41話
気づいたら、知らない町に着いていた。
いや、僕が、アレンに関しての記憶をなくせるわけ、
……あれ? さっきのは、アレンに関することだっけ。
違う、これは、僕の、
なんだっけ。
「ほー、なかなか広い町じゃのー、」
「……うん。いつ到着したんだっけ」
「もー、寝ぼけておるのかー? いつも通り、我が運んで来たじゃろー?」
……そうか、そうだったね。
「……でも、あんまり賑わってないのー。一応、お店はやってるようじゃが、」
「人、特に若い人が少ないね」
何でだっけ、
「……やっぱこれも、戦争のせいなんかのー?」
「ああ、そう、それ。だろうね。」
……じゃあ、今この町を利用してるのは?
……上の人。いや、別に、全員がそうなわけじゃないけど。
普通に、非戦闘員もいるはずだ、
それにそもそも魔族の町、僕が気にすることなんて。
「それじゃ、まずは、」
「魔王とやらに、」
「ご飯じゃーー!!」
……ああ、そうか。
気づいたら、もうお昼か。
なんだか、随分と早い気がするな。
「……お店、入るの?」
「気にならんのか??」
……うーん、ここをアレンが利用することは、流石にないだろうからな。
でも、まあ、レコウが行ってみたいなら、行こうか。
レストラン。
魔族の、
不思議な事に、ここは僕がいた人間の国よりも綺麗な気がする。
なんだろう、技術にすごい差があるわけじゃないけど、時代が進んでいるという感じ、
つまり、僕の夢に、近い。
「こっからここまで、全部持ってくるのじゃーー!!」
何やってるんだろう。
でも、楽しそうだね、ならいいか。
「おー、いい感じになったのー。悪くないじゃ!!」
うーん、圧巻。
なんていうか、見た目を気にしてる?
量より質、学園で出てたのに近いか??
……いや思えば、あそこのはこれより豪勢だったな。
そしてこの量に近いものを僕一人に盛られていた。流石に今の方が多いけど。
「……ん、これ、ドリンク? アルコールじゃん、適当に頼むから、」
「グビグビプハー! じゃ、」
「……いや、まあ、別に、問題ないのか、」
そもそも僕って、こっちの世界でお酒飲めたっけ。
夢だとまだまだだったから、なんか変な気持ちになるな。
いやまあ、お酒ぐらい、今さら飲んでも問題ないけど。
「ね、レコウ?」
「お〜、のじゃ〜〜??」
「うそぉ??」
なんでこの子、自信満々にいったの??
「うぐ〜、今の体のこと、忘れとったのじゃ〜〜」
「あー、もう、なにやってるの、」
えーっとー、横になるー?
流石に僕も、アルコールの分解の為だけに魔法を使いたくはないよ?
うーん、膝枕するスペースもないな、しょうがない、とりあえず店を出て、
「猟犬スピリット、おのこし厳禁、」
でもこの量は無理よ。
しょうがない、隙を見て収納……、
…………ん?
……あー、この辺、なんか誰かのアンテナ貼ってあるな。
レリアの結界に近い、阻害する効果はないけど、なんだ?
…………あの町の中央からか、多分魔王城ってやつ?
という事は、これ、
まあ、バレないように慎重にすればいけるか。
集中して、しまうところを見られないように、他人の知覚に気を配って、
「おい! 俺の酒がないとはどういうことだ!?」
「すいません、あちらのお客様に出してしまったもので最後なんです」
うるさい、
あ、こっちみてる、レコウ本当になに頼んじゃったの?
いや、どちらにしろ僕らには関係ないな、だからこっち来んなよ。
いいだろ、僕らの勝手だろ?
こんな子供二人の席に大量の料理と酒が置いてあったって、うわ異様。
うーん。確かに、気になる気持ちはわからんでもないかな?
「……お前。この国の住人じゃないな。旅行者か?」
おっと、話しかけられた、面倒臭い。
もー、レコウー?
「ぐじゃ〜〜……、」
うわ、潰れてる、よっわ、
なんで内臓ボロボロの僕より弱いの?
えー、どうすんのこれ、
「……えっと、それが何か?」
しょうがない、僕が対応しよう。
もう、今日だけだよ、レコウ?
「今、この国は国外からの旅行者は制限しているはずだ。向こうの間者かもしれないからな、」
「…………なるほど?」
因縁だ、しかし至極真っ当だから困る。
何か、無罪を証明できるもの、
「旅行者には、証明書の所持が義務付けられている。見せろ、」
……ほーん? 証明書? ふーん?
…………レコウ? この国はいる時、どうしたの⁇⁇
「……なぜ、あなたに見せなければならないんでしょうか」
「ちっ、お前、今ので反抗の意思ありとしていいんだぞ? ……まあいい、これを見ろ、」
え、なに、バッジ?
なにそれ、なんかの会員。
……お、僕の夢に、何か心当たりが?
…………えーっとー、似たようなのがー……、階級章??
ふむふむ、つまり、この偉そうな男の魔族は……、
「さて俺は、この都市内と監視も仕事だ。その上で聞こう、証明書は、手元にあるのか?」
こいつ、軍人かよぉ……。
うん、つんだ。
どうしよっかなー、まだ僕たちが子供の外見だからって、油断してるみたいだけど。
そもそも魔族、種族によっては大人でも小さい人もいるし、すぐ横に酒飲んでぶっ倒れて子もいる。
これはー、子供だから持ってませんじゃ、許されないかもなー、
「——あー、いまー、手元にー、あったかなー……、」
「ないなら、連行しなくてはいけないな」
「いやー、宿に帰れば、あるはずなんですけどね、」
一度時間を稼ぐ、そしてどっかから証明書とやら見つけて、パクってくるしかないか。
いや、本当に、探せばあるかもしれないから、ちょっと待ってね??
あ、掴みかかろうとするな、ついて来いっていうなら、とりあえず聞いてやるから、
「お〜、セシィ?」
「あっ、レコウ。助けて、なんかせつめ
「っ、貴様‼︎‼︎」
ゴシャッ?!??
え? レコウさん!?
いや、確かに、助けてって言ったけど、
——キャーーーー、
いや、あの、推定軍人の男、吹っ飛んでったけど、
なんでぶん殴ったの????
「あっ、っ、しまったのじゃ、」
「レコウーー!?!?」
もー! 君は人のいるところでお酒禁止ーー!!
どうすんのこれ、いやまだ、大丈夫。
レコウのことだ、凄まじい勢いで壁に吹き飛ばしたけど、めり込んでるけど、
ちゃんと、手加減して、
——息してないわーー!!!
ちょ、あ、僕に見せてみろ!?!?
……う、うん、セーフ、ちょっと心の臓器が不完全なだけ。
人も魔族も強引に上から動かし直してやれば、死にはしないさ、
よーし、おらー! 息を吹き返せー!!!
——キャー!? 蹴ったーー!?!?
すまん、手で触りたくなかった。
しかし外傷も酷い。いや、死ぬほどじゃないけど、明らかにやりすぎた、
レコウ、これ、魔族じゃなかったら死んでたよ??
「…………あー、ダメか、じゃー、」
「いや、僕はまあスッキリしたからいいけど。これ逃げた方がいいかも、」
流石に収拾がつかない。
しょうがない、諦めて外に、いや料理。
もったいない、でも注目されすぎてる、しかたない他の人に食べてもらって、いや普通に考えて捨てられる。
ぐぬぬぬぬぬ、
……どうにか、一先ずお金を払って置いといてもらって、後にでも?
……お金?
あれ、ここ、人間のお金じゃ、多分ダメだよね、
財宝で交渉、今から?
——っ、連絡しなきゃ、
裏、こっそり通報しようとしてる。
完全に扱いが凶悪テロリストだ、もう、これは、駄目かもしれないね。
「ゴーレコウ、」
「うっ、す、すまんセシィ、」
「名前……。まあいいや、それより一瞬でこれ食べてからいける??」
「え? お、おう!?」
よし、じゃあ、
————え? あ、キャーーーー、食い逃げよーーーー!!
本当にすいませんでしたーーー!!!!
…………はぁ、はぁ、なんとかなった。
町中の監視が魔法に頼っていたからね、レコウの物理的な高速移動と、僕が干渉しまくったおかげでなんとかなった。
多分、上にはバレてないくらいで済んだと思うけど、どうだろうね。
「……今度、あの店には、宝石でも放り込んでおこう」
路地裏、やっぱどこの国にもあるもんだね。
スラムには、なってない? 痕跡は……、
その人間すらも、戦争に駆り出された可能性はあるな。
「……それにしても、また男装するハメになるとはね」
僕が産まれてから、こっちの時間のほうが長いかな。
いやまあ、アレンといる時ずっとそうだったんだから、当然だけど。
「……うー、本当にごめんなのじゃー」
「もう、そんなにへこまなくても、」
それに、どうせ証明書とやらで問題があったからね、どっちにしろだよ。
「それにしても、レコウの変装はどうしよっか。レコウ、目立つからなー、」
僕だけなら人の意識の間ぬって、記憶されずに動けるけど、
二人だと、どうだろ、やろうとしたこともなかったからな。
「…………あー。じゃあ、少しの間、別行動にするかじゃ」
……え?
…………いや、なら、こんな国、さっさと出て、
「多分、どこに行っても変わんないのじゃ。ちと、浮かれすぎてしまったようでの」
は、なに言ってるの?
全然わかんないよ。
「ま、散歩に行くようなもんじゃ。その、落ち着くまでの、」
いつ、まっ、あ、
すぐ、かえっ、ちが、
「なに、収納空間を使えばいつでも会えるのじゃろ? ほら、我のことも掌握してるんじゃし、」
っ、そんなの、とっくに外したよ。
僕は、君の、重荷に、荷物になんて、
「む、誰か来とるの」
うん。そうだね、わかってる。
でも今、そんなの関係ないでしょ、
「じゃ、セシィ、ちゃんと食べて寝て、健康にじゃぞー!!」
——ドラゴンは翼を広げて瞬く間もなく飛び上がる。
っ、あ、うそ、待って、レコウ‼︎!!
なんで、そんな、急に、
僕、いや、お願い、だよ、
や、ぁ、ダメ、また怒られちゃうな、
でもっ
「やだ! 行かないで!!」
ドラゴンの飛翔は、音速を超えた。
僕の声は、届かなかった。
……………………。
やってしまったの。
はあ、自分で言っておいて、なんたる様じゃ、
これじゃあ、セシィの事を笑えないの。
「…………だって、しょうがないのじゃ。本当に、嬉しかったんだから」
一人空を裂く。
なにも遮るものはないのに、気持ち良くない。
我の財宝はほとんど預けたまま、
でも別に、もうあんなもの、どうでもいい。
「そういや、あんまり速く飛ぶと、見つかっちゃうかもの、」
でもそれも別に、もうどうでもいいや。
手元に一つ、我だけのもの。
我が力を込めて抱いても、傷一つつかない世界に一つの宝物。
「っ、だ、ダメじゃー!? つい、にやけてしまうのじゃ、」
このままじゃ、あの子に近づいてきた敵、全て殺してしまいそう。
手加減は、苦手なんじゃ、
だから普段から気をつけないといけないのに。
「……しょうがない、落ち着くまで、そうじゃのー、」
うーんじゃ。なるべく、早くセシィの元に帰りたいんだけど、
こういう時は、全力をぶつけるに限る、
かのー?
ま、一先ず、魔王とやらでも見て回るか。




