69話
科学の町を行く当てもなく歩き回る。
効率的じゃないね、でもそれが良いのかな、わかんないや。
でも少なくとも、みんなは楽しそうだから、いっか。
「む、あれはなんじゃろうな、なんかボタンのついたおっきいタンスじゃ!」
「うーん、背の高い長方形。お金の投入口と、商品の取り立ち口がある、」
自販機、あったんだ。
残念、聖水は売れなそう、いや逆に乗っかればいけるかも?
プリンもいけるね。まあ投げ売りしちゃうと、プレミア感というか、せっかくの特別感が無くなっちゃうかな。
「へえ、こっちのは中の商品が直接見れるのねえ」
「自分で扉開けるタイプだ、古い、いや新しい? どうだろ、」
逆に物珍しいのかもね、君はどう思うかな。
ま、僕はそんなに面白くはないけど。何せこれ、別にそんなに難しい技術使ってないし。
この世界の技術と発想でも、そのうち似たのが作られそうだ。
「お、飯じゃ!」
「うわ、缶詰。なんか似たのを食べた記憶があるよ」
「面白いわねえ、何の意味があるのかしら、」
あれ、この世界にはこれ無かったっけ、それともわざわざ自販機で売ってる理由? どうだろ、詰め替えが面倒くさいからとか、
なんというか、全体的にしょっぱいな、味も多分。思ったよりは、発展してない?
「ふむ、お金、ここの貨幣。石とか削ったらいけるのかな、重量検知、ふむふむ、」
「ちょっと気になるけど、どうしましょうか。人のいない夜のほうが、」
「やる事は止めないんじゃな、我は中身の方が気になるが、」
いや流石にね、止めておこう。
原理はまあ大体わかるし、簡単な、ん?
お、目の前に立ったら明かりがついた。へー、これはちょっと未来的かも。これじゃ、むしろ夜の方が目立っちゃうかな。
「それにほら、監視か、目、映像届けてる。音までとってるのかな、冗談ですよーっと、」
おっと、電波出てる、リアルタイム?
明かりと同時についた、いや、どうだろ。
危ないな、変なこと話す前に気づけて、気をつけよーっと、
「使ってみるかしら、」
「いや、この国の貨幣は持ち合わせがね、」
流石にこの出稼ぎ聖女様にたかるわけには、
「そこまで貧乏じゃないわよ、」
「あはは、君からお金を借りるのは心苦しくてね、」
「もう、いいのに。私にとって、あなたとの関係はお金より重要よ〜」
「ははは、だからだよ、」
うん。悪いけど、ちょっと怖い!?
レコウー、そうだ、大会出るならファイトマネーとか出ないの? それならここの運営関係者から前貰いってことで、
「むーー、一般出場者ならともかく、私の推薦だと運営側になっちゃうから無理よ。優勝した後ならともかく、」
「ふーん。じゃあ僕は一般参加で、」
「むーーー!」
はははは、まあそもそも出場料も払えないけどね。
……え、それはただでも出れはするの、飛び入り乱戦オッケー? ふーん。
その代わり、良い席から見物料取るとか? なるほどなるほど、
「つまりどちらにせよ早急にお金を稼がねば、」
「私の横でいいじゃない?」
「……あそこ、誰かの席じゃないの?」
席が三つ、推薦しようとした選手が二人、元は誰の席だったのか、
「別に立たせときゃいいのよ、」
「うーむ。まあ、うむむむむ、」
まいっか、いま考えることじゃないね。
そうだレリア、この国の貨幣見せて、
「ええ。返さなくて良いわよ、」
「ははははは、ただより怖いものはないってね、」
見る、普通の硬貨だ、金属製。
中にアイシーチップとやらが埋め込まれてたりもしない、普通の原始的な価値を持った貴金属。……いや君のところも普通はそうだっけ。
まあ流石に、国が分かれてそんなに時間もたってないらしいからね。
いきなり全部電子化とかはされてないか。まず銀行の概念から作らないとだし。
「つまり手持ちの金属で『複製』可能っと、」
「わあ、流石ねえ、」
「……別に、金属は本物だし重量に価値があるから犯罪じゃないし、」
「え、ええ? なんで斜め向いてるの?」
うぐぅ、通貨偽造、この世界じゃ別に問題ないっけ。どうせ同量の金属使ってるなら意味ないから。
知らない間に、また君の世界に寄ってしまったかな、
……いや、こっちでも、通貨偽造は普通に問題あった気がする。
金属練り込まれた確認取れないし、税とか計算できないし、普通に大問題だったはずだ。
やっぱ単純にレリアが流石なだけかも。
「まあいいや、チャリンと、」
「おお! 面白そうじゃの、」
「なるほど、物珍しさね。集客力が高そうだわ、」
うん。その方向性もあるね、
原始的な扉式の自動販売機、流石に数字が揃ったらもう一つなんて機能はないな。
あれ、乱数機なの? 僕だったら当てられるかななんて、まあ考えても意味ないこと。
だった、はずなんだけどな、
「物珍しさで済むか、それとも生活の一部になるか。わからないね、」
「これが色んなところにあったら、いつでもご飯が食べ放題か! 便利そうじゃのー」
「どうかしら、補充も大変そうだけど、」
ふむ、薄利多売、この治安の微妙な魔法の世界じゃ厳しいかな。
君の世界はとても平和で、いや君のいる国が特別そうなのかな。わかんないね、君以外の視点がないし、
この世界で自販機商売を成立させるには、費用を抑えて色んな場所にすぐ物を送れて、
買い手が少なくても済むよう保存性に、環境に左右されないよう密封性を高めて、
後はモンスターに襲われても大丈夫なよう、頑丈さと防衛性を高める必要があるか。
そんな商売、成立させられる人はいないよね。
「どう、レコウ。おいしい?」
「むぐぐ、んー、まー、普通? じゃ、」
そう、まあ見るからに保存重視でしょっぱそうだからね。
良さそうだったらアレンにも送ってみたのに、まあいっか。
まだまだ時間止めといたご飯は残ってるからね、でもそろそろまた大量に送っとかないと。いつ出来なくなるかわからないし、
「いや、科学。いっそもう全自動で、それもありか、」
「……お店出すなら、ぜひ第一号は私の国に欲しいわね??」
うん。後でシステム足しとこっと。
いつ何が起きても大丈夫なようにね。
「ほいセシィ、」
「もぐぅ。うん、つい最近に食べ親しんだ味」
もしかしてこれも銃と一緒に流出してたか?
「あーん、良いわねえ、」
「……はい、レリア、」
「あ〜んっ♡ きゃ〜〜〜♪」
……うん。喜んでもらえたら何よりです?
え? 間接キッス? いや別に、これくらいこの世界じゃ普通のことだし、君の世界と曖昧になろうが流石にそんな騒ぐことじゃ。
ん、いやこれは僕が食生活死んでるだけで、貴族的には普通にアウトか?
……知らね、そもそも仮にも女同士なんだから何してもって、君の世界ではそれも普通に、ってあーもう、
「……はいセシィちゃん、」
「もぐぐぅ!? ……うん、何回食べても感想が浮かばない味、」
「そうねえ。でもこうして同じものを共有してるだけでも、楽しいわよ?」
同じ、食器、
……もう考えないようにしよう。思ったより浮かんじゃうかも、これも科学の影響か?
まあいいや、観光続けよう。
今だけは、楽しい時間だからね。
町を歩く。
二人に手を引かれて、ああ、良いね。
「お、ここはなんの店かの、おもちゃ屋さんか?」
「あー……、それはねえ、」
「…………げ、」
銃火器、なんで普通に売ってる店があるんだよ、
というかレコウ? 普通に酷く使ってるとこ見てたんじゃ?
「おう! 光と音が出るおもちゃじゃろ?」
「これは銃と言ってねえ、この国が二分された原因であって……。まああなたにとってはおもちゃね、」
「確かに、レコウにとってはそうだった、」
それにこれ、そんなに品質良くないな。
原産国なのに、魔族のところにあった方がよっぽど性能上だな。
なんだろう、軍事用と民間用の差か、それともちゃんとした店に行けばもっと良いもの。いや悪いものがあるのかな。
君には悪いけど、やっぱり僕はこれ嫌いだよ。
弱者でも使える力、本来は僕らこそ喜ぶべき物のはずなのかな、どうだろう。
少なくともこの五感は、負の側面ばかりを見すぎてる。
「……いるかしら、」
「いやいいよ、高いだろうし……、」
……うわ、意外とリーズナブル、逆にやだな。
これ一発の値段と、これに該当する剣技を一発放てる人を育てる値段。
ま、どっちが高いかは知らないけど、どっちがお手軽かは考えるまでもないかもね。
「くるくるー、ステッキみたいじゃのー、」
「まあ魔法の杖というには、危険すぎるけど……、」
「もう、振り回したら危ないわよ?」
弾は入ってないから大丈夫でしょ。
しかし、こんなものを簡単に作って使えるなんて、科学とはなんと恐ろしい……、
この少し長めの棒一つで、一体どれだけの人を害せる砲撃が、
「……ん? いやでも所詮は弾の数までかか、」
そういえば、どこぞには杖からもはや繋がってレーザーに見えるレベルの弾丸飛ばす子も、それを適当に作っちゃえる人もいたっけ、
「ま、おもちゃじゃの、」
「おもちゃねえ、」
「うん。やっぱり、魔法の方がよっぽどえげつないわ」
あはは、もう、君のせいかな、
結局のところは心持ち次第、銃なんかよりも急にその手で殴りかかっられる方が、よっぽど怖くて理不尽なのに。
そしてそれ以上に、そんなもの簡単に覆せる、魔法。
なるほど、そりゃこの世界に本来なら銃なんて生まれないわけだ。必要ない。
やっぱりこれは、世界の異物だ。
「別のところ行こっか、電気屋さんとか、」
「雷って、売り物になるのかしら?」
む、ここのは似てても燃料は魔力のままだったな。
一部は、わざわざ一度電気に変換してたのもあったけど、さっきの自販機とか。
となると魔力屋さん? んー、魔道具でも売ってるの?
いやまあ科学と言いつつ燃料が魔力だから、結局はそれであってるのか??
わからん、ま、行ってみよう。
「雷かー、むー、ゴロゴロ〜」
「おへそは取られないよ、」
「あらその迷信って、うちだけじゃないのね、」
そうだね、
結局のところ、世界が変わっても、人の発想は大して変わんないのかも。
何故だろうね、さあ、神様でもいるのかな、なんて。
それこそ迷信か。




