58話
「みんな、聞いてくれ!!」
中央、なるべく人がいる場所で、大声で、
たどり着いたはいいけれど、そもそも話し始める前に行動に移す奴が多すぎて大変だ、
僕もう寝かしつけた数、指じゃ数えきれないよ?
「確かに敵は強大だ、魔王一人の力では勝てないかもしれない。だがそれでおいそれと諦めるのか‼︎」
そもそも普通に考えて、戦場を全て念入りに破壊し尽くすような奴だ、
降伏した程度で、見逃してもらえると思っているのか。
みすみす最大戦力を差し出した後で、まとめて殺されるとは考えなかったのか。
まったく、合理的じゃない連中だよ。
「共に戦ってくれ。前に出なくてもいい、ただ協力してくれるだけでいいんだ!」
少女が、叫ぶ。
とりあえずツノは付け直したけど、服装に威厳もないし、身長も低いまま、
それでも、力強く、この国の象徴として。
「みんな、魔王に、エンゼに、力を貸してくれ!!」
そんな姿、僕だったら合理的とか投げ捨てて協力しちゃうね、
きっと、まともな大人なら、そうするさ。
エンゼちゃん、いま魔力少なくて、いつもより元気がないんだよね。
見た目は、完全に、ただの幼女。
そんな姿で、どれだけついてきてくれるんだろう。
きっとゼロでは無いはずだ、
なら、それでいい。
「…………把握した。きちんと聞いてた人、それ以外の奴。悪いねエンゼ、僕は最初から、」
一人の少女の声で、思想が統一されるなんて夢物語だ。
僕は最初から、行動で示すつもりだよ。
「っ、みんな、」
「大丈夫、届いた相手はちゃんといる。だから、それ以外は気にするな。君は、どうどうとしていればいい」
「……わかった、」
叫ぶ、
——そんな、しんじ ゴペェ!?
邪魔だ。
きっと僕らがもっとまともなら、言葉だけで世界を変えられたんだろう。
でもね、そんな余裕ない。
そんな、奇跡に縋ってる時間があるなら、僕は必然を起こし続ける。
「聞け! 魔王の意思は決まった!! 異を唱える奴は、全員かかって来い!!!」
「みんな、聞いてくれ! エンゼは、負けない!!」
さて、君がみんなを説得するのと、僕が全員沈めるの、
どっちが早いか競走しようか。
僕は最初から、君以外信じてない。
中央、人が並んでいく。
僕が寝かせて頭を沈めたの、
彼女が説得して首を垂れたの、
うん、負けたよ、エンゼちゃん。
「…………予想外だ、思ったより多い、」
「ああ、エンゼの、自慢の部下たちだ、」
暴動は収めた、
だからやっと、スタートライン。
これから、真の敵に備える時間だ。
「それで、君の同僚の奴は?」
「いない。少しはいるが、」
エンゼが話しかける。
……ふむ、ここにいるのは戦力を持たない、内政に従事している上役が殆ど。
いま必要なのは、防衛設備の起動の権限を持つやつ。
「本来なら、全体の半分の可決で問題ないはずだった、」
「今はダメなの?」
「武力権限は武力担当に、代わりにほぼ全員の可決が必要。……その方が、エンゼの発言力が高くなったから」
「裏目だね、」
ちっ、その武力担当のやつらはどこにいるんだ。
……これだけ暴動があって、まさかもう城内にはいない?
確かに、ここは真っ先に狙われる場所、まさか逃げたんじゃ、
「外か? まだそう遠くには行ってないはず、」
もうとっくに日は落ちて、残りはどれだけ時間があるのか。
くそ、もういいか。いないならいないで、無理やり動かしてやる。
邪魔してくる奴は、無視だ、
「一度装置の場所まで戻ろう。強引にできる範囲でやる、」
「……しょうがない。エンゼも手伝う
————グジャッーーーーーーーーッ‼︎‼︎‼︎‼︎
地震だ。
こういう時、君は机の下とかに隠れるらしいね、普段から訓練を欠かしてないなんて流石だよ。
でも僕は、隠れてる余裕なんてない、
「っ、なんだ、これ。隕石でも落ちた、」
「まちのそと、戦場のと同じだ!!」
はあ!?
これ、くそ、明日までじゃなかったのか、
いや、既に明日なのか!? そんな屁理屈、ふざけるな!!
「まち、そと、だれかいたの、」
「逃げた奴か? 容赦のない、」
既に逃走してる奴、城から少し離れていた僕には声が届かなかった、つまりこんな迅速に動けたのは軍の関係者。
確かに職務放棄者の集まりだろう。だとしても、その中には直接関係のない非戦闘員だっていくらでも、
「にっ、もうじかんなの!?」
「威嚇、だといいけどね。もしかしたら、ここもあんな風に予告なく、」
というか、そっちの方が合理的だ。
なるべく多くを殺したいなら、わざわざ前もって攻撃を宣言するなど、
「っ、みんな、城の外に避難して!!」
「……時間、無いか。エンゼも一緒に行って!」
「そうちは!」
「僕一人で走って収納してきた方が早い!」
周りの基盤ごと、なんなら部屋ごとひっぺがしてくれば、問題なく動く、
今はエンゼの移動速度に合わせてる時間すら惜しい!
「う、に、待ってる、はやくきて!!」
「了解、魔王様!!」
……誰もいない廊下を走る、走る、
さっきの攻撃、空気の流れからして、上から何かが降ってきていた。
空、誰か、そうか、
相手は、最初からずっと、僕らのことを見ていたんだ。
今も、じっと、無機質に、、
空間、悠長に国全体掌握してる暇なんて、あるのか?
「……せめて、被害は城周辺だけだといいんだけどね、」
はあ、エンゼにああ言った手前で申し訳ないんだけど、僕もそんなに走るの速くないんだ。
くそ、もどかしい、こんな時に誰かいてくれれば、僕を背負ってもびくともしない友達が側にいてくれれば、
ああ、僕は、もう一度君の声を聞く前に、死ぬかもね。
外、魔族たちは、広場に出ていた。
正確にはその周り、隠れるように。
中央に、少女を一人残して。
「エンゼ! これ、どういう状態?」
残して逃げることはせず、でも巻き込まれないように、
誰もが、矢面には立てず、ただ国の行く末を見守っている。
「……いる。もううえ、みえた、」
「っ、暗いな、僕じゃ見えない、」
遠い、空気の流れ、集中してもギリギリで人型がいることくらいしか、
せめて魔法を使えば、そんな事をすれば、すぐにでも始まるだろう。
魔力を感じる、
何か来る、
言っていた、悍ましい、
「こえ、まただ、」
(矮小なる魔族ども、約束の時だ。貴様らの選択は決まったか)
低く、荘厳で、恐ろしい、
空気の振動だけで、こんなにも変えられるものなのか、
周りの世界が震えあがる、
(我は、貴様らの愚かな戦争という行いが気に触った。よって、これは報いだ。覚えておけ、)
脅すように、
威嚇するように、
でも周囲の誰もそれが嘘だと思えない、
(次はない、逃げられると思うな、我は常に貴様らを監視している)
空から、降りてくる、
闇に溶けるような蒼、
本当に全てを壊してしまいそうな力、
(では、終わらせようか、)
大きな翼をはためかせ、
小さな体を風にさらして、
そして手には何よりも頑丈な猛獣を模した物、
(終幕、じゃ。)
…………………………、
…………………………、
…………………………、
…………………………はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……………………、(超でかため息)
「にっ、セシィ! くる!!」
「あー、うん、そだねーー、」
闇夜に溶ける蒼髪、
そしてそれ以外に見覚えがありすぎる。
何その色、それだけで変装のつもり?
というか、声変わってたけど、聞いた瞬間にわかったよ??
そして極め付けは、なんでこの登場なのに僕があげたぬいぐるみ持ったままなの!?
カッコつかないでしょ!?!?
「なにやってんのレコウ!?!?!?」
(あれ、セシィ!? なんでここに、というか名前!! しぃーーじゃ!!)
「にっ、せ、セシィ!? ど、どうした!」
「いや、その、えっとねー……、」
………………なんだこれ。
……聞いてみてわかったが、これ前にも使ってたドラゴン状態でも話せるようにする魔法か。
指向性を持たせて一人にだけ話しかけるとか、ボイスチェンジャー機能とか、そんな器用な事もできたんだね……、
(…………ごほん。まあそういう事じゃセシィ。わかったかの?)
勝手に一人で話しかけて、というか僕から返事できないじゃん、どうすんのこれ。
「なにか、知っているやつなのか?」
「いや、まったく、なにもわからないね。とんでもなく、強そうなやつとしかね、」
うん。とりあえず、他人のふり!
もういいよ、しょうがない、演技してやる。
(……あー、それでセシィ。魔王とやらは誰なのじゃ、)
「でも、抗うしかないよね、魔王様!」
「ああ。エンゼは、もう逃げない!」
(その子なのかじゃ!? うわー、小さいのー。これは、申し訳ないじゃ。怖がらせてしまうのー、)
「何があっても、僕らなら大丈夫だ、」
「エンゼの本気、見せてやる!!」
(しょうがないの。まあ、約束じゃから、)
「それじゃ、壊させてもらうぞ、」
空、何かが落ちてくる。
隕石、いやそんな生優しい物じゃない、
あれは、世界のカケラだ、
「まず一つ、」
質量を持った魔力の塊、
僕でさえ使える、簡単な魔法、
その正体は、
「失土の大海、『水龍の煉渦』」
ああそうか、やけに暗いと思ったら、
これ、空、全て覆い尽くしてるんだ、
あはは、僕、海をこんな形で見るの初めてだよ。
「……火龍じゃ、なかったの?」
(それは、禁止されたからの)
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思わず、耳を塞ぐ。
堕ちた空が、全てを抉り取って、
そこには、なにも、なかった。
エンゼ。僕らが共に過ごした部屋も、共に戦った部屋も、共に競った部屋も、共に笑った部屋も、何もかも。
全て、竜の一息で吹き飛ばされて、消えたよ、
「うむ、問題ないな。……さて、じゃあ、次。終わらせようか、魔王とやら」




