51話
魔王様の城下観光も終えて、いや観光してたのは僕か、
午後から仕事、世知辛いじゃーって、レコウがいたら言ってくれるかな。
さてさて、書類。こっちからは一方的に送れるけど、向こうからは来ないんだよね。
部屋に入られるより、先に重要なのは受け取っておくか。
「っキサマ! こんなとこにいたのか!!」
ん、誰、いや知識にはあるな。
というかその呼び方やめろ、被る。
まあでも、僕はそうは呼ばれないけどね、えへへ。
「えっと、隊長?」
そういやこいつも、僕らと一緒に来てたんだよね。
僕の、班の手柄、こいつにもいくんだろうな、ちっ。
なのになんで怒ってんだよ、ムカつくな。
「勝手にいなくなりやがって、覚悟はいいんだろうな!?」
……は?
なに言ってんだこいつ、
「はぁ、僕は魔王様の補佐官として常に共に行動していましたが。勝手な行動など、」
「なにをふざけたことを言っている! 魔王だ? キサマ、もう容赦はできんぞ、」
「えー?」
いや、あの、えなにこいつ話聞いてないの?
どんだけ無能なんだよこの下っ端が、
……ん? あもしかして、まだ僕のことって全員に知られてない?
確かに、よく考えたら昨日の今日の話だし、エンゼもろくに報告とかしてなかったかも。
あー、うん。とりあえず、エンゼの元に行けばなんとかなるかなー、
というわけで、お、あぶね! 殴んな、
また事故にするところだったぞ、
いやしても良かったか? でも流石にこう何回も隊長が変わったら、副君たちも混乱しちゃうか、
それに、エンゼの仕事、つまりは僕の仕事も増えそう。なんだこいつ、存在そのものが面倒臭いな。
「だから、魔王様に会ってもらえれば、」
「まだ言うか! 本当に死にたいようだな‼︎」
もー、うるさいなー。
ほら、騒ぎを聞きつけて他の人達まで来ちゃったよ?
みんな説明してやんなよ、僕これ悪くないって、もう行くから書類ちょうだい?
って、あら?
何で君たち僕のほう囲むの??
ちょお前、触んな、本当に不幸なことにするぞ。
なに、僕連行されるの?
はー無能ども。流石にこいつら全員つぶしたら、仕事が増えるかなー、
はいはい、大人しく付いていて行くから、本当に触るな死にたいの?
とりあえずエンゼに連絡、いや無駄に心配かけるか? さっさと帰ればいっかー、
僕別に、悪いことしてないもーん。
一応、多分、心境的には、無能の考えなんて知らないし。
てこてこ、地下。
なにここ、独房?
こんなとこまで来ちゃったよ、やっぱ途中で帰れば良かった。
「っ!」
「おっと、」
「キサマ! 避けるな!!」
無理をおっしゃる、殴りかかっておいて。
しかしこれ、なんだこれ?
罰則? 教育? 集団リンチ?? 軍紀的にどうなん? いやそもそも僕って正式な軍人なのか???
違ったら民間人なんだけど、いやそもそも僕は民じゃねえや、不法入国者。なんか文句言いづらくなっちゃうだろ。
「っ、おら!」
ゴスっ、
「うぐー、」
服に触れさせて痛がる演技、壁を使って衝撃を再現、うーん完璧。
久しぶりにやったよ、せっかくだから復習にでも利用してやるか。
おっと今度は複数人?
おい抑えるなよ、それやったら本当に殺すから。
ほらほら、無抵抗風にしてやるから、打ってこーい!
「きゃー、うわー、げほー、」
顔だけ逸らして、上手いこと服の下を狙わせてっと。
これで傷が無くても誤魔化せるな、
脱がされそうになったら、色んな意味で最悪だから、流石に眠ってもらうことになるけど。
しかし、この雑魚隊長以外にも、なんかノリノリの奴いるな。
君たちは事情しってんの? それとも、理由がないのに相手を殴れちゃう奴??
ならほんと、容赦する必要あるのかな、
「ぐうっ、なんで、」
「——チッ、」
お、何だ、さっきから一番全力で殴ってきてた奴。
顔近づけて、それ以上きたら足滑らせて気絶するぞ?
「……どんな汚い真似をしたかは知らないが。お前は逃げだしたって魔王様には伝えといてやるよ」
小声、僕だけに聞こえるように、それから全力の蹴り。
あ、てめ、僕のこと知ってやがるな!?
んで、嫉妬かこのヤロー!!
……でも、ということはこいつ、他の奴よりエンゼに対して好意的ってことか?
うーん、殺しづらい。
「そして魔王様は俺のものだ!」
蹴り、ヒョイっと、もう折ってやろうかな。
敬愛じゃ無くて、これ性欲だ。ロリコンめ。
いやもしかして、あのパットに気づいてない?? でもロリコンだろ。
やっぱやっちゃっていいかも、というかこんな話してくるってことは、君僕のこと事故に見せかけて殺す気だよね。
ふふ、それなら、本当に僕は全く悪くないね。
じゃ、さよな
「っ! おまえら!! 何をやってる‼︎!」
あれ? エンゼ??
何でここいんの? 僕は連絡してないんだけど、
魔王様の横には、ああ、昨日の呼びにきてた人。
なるほど、君もあの場にいたのか。まあいい判断だよ、多分ね。
あ、変態ロリコン君が真っ先に弁明しに行った。
普通はもう無理だと思うけどね、
とはいえあの子も、連絡不足なところがあるから。
「っ、セし
「はい。セレンは大丈夫ですよ、見ての通り。魔王様?」
「あっ、ああ。……良かった」
もう、慌て過ぎだって、そんな急いで走ったらまた転ぶよ?
ほら、そんな靴、ってなんかいつもより小さいな。
わざわざ、そことって走ってきたの? もー、何やってるの。みんなに見られちゃうよ。
魔王様の真の姿を見たものは死! あるのみ!!
「本当に、問題ないんだな」
「僕はね。……どうする、やっぱここの奴ら全員消す⁇」
「っ、。……おまえが、そうしたいなら」
「え、いや、僕はどうでもいいよ」
流石に、人の身長暴いたぐらいで、普通はやんないよ。
ま、胸の方だったら、躊躇しないけど。
「……そうか、すまない。とりあえず、一度帰る」
「おまえ達! わかっただろ、二度とこいつに触れるんじゃないぞ」
おおっと虹の魔力、何が起きるのか、
とりあえず、威圧感を増してる? これがカリスマ性か、僕も真似できるかな??
誰も、口を開けない。
弁明すら、させる気がない。
魔王の威光に、逆らうものはいなかった。
シークレットブーツとかより、そっちずっとしてればいいのに、なんて。
疲れるか、いやこの過剰な装備よりマシな気が……、うん。
胸は、いるよな、どっちにしろ、威厳的に、あはは。
部屋、二人で帰ってきた。
機能以外なにもない場所だけど、むしろ僕には落ち着くな。
「本当に、大丈夫だった!? セシィ!!」「落ち着いてエンゼ。ほら、傷ひとつないよ、ほら、」
腹ぺローン、胸開くのはやめてくれ、傷がつくから。
「にっ!? あ、いや、女だったな」
「え、忘れられてたの??」
「べちゅにっ、ちょっと、驚いただけにゃし、」
この胸だからか⁇?
やっぱそれ、先払いでとりあえず一個つけようかな⁇???
「にゃっ、そうだ。ごめん、こんなことの後なんだけど緊急で仕事が、」
「ふむふむ? その書類??」
何だろうね、見てもいいけど、聞いたほうが早いか。
「前線が突破された、」
「そりゃ大変」
「それも三箇所、」
「うわぁ、まずい」
「しかも大人中心の中央戦線が!」
「…………ふむ」
中央戦線。
大人の魔族とは、戦車みたいなものだ。
銃弾を弾き、塹壕を踏み越え、一度の攻撃で遠くから何人もの相手を殺し尽くす。
それは、子供がおもちゃで撃ち殺し合う児戯ではなく、
凶悪な魔法、戦術兵器が飛び交う本物の戦場。
「どれくらいヤバいことなの?」
「一人いれば脇の戦線を無傷で突破できる味方が、十人以上死んだ。それも、一日のうちに」
「つまり、僕クラスが十人くらいと」
「その上、まだ確定してないけど、一人がそれを全てやったらしい、」
ふーん、単純計算で僕の十倍の戦闘力か、
……ヤバーイ!!?
「……流石に、魔王様より強いってことは、」
「わかんにゃい。もしかしたら、ダメかも」
「っ、」
くそ、どうすればいいこれ、
こんなに前線押されたら、大人の魔族が子供達の投入されてる戦場まで来ちゃう。
ただの銃だけで鋼鉄の塊に挑むようなもの、抵抗すらできずに全員殺される。
「……もしその僕より強い魔族がいるとしたら、どれだけ援軍を送っても無駄だ。そいつの動向はわからないの?」
「微妙。報告によると、順調に三つの中央戦線を奪ったけど、脇まで来ると引いたらしい」
「子供がいるとこ? そこまでの力があるなら一瞬だと思うけど、逆に力があり過ぎて余計な消耗になるのか、」
ということは、しっかりと疲労はするということ。
次に出て来れるまでどれくらいかかるか知らないけど、準備する時間はギリギリあるか、
もしくは、そんな小さな戦場には興味のない、傲慢な奴なのか。
「魔王に匹敵するかもしれない奴がもう一人。こういう場合って、どうしてたの?」
「降伏。魔王同士が一対二じゃ、絶対に勝てない」
「……なるほどね」
「まだ、確定情報じゃない。なにか限定的な魔導具かもしれないし、複数人でやったのを誤魔化してるのかもしれない」
でも、そのどれでもなかった場合。
お終いだ、この国は。
それこそ、都合良く、こちらにも魔王に匹敵する誰かでも見つからないと。
「……わかった。正直、中央がどうなろうと知ったことじゃないけど。少年兵がいるところまでそいつが来るようなら、僕が出る」
「——。いや、おまえに、そんな事まで頼めは、」
「僕が勝手にやる事だ。君に何かを求めているわけじゃないさ、」
「ぃ、っ、。……うん。エンゼに、おまえを止める権限はない」
命令する権利もない、なぜなら僕らは対等だから。
同じ心に差し込むものを求めた、仲間だから。
「でもまあせっかくなら、お願いされたほうがやる気はでるかも?」
「頼む! 我が国民のため、どうかおまえの力を貸してくれ!!」
おっと、頭ふりすぎてツノが刺さるところだったよ。外れてこっち飛んでくるかと思った。
うーん、求めてるのは、そういうのじゃないんだけどな。
「簡単に頭下げちゃダメ、交渉の基本は自分を強く見せる事だよ。わかってるでしょ? ほら、自分の一番の強みは、」
「……なに? エンゼに、なにも力なんて、」
そう、こんな時は、やっぱりね、
「助けてって、可愛く言ってくれたら、何でも言うこと聞いちゃうかもね。あついでにおにい、お姉ちゃんって付けたら確実」
「助けて、セシィお姉ちゃんにゃ!!」
「ぐふっ、強い、」
一瞬で強み理解したなこの幼女、やりおる。
もー、しょうがないな〜、アハハ、
この身が、何でもしてあげるよ。
なんて、
……………………。
しかし、何だろうね、これ。
僕は、こんな思考回路してないよ。
子供を可愛いと思うのも、守ろうと慈しむのも、全部僕がやるわけない滑稽な事だ。
ナンニンボクガミゴロシニシテキタキモチワルイ
なんだろうね、最近余裕があったからかな、ぐちゃぐぢゃするや。
でもまあいいよ、本当はなにが原因かわかってるし、
シスコン、。だったのは、僕じゃなくて…………。
……………………。
……………………/?
……………………。
…………まあ、いっか。
彼女の頼みを聞くのは も、やぶさかじゃないからね。
「…………セシィ、お姉ちゃん?」
「ん? ああもういいよそれ。僕は。それに拘りはないから。ただちょっと、喜ぶかなって思っただけだから」




