50話
「今日は外に行くぞ。やすみだ、つきあえ、」
魔王城のある城下町、すなわち王都。
いや違うのか、魔王の城でも王の都でもない、ただの首都。
「よく休み取れたね」
「仕事なくなったからな、午後までだ」
「うーん、世知辛い」
ついこの前に逃げ出した場所だけど、今の僕はピシッと制服きめて軍人フォーム。よく僕のサイズがあったものだ。
そもそも男装してるしね、それに記憶に残らない言動を合わせれば完璧だ。
まあ、連れが魔王様な時点で目立たないのは無理かもだけど、それはそれで隠れ蓑になるだろう。
「にしても朝から?」
「うん。せっかくだ、食堂よりも外で食べる」
「ちなみに僕はお金ないよ? 何故なら給与がまだだからね」
「……なるべく早く、なんとかする」
そう、僕らにね。
僕は、君にたかるからいいけどさ。
「……ん?」
「どうした、セシ
「はい、セレン補佐官です。魔王様」
「……ああ。了解だ」
人、軍人じゃないな。
一般市民、こんな町にいるってことは、将官の家族か何かなのか、
——あ、魔王様!
——ああ、今日も我が民は息災だな。
……お、キャーキャー言われてる。
町で出会った、大人びた口調と尊大な雰囲気の頼れるみんなの大英雄、
じゃなくて、単純にアイドルか可愛い子供を見た時の反応だなこれ。
本人は気づいているのか……、
「あれ、そっちの方は、」
「ああ、エン、魔王の、新しい補佐官だ」
あ、やっぱこっちにも話くるよな。
んー、面倒臭い。いっそ魔王ちゃんに丸投げでもいいかなー
「夜の為に、顔でえ「どうも! 魔王様の補佐官を務めさせていただいている、セレンです!! よろしくお願いしますね!!!」
おま、本当に言うなよ、その顔で言ってもギャグにしかならないんだよ!?
それどころか、僕がロリコンの汚名すら被せられそうじゃないか、なにしとんねん?!
「えっとー??」
「面白い奴だろ、だから選んだ」
「あははー、光栄ですー!」
エンゼちゃん??
後で足払いしてやろうか。
「では、僕らはこれで、」
こっそり後ろから踵を突いてやれば、彼女はたちまち歩き出す。
変な靴履いてるからね、ちょっといじってやれば自由に自然に進ませられるんだよ。
「…………誰がロリコンだ、」
「年齢的には、そう変わんないんにゃ?」
「僕のこれは発育障害だよ。というか多分、君の実年齢バレてるよ?」
「ふにゃ、そんなことない、きっと」
見る目が小動物かなんかに対してだったんだよな。
尊敬とかがないわけじゃなかったけど、まあ民には溶け込めてるようん。
「それでこれ、どこ向かってるの?」
「にゃ、この先に、軍部御用達のごはんやさんがある。そこいく、」
「ふーん、」
この方向、ご飯屋さんねえ……、
あれ? なんか凄く身に覚えのある通りだな??
「……あー、そんな早くからやってるのー⁇」
「うん。エンゼも前にいったことがある。いいみせだ、」
「ヘェーー」
いや、レストラン、なんて、いっぱいあるし。
そんな、いや、ねえ、
……そういや、馴染みっぽい軍人来てたな。
「あれぇ? しまってる! なんでぇ〜??」
「……改装中。あはは、ナラショウガナイネー」
多分、壁に穴でも空いたんでしょ、人型の。
…………あ、エンゼちゃん、ちょっとあっち向いてて、
オラァ! 黄金を喰らえェ‼︎
ヨシッ!
「いま、なんかした?」
「何も⁇ いやー、残念だねー、」
ホントニザンネンダナー、
あほら、あそこに屋台があるよ、行ってみようね! ね!!
「どこだ?」
「ほら、あの角を曲がった先の角の左」
「……においでもするの?」
いやいや、そんなドラゴンじゃないんだから、匂いで遠くの場所なんて特定できるわけないでしょ。
ほらら、そんな靴履いてたら、置いてっちゃうぞーーー、
「ほんとにあった。にゃ、」
「そりゃあるでしょ、食べる?」
何だろうね、肉?
この戦時中に朝っぱらから、ちょっと怪しいものの気もするよ。
「あー、いや、そうだな。買ってくか、」
「うん、」
「久しぶりだしな、」
なんだろ、おじいちゃん店主に話しかけて、知り合いか?
まあいいや、とりあえず朝食はなんとかなりそうだし、
しかし僕のレストラン事件って、魔王様までは知られてないのかな?
「ああ、せっかくだ。ここにあるの、全部くれ」
お? なになに、いろんな種類を食べたい感じか?
全種類コンプリート、ドラゴンもそんな趣味してたな、なんか子供っぽくて可愛い、
でも悪いけど、僕はそんなに付き合えないんだよね。あんまり多くないといいけど、
「ほら、おまえも持て、」
「何で屋台指さしてんの?」
「とりあえず、今できてるのはこれだけらしいからな」
「ふーん、百人分くらい? 意外と朝から作り置きしてあるもんだねー、」
……全部って全部かよ。
君も、もしかして真の姿はドラゴンだったりする??
「百はないだろ、精々十人分だ」
「僕換算でね、」
「それでも、二十人分くらいだろ、」
いやいや、これ結構重そうだよ、肉だし。
なんのだろ、いやまあ魔王ちゃんが信用してるし大丈夫さ。おそらく、メイビー。
「これ全部持てと?」
「エンゼも持つ、」
「ふーん? あ、魔王様の服、ここ隙間があって入りそー、」
「にぇ!? どこ入れてんの!?!?」
そりゃこっそり『収納』してんだよ。
僕の非力さ舐めんなよ、いやまあ持てないことはないけど熱そうだし。
ん、店主? 何こっち見て爆速で新しいの作ってんの?
あ、エンゼちゃんもお金出した、入れろと?
くそー、都合のいい荷物持ち扱いしやがって、今回だけなんだからね!
「にゃ! ちょうおうがた、」
「うわっ、なにそれ、超大型の肉?」
ケバブみたい、それ火通ってるの?
というか、どっから出した、
「買った!」
「持てと??」
これ、いくら魔王ちゃんの隙間だらけの服でも入らないんじゃ、
こうなったら、一番服との隙間が大きいところに入れるしかないか。
「すーぱーおにくそ〜ど!」
「にゅっ!? しんぞーねらい?!」
「入る入るいけるいける」
これが、無限の収納口だよ。
あいつらは、空間魔法なんてなくてもここから好きなものを取り出すらしい。
やはり許すまじ緑、うらやま恨めしい、
「じゃ、行こうか、」
「ほんとにいけっちゃった。にー、なんか悲しい」
「ハハハ、」
これ以上ここにいると、無限にお肉が出てきそうだからね。
しかしこんなにたくさん、本当に食べ切れるの??
肉を抱えて歩きながら、どこ向かおっか、付いてくよ。公園でもあるの?
「……おまえは、どれがいい、」
「別に、……あ、でも、毒持ちの虫は火を通した方がいいかも」
「どこ見て言った、」
「そりゃ、ここ、虫多いね」
路地裏、ここはご飯はあるけど、ご飯を食べるのには向かないかも。
何しに来たのかなー、エンゼ。
「おっ、確保っ、してしまったら食べなきゃか。他にあるのに無駄な殺生も良くないかな?」
「ほんとにやるきにゃ!?」
「そりゃ、みんなやってるよ、僕らはね」
「……っ、そうか。そうだな、」
うん、人の気配。
幼い女に、さらに幼い子供、
複数。ああ、こんなところにいたんだ。
「どうする、ケバブ屋さんでも始める?」
「なんだそれ、」
「ね。肉しかないもんね、」
でも量はいっぱいあるよ、栄養も悪くないしね。
でも、久しぶりのでこれは、ちょっと重いかもね、
「んー、店主には悪いけど、いっそのことまとめてスープにしちゃうとか?」
「肉しかないが?」
「他のは出すよ、在庫はあるんだ。賞味期限が早いからね」
「なんだそれ?」
「さあ、味なんて気にしないよね」
消費、期限ならともかく。
鍋あったかな、いいや作るか、透明な寸胴、
誰が中身が透明の寸胴だってね。
「どれくらいいる、ここが全員か?」
「いや、あっちに三人、そっちに二人、それからそれから、」
多くはない、でも決して少なくもない人数。
力がある子は戦場に行ったけど、それ以外は、
「あそこと、あの方に一人。動けないね、こっちから行くか」
「よくわかるな。じゃあ頼む、」
「んー、僕が行ってもな〜、ほら制服ピッシリ。とりあえず魔王様が呼んで来なよ」
「……そうか、そうするか、」
「ほら、その歩きにくそうな靴とか変えて、あでも代わりってあるの?」
「外せる、ほら、」
「わあ便利」
そんじゃ、僕は中心で準備してますかねー、
『放出』、各種お野菜っと。
アレン用だった気もするけど、よくよく考えたらアレンは野菜嫌いだったもんね。無駄にせずに済んだよ。
空気を『固定』して、熱は火をつけるか、いっそそのまま温度を『放出』してもいいな。
材料、材料、大量の肉と、野菜と、
うーん後は、ああミルクとか消化にいいっけ。いいやシチュー風にしたろ。
『じゃあ後は栄養えいよう、とにかく挿入。口当たりは良く、消化にいいよう予め多少バラしておくかアミノさん。って誰だっけ? ともかく匂いは抑えめ、味も程よく、水分もとらせて、整えてっと』。
「お、君たち、匂いにつられて来たのかい? しょうがないな、味見を手伝ってもらうよ。あとで他の子達も連れて来てね、おかわりをあげよう」
遠慮するな、今までの分、
いや、やめとこう、なんか。
それに過剰な摂取は逆に体に悪いよね、僕は犬してたからいいけど。
んー、なんか、保存の効くものでもあったかなー、
「うにゃ!? なんだこれ、見上げるほど巨大な白いスープが浮いてる⁇?」
「お、魔王様。うん、あの超大型肉全部使ったらこうなった。流石に全員に配っても余るかもね。どうしよっかなー、」
缶にでも詰めれば、ちょっとはもつか?
僕なら雑菌とか全排除できるし、変質しちゃう部分だけとりだすこともできるし、
僕がここにずっといて面倒を見られれば、そんな心配いらないんだけどね。
「あ、そうだ、動ける子は連れて来たが、」
「んー、全員みつかった?」
「いや、わかんない、」
「しょうがない、地図でも書くよ」
やっぱ、子供達はみんなのヒーロー魔王様に会いたいだろうからねー。
「……いや、おまえがいっても、」
「えー、なになに? ……あ、君たち、ほら並ばないの。そんなことしなくたっておりゃー! 五人同時盛りじゃー!!」
ふはは、喧嘩もしないくらい最初から全員大盛りにしてやる。
……んー、このくらいはいけるな、足りない子はまた後で配ろう。
おー? どうしたの君?
ほらあっちに混ざってきなよ、おかわりはまだまだあるから。
……ん、なに。ありがとう⁇
いいよいいよ偽善だから、お礼を言われちゃ意味ないだろ? そんなこと気にせず、自分の生存を優先しなさい。
「それ、器、なんだ?」
「空気。しかし透明だと分かりづらいね、透過設定いじって半透明にしたろ」
「……あの鍋もか、」
「うん。しかしでかく作りすぎた、僕以外取り出せない。あ、そうだ、下に蛇口みたいなのつけてみよ」
こうすれば、保存したままいい感じに配れるかも?
ついでに放射に伝導ふせいでやれば、あったかいままにもできるな。
しかし、マジで全然減らない、みんな食が細すぎる。僕よりは、流石にいないけど、
「なら後はエンゼがやる、行ってきてくれ、」
「魔王様の方が、」
「逆に緊張させてしまう」
「そうかな? まあしょうがないか、」
動けないくらいだもんね、そんな贅沢言ってられないか。
僕は傷とか治すのは得意じゃないんだけど……、まあウイルスとか取り除いて栄養入れれば、なんとかなるかなー、
なった、というかご飯食べたらピンピンしてた。
流石魔族だ、バイタリティが違う。
……だてに、今まで生き残ってきたわけじゃないね。
つまりそれより悪かった場合は、
ふふ、所詮は偽善だよ、僕が気にすることじゃない。
「うーん、一週間はもつかな、でも無限じゃない」
「まだ、材料はあるのか? 今日のも含めてエンゼが出す、また休みも作る」
「まあ、一応はね。ただそんなには」
残念ながら僕は無からは何も作り出せないのだ。
ただ他から運んでるだけ、お金も一緒、そもそも食材を買うにも限度が、
どっかに、携帯性と保存性がよく、栄養価と吸収性に優れたご飯でも余ってたらなー……、
「あ、」
「にゃ、これ、スープにつけるといい感じだ。柔らかくなっておいしい」
「クソ硬軍用ご飯‼︎ 何で持ってんの??」
「エンゼのおやつだ、減らないから」
普段からそれ手元に入れてんの?
まあいい、これ、
「……にゃ。わかった、すぐに持ってこよう」
「うん。僕なら一瞬だ、」
これは、偽善だ。
しょせんは、一時凌ぎに過ぎないのかもしれない。
でも、僕なら言えるね、
その一時をどう使うかは君たち次第だ。
選択肢がある、それはきっと、素晴らしいことだよって。




