメラの搭載された、金属の箱。
「でもまあ、みんなで話す方が大切だったし、あんまり結果は変わんないし、」
わざわざこだわる必要はなかった、この一定距離で佇む箱に。
それに、ところどころ既にあったし、電気。多分そのうち、普通に夜も明るくなるかな、どうだろう。
人間の時間が広がって、夜の闇を克服して、そしてそのいく末が、
…………何だろう、僕の夢。悪いことは言ってないはずなのに、不思議と気分が死んでく気がするよ。なんでだい?
「……それも、話せばわかるかもってね、」
それじゃあ、探してみようか、夢の誰か。
自動販売機、テレビ電話、変換された電波、
見てる、聞いてる? どこかに、誰かが、
辿ってみようか、波の行く末。
その根本には、一体なにが隠されているのかな。
君も、気になるかい?
町を歩む、自然に、流れに沿って。
不自然な電気の町を、その波に乗って、ゆらゆらと。
いくつもある箱、自動機械に、隠されたいくつかのレンズ。
多少の収束地点を挟みながらも、更にそこから確かにどこかに向かっている。
「……心臓がうるさい。魔法も無しで正確に電波辿るのは、逃さないようにするのがちょっと面倒くさいな、」
ふらふらと、途中あえて曲がり道もしながら、光に群がる虫のように誘われて。
思わず空を見上げそうになる、中継地点、並び立つ杭と電気の結界はまだ無いはずなのに、不思議と確かにそれが見える。
歪だ、誰が作った、何故わざわざ隠してる、いやただの気遣いなのか、
悪意は、まだ、分からない。意思も持たない機械だから、これが完全なる魔力性だったらとっくに判別できてただろうな。
「でもいいよ。会えばわかる」
問題は、逃げられないようにすることだな。
偽装、電気信号、誰かに伝達。
僕から逃げろと伝えるより、僕が見つける方が早いと良いけど。
「…………不審な動きはまだ無い。そして、ここか」
見つけた、町の中心、電波塔。
二つに分かれた国の中心だから、だいたいまあ、何でも良いや。
金属のでっかいタワーなんてなく、精々が少し長めのアンテナ程度。まあ一つの町中ならこんなもので足りるのかな。
そして、その足元、
ではなく、そこからさらに中継された、地味で目立たない他と同じ形状をした一つの民家。
変に情報量が多く逆行している電波が無いかはきちんと観察した。
結果、間違いない、あそこが本体。最低限に何かしらの管理システムは埋まっている。
町の住人を監視して、町中の情報を使える何かが。そしてそれを使える誰かが。
さてと、どうしよう、まだただ国の中心に遊びに来た観光客だ。
とりあえず外から覗いてみるか、しかし少なくとも今の見える範囲では普通の家だ。
強いて他と違うところを探せば、地下室?
目立たない入り口、公的な管理人がいるなら、わざわざこんな隠す必要はない、
となるとやはり何かしら後ろ暗い理由があるのか。
何にせよ、真っ直ぐあの中に入るのは得策じゃ無いだろうな、何が待っているか分からない。
いや、待ってるだけならまだマシだ、それで空振りして完全に姿をくらませられる方が困る。
いっそ外から魔法を使って掌握でもしてみるか。科学の町、対抗できる魔術師は。
元魔術師の国。そして燃料に魔力を利用している、高度な技術と理論を使った町。
未知数だ、そう簡単には行かないだろう。いつだってそうだ、楽観的思考で物事が解決したことなど……、、
どうだろ、有ったっけ。
君は、どう思う、。いや、これは僕の問題だな。
相談する相手もいないや、まあいつもの事だ。
ああ、どうしよう、不安だな、おかしいな。
だって、これ。僕の、
「……まあ、考えてたってしょうがないか。どっちにしても変わんないなら、早く終わらせる方が効率的で合理的だ」
それじゃあ、行こう。
正面、まだ相手に悪意があるかは分からない。もしかしたら君の知り合いがいるかもねなんて、だったら丁寧にご挨拶しないと。
その上で、話してもくれないなら無理矢理にでも席に付かせる。うん、結局は僕の腕次第って、
見ててね、君から教わった交渉術だよ。おかげで僕は今日も生きている。素晴らしいね、信用しているよ、なら問題ない、
「では。おじゃましま、」
——プルルルッ、プルルルッ、
おっと、電話だ。
もう、ようやく一歩目を踏み出したところだったのに、タイミング悪いなあ。
ポケットにしまってあったスマホを取り出して、ポチッと。
はい、もしもし……、
ああ、何だこれ。
ひび割れた画面、誰だ、いやそれより僕は、何でこんなにスムーズに、
ここまで染まっていたのか、この町のせいだな、いやおかげかな、ははっ、。
考えない。それよりまずはこの通話の相手だ。
もう応答してしまった、電波が繋がる、その先はあの電波塔。
そして、集中、更にその先。
流石に厳しい、だがまだ電話が普及していないことが功を奏したな、
同じタイミングで反応したのはやはりこの先の民家で間違いないはずだ。常に繋がってる線だが一瞬反応が変化した。
つまり。この通話の先にいるのは、誰か、
「………………、」
声を待つ。
悪いね、返事をしてあげられなくて。
もしもし以外に、なんて返せば良いか分からない。
間違い電話だったとしても知らないよ、何せこれは拾った携帯だ。
誰のもの。だったのか、
「……………………、」
ぼそぼそと、音。
向こうにいる人物の輪郭、流石に分からないな、電子音だ。これ、正確には元の声じゃ無くてパターン化された似た音なんだっけ、
どうだったかな夢。今は違うの? 君の今は終わってしまったから、もし同じ時間が流れていたらどうなっているかは不明だね。
せめてここでくらい夢を、そうだね、話そう。
もしかしたら、この先にいるのは、君の未来の可能性すらある。
「………………。」
沈黙、何かを探っている? カメラに顔を映さなくてよかったかな。
流石に指で塞ぐのも露骨でね、
とりあえず耳元に当てて、音に集中。ポソポソと、空気の振動。ただの間違いじゃ無い、確かに向こうに誰かがいる。
呼吸音すら聞こえない、でも何かが掠れる音、
——ボッ、と、息を吸う音でも無い何か起こりの音。
来る、会話、言葉、誰か、夢。
邂逅だ、さあ、お前は何を伝えてくる。
「………………………………………………………………プリン、」
…………僕と誰かの初めての邂逅は、なんかプルプルしていました。




