52話
戦争は、集団の殺し合いだ。
きっと一つが世界を壊せるなら、こんなものはないんだろう。
それも、悪くないかもね。
「……今のところ、例のは出てない、」
「そう。やっぱり消耗はするのかな、本当に一度限りの何かだったりすればいいけど」
今日の魔王の仕事を終え、司令官としての仕事を待ち侘びる。
報告の声は、まだ来ない。
「他の前線はどうなってるの。その強い奴以外も、自由になった相手の部隊がいるんでしょ」
前線は壊滅、
普通に考えたら、たとえそれが一回限りの秘密兵器でも、もうこの国は詰みかけている。
「……わからない。おかしな話だが、何故か今のところ敵の数も少ないらしい」
「ふむ? ……じゃあ例えば、あれが命と引き換えに使用できる博打技だったとか?」
「そんなもの、……どうだろう。エンゼは、なにもわからない」
わからない事だらけ、でも何故か、まだ戦争はできているらしい。
僕は、どう動く、
「……流石に、他の戦場まで面倒見るのは違うか。僕がやるのは、その何かの迎撃、」
それだけ強いとしたら、もしかしたらアレンの邪魔になる可能性もある。
そうだ、あの国は、この戦争が終わったら人間と戦うつもりなんだ。
それはどうでもいいが、つまりアレンと。
アレンのため、強者の情報は重要だ。
僕には、悪いけど、妹の頼みよりね。
「なにか、外見だけでもわかってないの?」
「要領を得ない。それどころか遠くから攻撃されたと言う報告も、接近して暴れまわったという報告もある」
「強い奴なら、どっちもやりうるよ。他には?」
報告書、多分遠目から見ただけか、下手すりゃ現場から間接的に調べただけの可能性もあるな。
どうだろう、皆殺しにするほど執念深い奴なのか。
「……近くの監視は破壊されていた。それなりに距離があったものも」
「魔法? 徹底してるね」
「いや、なら、こんなものはない。何故かこの報告は届いた、」
「考えられるとしたら、やっぱり威嚇目的?」
このエンゼちゃんの様に、自分を大きく見せてるか、
だとしたら、底が知れて多少は安心できるんだけど。
「それから、これはあまり、信用度は高くないんだが、」
「なに?」
「全員の動きが、いつもより鈍かったらしい。まるでそいつが強いのではなく、周りが全て弱くなった様な、」
……敵の英雄の正体は、大規模なデバフ攻撃? だとしたら、その一人の相手っていうのも、ただのプロパガンダでやっぱり複数人、
「違う。言っただろ、これは信用度が高くない」
「うん。でも、可能性はあるんじゃ、」
「全員だ、全員。敵も、味方も、関係なく。そんな事、あるわけない」
「……なるほど、」
どうだろ、無くはないんじゃないか。
もしそれが本当だとしたら、おいそれと戦場に出せないのも納得できる。
特別な一人は、いたのか、いなかったのか。
どちらにせよ、その情報を知っていたあっちの国の方が有利だ。
「ともかくこっちにできる事は、そいつが見つかるまで待機しかないね。幸いにも、押されたけど何故か戦線は維持できてる」
「……そうだな。それに押し込まれたって事は、ここに近づく。それだけエンゼの干渉も強くなる。そうそうこの近くまで攻め込まれる事もない」
「なるほどね、」
つまり、本質的には、この幼女さえ取られなければ完全な敗北にはならないのか。
どうやっても攻め込みきれずに、ある程度のところで交渉で終了。有利な方が利を得る。
確かに、それが戦争というものだ。
……でも、僕なら、それで納得できるか。
もし、本当に、魔王より強い個人なんていて、そいつが戦場から消えて狙うとしたら……、
なにか、よくない予感がするかも。
「……ふぅ、考えてもしょうがないか。コーヒー……、いや、昨日のやつでも入れる?」
「え! 飲みたい!!」
「せっかくならおやつも、プリンでも作るか、」
「にゃ〜〜、わぁーい」
可愛い。
これは、誰の感情だろうね。
でもまあ、僕としても、客観的に見て可愛いし、こんな子を殺させるわけにはいかないとは思えるよ。きっとね、
「もきゅもきゅもきゅ、にゅ〜〜、」
「……ずっとこれなら、いいんだけどね、」
「——あ、そうだ。一つ、手がかりがあった」
「反復横跳び。大変だぁ、」
キリッとしたまま、手にはスプーン。
次の一口を食べたくて、プルプルしてる、
しょうがないので一度コーヒー、あ、これでもへにゃっとした。
「むにゅむにゅ、ごほん。そうだ、報告しに来た部下に、もっと話を聞くんだった。色々と慌ただしいのと重なったから、すっかり忘れてた」
「あー、ごめんね?」
「セシィは悪くない、後であいつら覚えておけよ、」
あはは、まあ内部粛清は、僕の関与するところじゃないね。
「でも、あくまでその人も間接的に情報を受け取っただけでしょ。何か知ってるかな、」
「聞くしかない。それに、この資料には、重大な情報が欠けている」
「足りないものだらけだけどね。なに?」
……うん、思い当たる節はあるな、あれか。
なにせ僕は、情報は自分で集めるもので、他人に報告してもらったことなんて無いからね。この視点は新鮮だ、慣れてない。
「観測者は、誰か。確実にわかるはずだ、なのにない。まったく、誰だこんないい加減なことをしたのは、」
「うっかりかな、それとも、」
「ともかく、今日中に行く、」
「オッケー、魔王様」
さて、じっとしてても始まらない。
僕、何もない時間は苦手なんだよね、
これは強迫性じゃないよ、きっと最近が色々あったから。
だから、残りの時間がただ過ぎるのが、勿体無いのかもね。
レコウ。君はいつ、帰ってきてくれるんだい、
「ここだ、入るぞ」
「あ、お邪魔しまーす」
報告しに来た部下のところに行きつつ、ついでに僕の顔も売っておこう。
流石にまたあんなのが起きたら、面倒すぎるからね。
「あ、ま、魔王様! えっと、なんの、」
「わかっているだろ? この報告についてだ、詳しく聞かせろ」
「は、はい!」
うーん、びびってる。
外見はどうあれ、やっぱり魔王のネームバリューは凄いらしい。
実際、ここにいるのが参謀タイプなのを加味しても、ここにいる魔族全員よりエンゼ一人の方が強いくらいだからね。
話す、正直、目新しい情報はない。
時間の無駄だ、さっさと進めよう、
「……そうだな。——もういい! 先に答えろ。この報告書を、この惨状を目撃したのは誰だ、何故書いてない」
「え、いや、そんなことは、魔王様が気になさる事では、」
「ほう?! おまえ、この魔王に口出しをする気か。なるほど、そんなにこの報告に胸を痛めているのか。よろしい、今日にでも最前線に送ってやろう」
「い、いえ! そんな事は!!」
……それだと、味方の死に胸を痛めてないことにならない?
まったく、否定と肯定、うまく混ぜるのが大事だってのに。マジで前線送った方が有意義な無能では?
「早くしろ。魔王は気が長くない」
「は、はっ、! ……ぇえっと、それが、ですね、」
魔力が漏れる、威圧が濃くなる。
気持ちはわかるけど、これ以上やるとマジで気絶とかするかもよ。
そうなったら、廃人にしてでも情報抜いてやるけど。
「こ、子供、らしいのです」
「……少年兵か? ここには派遣していなかったはずだが……、」
「……そ、その。現場の指揮官が連れ込んだ。…………女性の、志願兵らしく、」
……あーあ、なるほど、
そりゃ、報告書にも書きづらいわけだね。
しかし、他の大人の兵がいる中、その子がわざわざ報告。
つまり、他は全て、死んだか?
「何故だ、」
「ぁ、わかりわませんっ。何故か、自分だけが生き残ったと、」
「身元はわかっているのか、」
「それが、スラムの出身らしく、なにも……、」
……まあそれは、しょうがないか。
…………にしてもこの報告書、その子だけのを元にしたにしては、情報がしっかりしてるな。
なんだ、いやあそこの人間は意外と強かでもおかしくはないが、
「それで、そいつは、どこだ?」
「こ、ここ、城内か近く。のはずです、」
「詳しくは知らないのか?」
「はいっ、自分は、報告を受けただけなので、」
めんどう、探さないといけないのか。
少なくともこの町の中なら、まだマシか?
「どんな奴だ、」
「それも、自分は直接は、」
「じゃあ直接聞いた奴は誰だ、」
「わかりません、」
「くそ、どこから来た報告書だこれは!」
……やはり、集団って不便だな。
これならいっそ、僕一人でスラムの女の子の中から探した方が早いか、
今日中、いける? いや既に寝ている可能性。そんなの気にするものでもないが、片っ端から起こして回るのも、
「ちっ、行くぞっ、」
「わかりましたか?」
「いや、ダメ。さらにいくつか回されてる可能性がある。……エンゼの耳に入らない様にしたか、」
「……だとしたら、無駄だったけどね」
今日中、諦めて明日に回すか。
まあ、前進してはいる。
タイムリミット、いつだ、あるのか、それすらわからない。
なんだ、この異様な、不快感は。
……戦場の空気が、変わっていく。
終わりの時は、近いのかもしれない。
……………………。
路地裏、ここは町の肥溜め、国の底。
だけど、底の底じゃない、まだ浅い、
「ちっ、なんなんだあいつは! 俺の魔王様に、クソっ!!」
そんなところに、荒れた男が一人。
多分ロリコン、でクズ。
「くそっ、何であの店もやってねえんだよ!!」
誰かが壊したらしい、何故か黄金が投げ込まれていた店を思ったか、さらに荒れて町を行く。
男は、何か目的があるのか無いのか、薄暗い町の裏を歩く。
「……しかしなんだ、このいい匂い。ここら辺に店は……、」
目が合う。
男と女、小さな少女だ。
どこから手に入れたのか美味しそうな料理を持って、驚いている。
まさか、ここに人が来るとは思わなかったんだろう。しかも服装を見るに軍人の男、
次第に、表情が恐怖に、
「あ、あの、軍人さんですか?」
………………、
「えっと、今日は、ありが
——ゴスっ、
その言葉が、最後まで紡がれる事はなかった。
怯えて、それでも歩み寄ろうとしていた小さな笑顔は、踏み躙られた。
少女に、
美味しそうなご飯が地面に広がって、
………………もういいか、
「あの、すみません。うちの子が失礼してしまったようで。ワタシが代わりに謝りますので、どうか」
別の、ダレかが、話しかけた。
少女は驚いた表情をしているが、すぐに察して離れていった。
賢い子だ。
「あ? 何だお前……、」
推定ロリコンが割って入ったダレかを見る。
初めは怒りしか浮かんでいなかった表情が、次第に下卑た笑顔を浮かべてくる。
「……ほう。悪くねえな。謝るっていうのは、どういうことかわかってるのか?」
男の目が、豊満な二つの肉風船の境目に注がれる。
気持ち悪い。
「…………ッ、わかりました。でもせめて、こっちの奥に、」
「ちっ、しょうがねーなー。感謝しろよ、」
男と。二人が、人気のない路地裏の、さらに人気のない場所に行く。
女を見る用の視線が、何度も膨らんだ部分を舐め回す。
…………、
「さて、もういいだろ!!」
「ッ、ヒッ、。……そう、ですね」
男が近づく、覆い被さる。
臭い匂いだ、嗅ぎ慣れた匂いだ、どこも変わらない。
「最後に、一つだけ、聞いていいですか、」
「ああ? なんだ?」
「アナタは、偉い人ですか?」
男と、目を合わせる。
相変わらず慣れもしない、その姿がそこに、
「そりゃな! なにせ俺は、俺の魔王様の右腕だぜ!! そして将来的には、くひひ、」
ッ、ヒッ、
「そう。それは、ヨカッタ」
「それじゃあ早速/ /愉しませてもら、あ??
『反抗の剣』
ッ、ヒッ、
「ヒヒッ、」
「ヒャ、ヒャハハハーーッ!! タイショークビゲットー!!!」
「アーア、大した事ネーナー、」
「ヤッパ、オレが狙うのは一つ、魔王とやらの首ダヨナ‼︎」
「マッテロヨー、スグ終わらせて迎えに行くからヨー。早く一緒にゼンブオワラセヨウゼ」
ヤクソク、だからな、セシィ。




